AIブームは1950年代から始まっていた
ChatGPTとか生成AI ってなんでこんなに最近話題になってるの?
生成AI, ChatGPTの前にAIについても人工知能に関してよくわからない
そんな人も多いと思います。
今回紹介するこのはこの本
著者は日本のAI研究における第一人者であり、東京大学の松尾豊教授
人工知能とかAIとかに興味はあるけどよくわからないという人に是非とも読んでほしい本です。
書いていて膨大な文字数になってしまったので、4回に分けて本書の内容を紹介していて、今回はその第2回の記事。
1950年代から始まった第3次まであるAIブームの第2次ブームまでを紹介していきます。
第1回の記事はこちら
■AIブームは1950年代から始まっていた
AI や人工知能の研究およびブームは何も最近始まったものではないのです。
第1次AIブームはなんと1950年代後半から始まっていました。
第1次AIブームは推論・探索の時代
第2次AIブームは知識の時代
第3次AIブームは機械学習と特徴表現学習の時代
今回は、第2次までを説明していきます。
第3次以降はボリュームが多くなるので、次の記事で説明していきます。
■第1次AIブーム 推論と探索の時代(1960年代頃)
この時代は推論と探索の時代。
要するに「場合分け」を駆使して問題を解決するコンピュータの時代です。
迷路を例に考えてみると、こっちに行ったパターンとあっちに行ったパターンどんどん試していき、正解に辿り着く、というものです。
このように迷路やパズル、チェスや将棋など明確に定義されたルールの中で問題を解くことができるようになった時代となりました。
しかし、世の中にある問題はもっと複雑で解くことができなかったのです。
例えばある人が病気になったときにどんな治療法があるのかや、ある会社がこれから成長していくためにはどういった製品を作れば良いのか、などこの時代のコンピュータでは解けないとことが明らかになりました。
そして1970年代、第1次AIブームは終わったのです。
■第2次AIブーム 知識の時代(1980年代頃)
第2次AIブーム、この時代は知識の時代です。
この時代で有名になのが、感染症の専門医のように診断を下すことを想定して作られたマイシンが有名です。
マイシンは専門分野の知識を取り込み推論を行うことで、69%の確率で正しい処方を行うことができました。
専門医は80%だったため、それよりは劣る結果であったものの、40年以上も前にこのようなシステムがあったことが驚きです。
このような専門家の代わりとして振る舞うことプログラムをエキスパートシステムと呼びました。
例)緑膿菌と判定するプログラム
◎エキスパートシステムの課題
しかし、エキスパートシステムには知識を入れる上での課題がありました。
1つは専門家からヒアリングして知識を入れることが大変な処理であったこと、
2つ目は広い範囲の知識を扱おうとすると、ベースとなる「常識レベルの知識(人には手と足がありお腹には胃や腸があり..など)」を取り込んでおく必要があり、これが膨大すぎることです。
Cycプロジェクト
さらに、人間の持つすべての一般常識をコンピュータに入力しようというもので、Cycプロジェクトと呼ばれるものがあります。
「すべての木は植物だ」「パリはフランスの首都だ」などの知識をひたすら入力していくこのプロジェクトは1984年からスタートし、現在も続いています。
人間が持つ常識は書いても書いても書き終わらないのです。
いかに人間の持つ「一般常識」レベルの知識が膨大か、それをコンピュータがわかるように記述することがいかに難しいかを物語っています。
コンピュータが意味を理解することの難しさ
知識を入れることで人工知能の能力向上を図ってきたのが第2次AIブーム。
しかし、コンピュータが質問の意味を理解しているわけではありません。
その難しさの象徴となっている問題を3つ紹介していきます。
◎機械翻訳の難しさ
コンピュータが知識を獲得することの難しさを人工知能の分野では「知識獲得のボトルネック」と言い、機械翻訳の難易度を上げている問題として存在しています。
例えばこんな例文で考えてみます。
大抵の人はこれを「彼は望遠鏡で、庭にいる女性を見た」と訳します。
しかし、グーグル翻訳では「彼は望遠鏡で庭で女性を見た」と訳されます。
これは文法的には正しいために起きていることです。
・庭にいるのは 彼 or 女性 どちらでも解釈可能
・望遠鏡を持っているのは 彼 or 女性 どちらでも解釈可能
人間にとっては、何となく「彼は望遠鏡で景色を見ていたところ、たまたま庭にいる女性を見つけて心惹かれている」というシチュエーションが思い浮かびます。
なぜ人間がそのように解釈するのかというと、それまでの経験から「何となくこっちっぽい」と判断しているからです。
そして、この「何となく」をコンピュータに教えようとすることが非常に難しいのです。
これをコンピュータに教えようとすると「望遠鏡でのぞいているのは男性の方が多い」「庭にいるのは女性の方が多い」などたくさんの知識を入れるしかないのです。
単純な1文を訳すだけでも、あらゆる場面を想定した一般常識がなければ上手く訳すことができません。
◎フレーム問題
フレーム問題はあるタスクを実行するのに「関係ある知識だけを取り出してそれを使う」という、人間ならごく当たり前にやっている作業がコンピュータにとっては難しい、という問題です。
例として洞窟の中にロボットを動かすバッテリーがあります。
しかし、その上には時限爆弾が置いてあります。
そして、人工知能を搭載したロボットを1号から改良を重ねた3号までで実験を行いました。
1号:爆弾を避けつつバッテリーをとってくることを指示
→爆弾も一緒にとってきた
2号:自分の行動に伴う副次要素を考慮するように改良
→バッテリーを前にして「天井が落ちてこないか」など無関係なことを無限に考え始めて時間切れ
3号:目的を遂行する前に無関係な事項は考慮しないように改良
→洞窟を前にして「壁の色は目的と無関係だろうか」などと無限に考え始めて時間切れ
結局、改良を加えた人工知能でもうまくいきませんでした。
これは「関係ある知識だけを取り出してそれを使う」という、人間ならごく当たり前にやっている作業がコンピュータにとっては難しいことを物語っているのです。
◎シンボルグラウンディング問題(記号接地問題)
シンボルグラウンディング問題は、コンピュータは言葉や文字(記号)などを理解していないので意味に結びつけることができないという問題です。
人間の場合は
「シマ=色の違う2つの線が交互に出てくる模様」ということと「馬=立て髪とヒヅメがあってヒヒンと鳴く4本足の動物のイメージ」を認識しています。
そのためシマウマを見たことがない人でも、シマとウマを知っていれば、「シマウマという動物はシマシマの動物のことだよ」と教えられれば、シマウマを見たことがなくともあれはシマウマかも知れないと認識することができるのです。
しかし、コンピュータの場合はそうはいきません。
シマウマが「シマシマのあるウマ」だということは記述できても、ただの記号の羅列に過ぎません。
そのため、初めてシマウマを見ても「これがあのシマウマだ」と認識できないのです。
これは、シマウマという記号(シンボル)とそれを意味するものが結びついて(グラウンドして)いないために起きます。
これがシンボルグラウンディング問題です。
◎1995年ごろから再びAI研究は冬の時代に
Cycプロジェクトのように何十年経っても知識が書き終わらない例やフレーム問題やシンボルグラウンディング問題など様々な問題から人工知能の実現に大きな疑問符が提示されました。
そのため、AIは夢物語なのかも知れないと多くの人が思い、1995年ごろから再びAI研究は冬の時代を迎えることとなったのです。
■さいごに
今回の記事では1950年代から始まった第1次AIブームから第2次AIブームを見てきました。
次の記事では、
「ディープラーニングの衝撃」というタイトルで第3次AIブームとディープラーニングについて、この本の内容をもとに説明していきます。