小説「ビデオ屋ヒデキ」
おれは今でこそビデオ屋をしているが、これでもれっきとした…ニートだったんだ。って威張れないよな。
おれは長い長~い引きこもり生活をオサラバしてやっとこさ職に就いた。と言っても家業であるビデオ屋を手伝っているだけと言っていいのか。
おれのオヤジがビデオ屋を始めたのはいつ頃だっただろうか。子供の頃のおれはAVのコーナーばかり行っては怒られていた。
しかし、オヤジが倒れてからというもの、オフクロと兄貴が交代で店番をするようになったのだが、そのオフクロも年寄る波には勝てず、兄貴に代を譲った。
そこで、おれは自分の店以外のビデオなんかも観て、いかに詳しいかと兄貴と不毛な論争をして引きこもってしまった。
そうは言ってもインターネットで動画なんかがいくらでも観られるこの時代にビデオ屋にこだわるのは時代遅れなのかもしれぬ。そこを察知してか兄貴もビデオ屋を辞めると言い出した。
すると、おれはそれを待っていたかのように
「おれが跡を継ぐから兄貴は引っ込むか、しろ!」
とか言ったら今度は本当に兄貴が引きこもりになっちまった。
とほほほほほほ。
とは言え今度は今までおれを食わせてくれたビデオ屋に家族に恩返ししないとな。
なんてこと考えていたが、おれが店を継ぐとなったら、数少ない友人たちが寄り集まってきて溜まり場になりビデオ屋を占拠されたみたいになってきた。
そこから友人の友人の知人だとか訳の分からない連中がやってくるようになってきた。その中にいかにも胡散臭そうな目立つニイちゃんがいて、そいつは自称〝なんとかかんとかクリエ~タ~〟とか言っていた。詳しいことは忘れた。
そこで短編映画でも作って〝動画投稿サイト〟にでも送るかという話になった。が、ネタと言うかテーマがまとまらなかったり、撮った映像をどう編集するかで揉めたり、アップしてボロクソにコメントされたらという余計な心配したりで結局おれたちがダベっているだけの様子の映像をアップして世界中に恥さらし(再生回数は自分らで上げただけ)してしまった。
でも、おれにとってはそれだけのことでもな~んか楽しかった気がする。う~む、おれってこ~ゆ~のに飢えていたというか…。こういうのが青春と思ってしまったみたいな…。
そんなおれらだから女っ気ないに等しい。でも、誰のコネからなのか、とあるグラビアアイドルが来店するというイベントの企画を打ち立てた。おれらは勿論必要以上に色めき立った。
が、当然こんな潰れかけた店に来るわけがなく計画倒れに終わった。その時のみんなの落ち込みようったらなかった。
話は変わって最近の話。兄貴がやっと久しぶりに店番をしてくれるようになった。オフクロはオヤジのリハビリを手伝いながら、それが自分のリハビリにもなっているようだ。
でも、これだけじゃまだまだおれの人生は終われない。
やっと〝再生〟したばかりだからな。
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