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【小説】ある駅のジュース専門店 第40話「井田晴人の都市伝説研究」

はじめに

 昨今、SNS上で「ある駅のジュース専門店」という都市伝説が突如出現し、現在も流行が続いている。大まかな内容は「存在しないはずの駅に迷い込んだ」というもので、2004年1月8日に投稿された「きさらぎ駅」や2011年11月10日に投稿された「すたか駅」と同じように、「異界駅」のカテゴリに分類することができる。しかし、SNSやネット掲示板で囁かれている噂を確認すると、「ある駅のジュース専門店」には従来の異界駅とは異なる特徴が見られる。
 本稿では都市伝説「ある駅のジュース専門店」について、従来の異界駅と比較しながら、その特徴を明らかにしていく。

第1章 ジュースが飲める異界駅

 都市伝説「ある駅のジュース専門店」の初出は2021年8月28日、X(当時はTwitter)にて「かがり火」さんが投稿した体験談である。(その後、1年後の2022年8月28日に、おそらく大学生になったと思われる「かがり火」さんが再度この体験談を投稿している)
 当時、家と高校を電車で往復していた「かがり火」さんは、下校途中に電車の中で居眠りをし、降りる駅を乗り過ごしてしまう。電車が停車する音で目覚め慌てて降りると、そこは見知らぬ無人駅だった。スマートフォンで家族に連絡しようとするが圏外になっており通話できない。駅名を確認しても漢字のようで読めない文字が並んでいる。彼女はここが異界駅であると悟り、パニックに陥る。
 辺りを見回していると、駅の構内に一軒だけ開いている店を見つける。鮮やかなネオン看板が灯っているが、その看板の文字も駅名と同様、読むことができなかった。店の奥に呼びかけた彼女の前に一人の店員が現れ、あと40分で電車が来ると告げる。さらにこの店がジュース屋であることも判明したため、彼女は電車が来るまで店でジュースを飲んで待つことにする。
 上記は「ある駅のジュース専門店」の冒頭部分をまとめたものであるが、ここから既に、「ある駅のジュース専門店」が異界駅というカテゴリの中で一際異彩を放っていることが分かる。
 「ある駅のジュース専門店」以前から存在する異界駅の噂では、駅に降り立った者がすぐに駅から離れる、持っていた物を燃やすなどの行動をとる場面が多く見られた。「きさらぎ駅」では投稿者の「はすみ」さんが線路を歩いて帰ろうとしているし、「すたか駅」では投稿者が駅にいた子どもに案内されて駅から離れている。また、2014年12月27日に投稿された「すざく駅」では、投稿者と共に電車に乗っていた大学生の男性がライターでティッシュを燃やしたことによって現実世界に帰還している。すなわち「ある駅のジュース専門店」以前の異界駅では、投稿者やその周囲の人物が何らかのアクションを起こすことで元いた世界に戻ろうとするケースが多くの割合を占めていたのである。そこには見知らぬ駅に迷い込んだことから来る不安感、そしてそれをいち早く払拭し安心感を得たいという意図があったのだろう。
 しかし「ある駅のジュース専門店」では、投稿者は「ジュースを飲みながら電車を待つ」という行動をとっている。それは構内にジュースが飲める店があったことに加え、人気の無い異界で唯一コミュニケーションのとれる「店員」がいたことで、既に投稿者が安心感を得られていたからだと考えられる。駅から離れるのが不安からいち早く脱するための行動だとすれば、電車が来るまで駅に留まろうとするのは不安と向き合い受容する行動だといえる。このことから、この異界駅におけるジュース屋や店員の存在は、迷い込んだ者に一時的な安心感を与える役割を担っていると考えられる。
 構内に飲食店があり、そこで飲食しながら電車を待つことができる異界駅は前例がほとんど見られない。「ある駅のジュース専門店」の大きな特徴といえるだろう。

第2章 「策略的」な噂の拡散

 前章では、「ある駅のジュース専門店」の画期的な特徴として飲食ができる点を挙げた。しかし、この都市伝説の特徴はそれだけではない。
 会計を済ませホームに向かった「かがり火」さんは、ジュース屋の店員に「店の宣伝」を頼まれる。承諾して電車に乗り込み、無事に帰宅できてからSNSに投稿したのが、この体験談である。彼女の投稿によって新たな異界駅の存在が多くの人に認知され、都市伝説「ある駅のジュース専門店」の誕生に繋がった。そして現在も、新たな体験談がインターネット上に投稿され続けている。
 都市伝説はインターネットの普及以前から存在し、主に口承や書物によって拡散が促されていた。そして昨今はインターネットの普及によって噂が拡散されるスピードが遥かに早まり、短時間でより多くの人々に広まるようになった。
 インターネット上で拡散される都市伝説は、時間や空間を超越して伝えられるのが大きな特徴だといえる。投稿された体験談が半永久的に残されるため、どれだけ噂の舞台から時間的、距離的に離れていても、知りたいと思えばいつでも都市伝説に触れられるようになったのである。よって都市伝説の長寿化が進み、「八尺様」「くねくね」「コトリバコ」「リンフォン」「姦姦蛇螺かんかんだら」など、高い知名度を保ったまま語り継がれるものが増加している。そこには異界駅も含まれており、現在も書物やメディアでの紹介によって、その認知度をさらに高め続けている。
 「ある駅のジュース専門店」はそういった流れの中で新たに誕生した都市伝説だが、インターネット上で拡散される他の都市伝説とは少し異なっている。その相違点は、「かがり火」さんの体験談の中で書かれている、ジュース屋の店員が「SNSでの宣伝」を頼む場面から読み取ることができる。

 私がお礼を言ってホームに駆け出そうとすると、店員さんから「あの」と呼び止められた。
「お客さん、スマホ持ってますよね? もし良かったら、後でこの店の宣伝お願いしても良いですか? SNSで発信してもらっても大丈夫ですし」
「えっ?」
 でもこのお店は私が住んでいるところとは別の世界にあるみたいだし、宣伝したとしても店名や、行き方を教えることもできない。
「ああ、店名や場所は詳しく書かなくても大丈夫ですよ。ただ、こんな場所にこんな店があったって、感じたことをそのまま書いてくれれば良いんで。私たちにとって一番大切なのは、お客さんの口コミですからね。どうか、ご協力よろしくお願いします」

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第1話「ある駅のジュース専門店」
URL:https://note.com/match_464/n/nf9039b38467b

 この場面で店員は店名や場所の詳細な記述を求めておらず、「ただ、こんな場所にこんな店があった」という、店の宣伝にしては曖昧な記述をするよう頼んでいる。このことから、店員の言う「店の宣伝」や「口コミ」とは「噂の拡散」を意味しており、異界の住人——すなわち都市伝説そのものが、自ら噂を広めようと能動的に働きかけていると考えられる。
 身近なSNSを用いた宣伝を依頼することで、客は都市伝説を拡散している意識をあまり持たず、気軽に投稿ができる。そして、投稿がごく短時間で多くの人の目に留まるSNSは、噂の認知度が非常に上がりやすい。「ある駅のジュース専門店」は都市伝説側からSNSでの宣伝を促すことで、噂が拡散されるスピードをより早めているのである。
 また、「ある駅のジュース専門店」の噂を古いものから順に追っていくと、駅に向かう手段が徐々に拡大してきていることが分かる。「かがり火」さんの体験談を含む、2021年8月から2023年3月にかけて投稿された初期の話は、どれも電車で駅に辿り着くパターンだった。しかし、2023年4月9日に投稿された体験談「不運」からはパターンががらりと変化し、電車に加えて路線バスでも駅に辿り着けるようになっている。

「次は、⬛︎⬛︎駅前。⬛︎⬛︎駅前」
 夜の町を走るバスの中。響き渡るアナウンスで目を覚ました私は頭が真っ白になっていた。自宅近くのバス停で降りるつもりが、いつの間にか乗り過ごしてしまっていたようだ。
 車内には私一人だけだった。とりあえず次のバス停で降りようと降車ボタンを押し、寝起きで湿った目を、運賃表に表示されたバス停の名前に凝らす。駅前に停まるということは分かったが、その駅名は見知った町の駅では無い。「駅」という文字の前に、ぐねぐねと曲がった創作漢字のような、読めない文字が二つ並んでいた。まだ寝ぼけているのかと頬を軽く叩いてみても目をこすってみても、運賃表の駅名は読めないままだった。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第8話「不運」
URL:https://note.com/match_464/n/nfa8254a65026

 さらに2023年5月11日には、自家用車で異界駅に迷い込む体験談「カーナビ」が投稿され、そのわずか一週間後、徒歩で帰宅している途中に異界駅に辿り着く「帰り道」が投稿されている。

 人気のない夜の道路を縫うように走っていると、民家も何も無い闇の中に、突然真っ白な建物が現れる。
「目的地ニ到着シマシタ」
 その言葉を最後に、カーナビの音声案内は途切れてしまった。
「なんだここ……映画館でも無いじゃん」
 駐車場らしき場所に車を停め、外に出て、建物に近づいてみる。どうやら駅舎のようだ。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第12話「カーナビ」
URL:https://note.com/match_464/n/n9a221e2fa13e

 いっこうに家に着かないのだ。歩いても歩いても似た景色が続き、追い打ちをかけるように空が黒くなっていく。街灯の明かりがぽつぽつと並び、周りの家々の輪郭すら見えなくなるほどに暗くなる。
「え、何これ……」
 だんだんと心細くなってくる。夜になるのがあまりにも早い。暗闇に包まれながら、街灯の明かりを頼りに進んでいく。
 前方に白い建物が見えた。入り口の上で漢字らしきものが三つ書かれた看板がぼんやりと光っている。文字のうち二つは全く読めなかったが、一番右側の文字は「駅」だった。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第14話「帰り道」
URL:https://note.com/match_464/n/n9acfcbe61c70

 電車、バス、車、徒歩——アクセス手段がこれほどまでに多い異界駅は、他に類を見ない。ジュースが飲める点に加え、アクセス手段の多さもこの駅の大きな特徴といえる。「ある駅のジュース専門店」は、訪れた者にSNSでの宣伝を頼んだりアクセス手段を拡大させたりして、策略的に噂を広めているのである。

第3章 崩壊していく安全性

 第2章までは「ある駅のジュース専門店」の特徴に焦点を当てて述べてきた。ジュースが飲める異界駅であること。SNSでも盛んに宣伝されていること。そしてアクセス手段も拡大していること。これらの特徴によって、存在しないはずの異界駅でありながら、さながら新しくできた飲食店のように人々を惹きつけている。これまでの大半の異界駅とは異なり、駅で降りてしまっても無事に電車に乗って帰ることができたという体験談が多いため、比較的安全性の高い異界駅として認識されているのだと思われる。
 しかし、本当にそうなのだろうか。
 本章では、「ある駅のジュース専門店」の体験談の中の記述に着目し、一見安全そうだと見なされているこの都市伝説の危険性を明らかにしていく。

 「ある駅のジュース専門店」の体験談には、たいてい「お土産」に関する記述がある。以下のように「お土産」が登場する場面を集めてみると、その頻度の多さがよく分かる。

 店内を観察していると、ふと、カウンターの隅に小さなかごが置いてあるのを見つけた。かごの中には可愛らしいデザインのハンカチや腕時計、ネクタイなどが入れられている。なんだろうと思った瞬間、店員さんが振り向いた。
「あ、それですか? お土産みたいなもんです。良かったら持ってってください。お土産の代金は頂かないんで」
「え、良いんですか?」
「はい。もうそろそろ捨てようと思ってたんで、大処分セールみたいな感じで。セールといっても全部無料なんですけどね」
「あ、じゃあお言葉に甘えて……」
 せっかくなので、私はかごの中からハンカチを持っていくことにした。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第1話「ある駅のジュース専門店」
URL:https://note.com/match_464/n/nf9039b38467b

 俺たちは席を立って、店内の写真や動画をたくさん撮った。カウンターの隅に置かれたかごの中のネクタイや腕時計(サラセさん曰く「お土産」らしい)、ピンクや紫の照明。特に、親友は壁に飾られた赤い花の絵画に惹かれたらしく、色々な角度から写真を撮っていた。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第4話「⬛︎⬛︎駅のジュース専門店」
URL:https://note.com/match_464/n/na3bf6a513369

 店員の動きに合わせて甘い香りがふわりと漂ってくる。ぼんやりと眺めていると、カウンターの隅に小さなかごが置かれているのに気付いた。かごには腕時計やネクタイやイヤリングなどがたくさん詰め込まれている。
「店員さん、あの……」
「はい」
「この、かごの中のものって……?」
「ああ、それですか? お土産です。良かったらどれでも好きなものを持ってってください。全部無料なんで」
 高そうな腕時計もネクタイも、全部無料なのは凄い。せっかくなので、かごからネクタイを手に取った。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第12話「カーナビ」
URL:https://note.com/match_464/n/n9a221e2fa13e

 これらの記述にあるように、「お土産」とはジュース屋のカウンターの隅に置かれたかごの中に入った物品を指し、ハンカチ、腕時計、ネクタイなど豊富な種類がある。全て無料という通常では考えられない状況だが、店を訪れた客の多くは「せっかくだから」と記念として持ち帰ろうとしている。
 ここで注目したいのが「お土産」の特徴である。ハンカチ、腕時計、ネクタイ——全て日常生活で使いやすいもので、店に来た記念の「お土産」とするには多少の違和感がある。むしろ「落とし物」と捉えた方が良いように感じられる。
 では、なぜこのようなお土産らしくないものが、「お土産」として誰でも無料で持ち帰れるようになっているのだろうか。その答えとなりそうな記述が、「かがり火」さんの体験談にある。

 私は制服のポケットからハンカチを取り出した。花柄の可愛らしいハンカチ。何気なく見ているうちに、ふと、あることに気がついた。
 新品じゃ、無い。
 ハンカチの表面にわずかに汚れが付いている。さらに、お店の中にいる時は果実の香りが強すぎて分からなかったが、鼻を近づけると香水の香りがする。このハンカチは……いや、ハンカチだけじゃない。あのかごの中に入っていた腕時計もネクタイも全て、お土産というより、もともと誰かが身につけていた物のように思えた。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第1話「ある駅のジュース専門店」
URL:https://note.com/match_464/n/nf9039b38467b

 彼女が持ち帰ったハンカチは新品ではなかった。さらに、「お土産」としてかごに入れられていた腕時計やネクタイも、「もともと誰かが身につけていた物」ではないかと推測されている。
 もしかごの中の物品が「もともと誰かが身につけていた物」だったとしたら、それを落とし物としてではなく「お土産」として、「もうそろそろ捨てようと思って」無料で置いているジュース屋の行動はますます不可解である。
 ただ、これらの「お土産」をただの落とし物と捉えるのも難しい。なぜならハンカチは落とす可能性があるが、腕時計やネクタイを落とす可能性は極めて低いからである。腕時計もネクタイも自らの手で腕や襟元にしっかりと巻き付けるものであり、駅の構内で外れてうっかり落とすということは考えにくい。すなわち、第三者の手で外されてかごに入れられているとしか考えられないのである。
 もしこれらの「お土産」に元の持ち主がいて、その持ち主に何らかの危害が加えられ、ハンカチや腕時計、ネクタイが抜き取られてかごに入れられていたとすれば——「ある駅のジュース専門店」の安全性は、一気に崩れ去ることになるだろう。

 ここまでは主に「お土産」の記述に着目し、「ある駅のジュース専門店」の危険性を明らかにしてきた。
 しかし、実はその危険性が決定的に表れている体験談がある。2023年8月30日に投稿された、「ジュース専門店【⬛︎ヶ2乃♯:】」である。
 語り手が後輩のO君と「検索してはいけない言葉」について話している途中、以前はこの話題が好きだった彼が珍しく暗い顔をしている。話を聞いてみると、O君はSNSの「ジュース専門店【⬛︎ヶ2乃♯:】」というアカウント名が「検索してはいけない言葉」になっていることに興味を持ち、先週火曜日にそのアカウントをフォローしたのだという。するとその翌日、彼のアカウントに「フォローしてくださっている方限定で、店内の裏側ツアーにご招待します」というダイレクトメッセージと共に動画のリンクが届いた。その動画はジュース屋のバックヤードを生配信で撮影しているものだったが、途中でカメラが動かされた瞬間、画面の隅に「溶けかけの氷みたい」な男の両足が映し出された。その光景がトラウマになってしまったO君は、それ以降「検索してはいけない言葉」の情報に触れるのを控えているという。
 この話で注目したいのが「溶けかけの氷みたい」と形容されていた「男の両足」の存在である。体験談の中で明確な描写は避けられているが、「溶けかけ」とあることからおそらく投稿者の後輩が見た「男の両足」も、足だと分かる程度に原型を留めながら「溶けていた」のだろうと考えられる。
 この足の持ち主に何があったのか、こちらからはうかがい知れない。ただ、これまで安全性が高いと見なされてきた「ある駅のジュース専門店」の内部にこのような異様な光景が垣間見えたことで、安全性よりも危険性の方が裏付けられるのではないだろうか。

第4章 これからの都市伝説

 前章では「ある駅のジュース専門店」の体験談にある記述から危険性を見出した。「かがり火」さんの体験談で、ジュース屋に置かれた「お土産」に元の持ち主がいたのではないかと推測されており、その持ち主に何らかの危害が加えられた可能性があると考えられること。また「ジュース専門店【⬛︎ヶ2乃♯:】」で、「溶けかけの氷みたい」な男の両足が、店内のバックヤードで撮影された動画に映り込んでいたと記されていること。これらの記述から、都市伝説「ある駅のジュース専門店」は、決して安全性が高いとはいえないことが分かる。そして実際、それを裏付けるように、噂の性質が徐々に変化してきているのである。
 2021年8月から2023年3月にかけての体験談では「ジュースが飲める」という特徴が中心的に語られ、その危険性はわずかに仄めかされるだけだった。しかし、2023年4月の体験談からは方向性が転換し、「ある駅のジュース専門店」が訪れた者に明確に牙を剥く描写が多く見られる。特に4月9日に投稿された「不運」と5月11日に投稿された「カーナビ」では、どちらも語り手が命の危機に陥っており、「ある駅のジュース専門店」の危険性が表れている。

 どこからか漂ってきた甘い香りがだんだんときつくなる。頭がぼうっとして何も考えられない。喉の奥に大量の水が入り込んでくるように息苦しさが増していく。呼吸が早くなる。心臓が早鐘を打つ。全身の力が急激に抜けていく。意識が朦朧としてくる。
 そして視界がぼやけ、倒れ込んだところでがっと右足を掴まれる。意識が完全に飛んだ。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第8話「不運」
URL:https://note.com/match_464/n/nfa8254a65026

 何本もの触手が巨大な蛇のように巻き付き、車が大きくきしむ。このままじゃ壊れる。あいつはきっと、車を潰してから俺を引きずり出して喰うつもりなのだろう。
 ああ、もう終わりだ。ごめんな知樹、自分だけ逃げようとしてしまって。俺も、もう、死ぬから……。
 ハンドルから手を離して天を仰ぐ。バックミラーから、あいつが唇を吊り上げてほくそ笑むのが見えた。

引用:【小説】ある駅のジュース専門店 第12話「カーナビ」
URL:https://note.com/match_464/n/n9a221e2fa13e

 このように、「ある駅のジュース専門店」を訪れた者に危害が加えられるような描写は徐々に増えてきている。直近のものだと2023年11月8日に投稿された「肝試し」で、小学5年生の男子が肝試しの最中に何者かの声によって駅に誘い込まれ、その構内で気を失うほどの精神的ダメージを与えられてしまうという展開になっている。
 現在も「ある駅のジュース専門店」の噂は絶えず囁かれ続けているが、今後はさらに明確な危険性が体験談の中で描かれ、噂の拡散や誇張に拍車がかかっていくと考えられる。

おわりに

 都市伝説「ある駅のジュース専門店」は、駅の構内でジュースを飲みながら電車を待つことができるのが特徴だった。また、都市伝説側からSNSでの拡散を促したりアクセス手段を拡大させることで「策略的」な噂の拡大を企図している点も、他の異界駅にはない画期的な特徴だった。これらの特徴により比較的安全性が高いとされてきたが、体験談の中に見られる記述から、店を訪れた者に何らかの危害が与えられている可能性が浮かび上がってきた。現在はその危険性が明確に表れた体験談も増加しており、今後のさらなる噂の拡散や誇張に繋がっていくと考えられる。

                〈おしまい〉

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