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#シロクマ文芸部【ショートショート】風に塗りたい

風の色ってまあ普通は見たら…というか無色透明に見えるわな。
場合によっては灰色っぽく見えたりもするかもしれないけれど、それは砂ぼこりとか何か混ざっている状態になると思う。
で、これから始まるのは、そんな風に色を塗ってカラフルにしようってな話だ。
どういうことかって?
それは読んでからのお楽しみだ。


おれはこの日も絵を描いていた。別に締め切りとか何か目標・目的があっての絵ではない。
ただ純粋に描きたかっただけ…。
というと聞こえはいいが、仕事にしたいなァと言う思いはあっても、なかなかだなァという諦めの境地も出てきて、そのせめぎ合いの中で描いている…と言う感じなので、なかなかイメージがまとまらなかったり、納得のいく絵にならなかったりという葛藤もありつつ描いていた。
そんな折だ。

絵のことなどに造詣が深い以前よりの知人がこんな話を持ってきてくれた。
「あのな~、またゆきさん、ただ漠然と絵を描くのもしんどいやろ?
今度うちの町でこんな企画があるんやけど…」
と言ってその企画のチラシを見せてくれた。
『今度、最新技術で風に色をつけます!しいてはその色をつけてくれる画家・アーティストさん大募集!』
おれは別に画家でもアーティストさんでもないが、『プロアマ問わず』とも書いていたので、ううむ…面白いかも…と思って早速応募してみることにした。


とは言っても具体的にどうやって風に色を塗るんや?という疑問はないではなかったが、そこはおれのイイところ?というか、見切り発車なところがあるというか、フットワークが軽いと言えばいいが…。
で、参加者の説明会とやらに行ってみると…
「えーつと…風を最新技術で『固めて』それに専用の特殊な絵の具で色を塗ってもらって…それから再び風・気体に戻すという工程になります…」
にわかには信じがたかったが、おれみたいに思う人のために実際に目の前でその工程を披露されてその凄さを目の当たりにしてイイ意味で愕然とした。


後ほど試しに『風に塗る』工程をやらせてもらったのだが、面白いったら、ありゃしない。
おれの才能ここで開花?なんつって調子こいていたが…
「またゆきさん…でしたね?すごい!彩りめっちゃキレイですね~。ぼくは以前この企画が立ち上がった段階から参加しているビイゴという者なのですが…技術は教えてもらっても、そういうセンスはやっぱり本職の方には…」
本職じゃね~んだけど…とさらにおだてられたのかイイ気になっていたが、そのビイゴさん…おれの目の前で…
「すみませ~ん!風起こしてもらえます~?」
というと起こした風に対して『固めて』ないのに、色を塗ったではないか。
どういうこと?
風そのものに最初から色を塗るなんて…。
しかも、かなりの色彩感覚というかセンスの持ち主…。
悔しいが負けた!と思うと同時にここは素直に頭を下げてどうやったらそんな術が身につくか教えてもらおうと思った。


後日ビイゴさんの自宅のガレージにあるアトリエを訪ねた。
そこには町から助成してもらったという巨大な風を起こすマシンの他、気体専用絵の具もあった。
「ハハハハハハ…何かビックリされてますけど、ぼくも借金とかもしてやっているんでね…お金があるわけじゃないんです。助成してもらっているっていっても、このプロジェクト成功させないと…頓挫する可能性もあるって聞いているんで…ぼくは今回のことに懸けているんですよ」
おれはその時点でまたしても負けた…というか覚悟が違うなァと感じた。
「ぼくも…まあ言ったら昔から画家志望ではあったけどなかなか目が出なくて…だから、この話をお聞きした時に直感でコレだ!と思いましたね…これしかないって…。
あっ!でもまたゆきさんたちにはもっと肩の力抜いて楽しんでこのプロジェクトに参加してほしいと思っていて…広くつのってもらっていろんな人に知ってほしいと…
そのためにぼくも学んでいる最中ですけど、またゆきさんにもできるだけ教えたいですから、また他の人たちにも教えてあげてください!だって風に色を塗るってステキじゃないですか!」
確かに…理屈抜きで…そんな響きがした。


それからというもの、おれもビイゴさんから風に塗るスキルを学ぶと同時に、他の人たちにも誘い合わせて教え合った。
数ヶ月後、町のイベントでお披露目会的なことがあった。
そこでもビイゴさんはリーダー的存在として起こしてもらった風を色とりどり、赤・青・緑…中間色・パステルカラーからラメっぽい色、なおかつ和の色もあり本当にこんなに色があったのかというぐらいの鮮やかに風に乗って広げていった。
その様子を集まった町民の方々もジッと見とれたり、拍手喝采した。
お披露目会の最後、ビイゴさんは挨拶した。
「今日は皆さん本当にありがとうございました!ではこれからはまたゆきさんたち十数人の方々に後を託しました!それでは!」
というとビイゴさんはさっき起こした風の何倍も激しく、かつ何倍も優しい風になって色もさっきの色とりどりの風よりもカラフルになってその場から去っていった。
周りの人たちは呆然としていたが、おれは密かにビイゴさんから託されるように聞かされていた。
「ぼく、風なんで…あとはまたゆきさん、この世界に、世界中の風に彩りを!」
おれにも覚悟ができた気がした。


完。


#シロクマ文芸部
#風の色

小牧幸助さん、「シロクマ文芸部」に参加させていただきます!





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