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あなたが知らない「水のありがたみ」は、里山が教えてくれる。
暖かくなって、雪が解けはじめたと思ったら、
また大雪で里山が真っ白になる。そしてまた雪解け。
最近はこんな日々を、自然が自然に、繰り返している。
ただ今週の寒波は、ちょっと怖さすら感じる勢いだ。
備えられるものは備えておこう。
今日は、やがて春になって、
そんな雪が解けて流れはじめる「水」についての話。
里山から学ぶ、水のありがたみ
水について、どこまで真剣に考えたことがあるだろうか。
水がないと人間は生きていけない、それは明白な事実だ。
でもぼくらは毎日、当たり前のように水を使い、飲んでいる。
でも、その水はどこから来て、何を含み、どこへいくのか。
最近はPFASの話題も事欠かない。
だからというわけではないけど、
ぜひ一度「水」について考えてみてほしいと思う。
水を大切にしてみるという感覚や、
ほんとうに綺麗で、美味しい水を知ってみてほしい。
いざ水が当たり前のように使えなくなったときに役立つというだけでなく、人間に欠かせない水だからこそ、
水についてちゃんと向き合うことが、豊かに生きるひとつのヒントになる。
そしてそんなヒントを教えてくれるのは、
昔から人と自然が共生してきた「里山」だ。
里山が水をどのように大切にしてきたか
という「知恵」には、学べることがとても多い。
ぼくはここで毎日、
とにかく水のありがたみに感謝しっぱなしだ。
集落にとっての田んぼ
ぼくの住んでいる栃尾(トチオ)という小さい集落は、土地面積で言うと8割くらいがもう田んぼか畑でできているような集落。
なので当然、水を大量に使う。田んぼというのは日々水を供給して、溜めたりする場所なので、水がとても重要になってくる。
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昔から、ひとつの集落内で、どの時期に、どの田んぼに水を引くかということがすごく重要視されて、議論されてきた。
特に下流の地域など水の供給量が限られている地域では、住民同士で折り合いをつけながら、水を引っ張ったりしている。
当然ながら、これまでの長い歴史において、田んぼでできる米というのが日本人にとっては主食であり、財産であったので、
欠かせない「水」にもまた、自分たちの命がかかっている。
うちの集落の場合は、面積と人数が少ない上に、山から流れてきた水が年中、コンコンと供給される恵まれた環境なので、滅多に水に困るということはなさそうだ。
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ただ、最初に話したように、この冬にどれだけ雪が降るかということが、つまり雪解け水が、この水の供給量にとっては結構重要だったりする。
年によっては、水不足ということもあり得る。
今年は、そこの心配はなさそうだけど。
里に水をひく、水車
さて、ぼくの暮らしている古民家には、
シンボリックな水車がついている。
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いつからついているのかは定かではないけど、ぼくたちが引っ越してくる以前に、この古民家を活用していた地元有志の団体の方々が、水車に発電装置をつけていることは確かだ。
いわゆる少水力発電というやつ。
これである程度の電気を賄うことができるシステムを作っていて、当然水車なので、毎日山から水が流れてきて、24時間、常に回り続けている。
発電量などは詳しく知らないけど、常に回り続けているので、実際発生するエネルギーは結構なものがあるんじゃないかと思っている。
***
昔から人間は、水車をエネルギーを作り出す場所として使ってきた。
水車につながった動力装置が、水車のエネルギーを物理的な別のエネルギーに変え、人間はそれを脱穀や製粉などの生産に活用してきた。
現代になって、それは少水力発電に置き換わった。
実は、この小型の水車を使ったこの小水力発電は、全国いろんなところに使われていたりする。
それで集落の電力を賄ったり、売電して収益を得ている地域もある。
ただ安定的に発電するためには、川にかなりの高低差と水流ないといけないし、専門的な知識と設備も必要なので、簡単に導入できるものではないという話は聞いている。
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うちの水車については、今は蓄電池がないので、実際に電気は使えていない。水車は日々回っているけど、発電した電気をためておく場所がないので、電力として使えないというわけだ。
いつか導入したいとは思っているけど、蓄電池や設備が高かったりするそうで、結構難しいと地元の電気屋さんには言われてしまった。
水路設計の美
そして何より注目してほしいのが、この水車の集落における「位置」だ。
この水車は、先述した集落の田んぼに、山から流れてくる水を配給する、その出発点に位置している。
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この出発点を発端に、集落中にはりめぐらされた水路を通って、水がそれぞれの田んぼに供給されていく。
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つまり、この水車に何かがあると、集落中の水が停滞するということになる。
また、この網目のようにはられた水路設計の美しさには、目を見張るものがある。水は「上から下へ流れる」という、当たり前の現象をうまく活用しながら作られたこの水路は、さながら子供が砂あそびでトンネルを作って水を流し込む、あの楽しさと同じものを感じる。
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結局のところ、何をしていても、大人はいつまでも、子供のように遊んでいるだけなのだとつくづく思う。
ただ時間とお金をかけて、「本気で」あそんでいるだけなのだ。
水路のメンテナンス
そんな重要な水路なので、当然ながらメンテナンスも必要になってくる。
ぼくの住んでる集落では、「イブシン」という年に2回くらい水路をメンテナンスする日がある。
地元の住民たちが、その日は総出で、朝から専用の道具を持って、集落中の水路を上の方から掃除しながら、1番下まで泥をかいたり、溜まってしまった葉っぱや石を出したりする。
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こういう風に、昔から水を、水路を大事に大事に使ってきた。
ぼくもまずは出発点にある自宅の水車から、丁寧に泥をかいていく。
今年も、綺麗な水を供給してくれていることに感謝しながら。
山の湧き水の特徴
そんな山水の特徴についても触れてみると、やはりいいところは、源流の水に含まれる豊富なミネラルだろう。
集落で使う水のほとんどが、山に降った雨が地中を通り、湧いてきた「湧き水」なので、すごく栄養分が豊富にあったりする。
それから、そうして地中を通ってきた湧き水は、一年を通して水温に変化がないというのも特徴だ。
暑い夏でもキンキンに冷たい水が常に流れ続けている。
下流の地域では、川を流れてくる間に太陽に温められて、水温が上がってしまうのでこうはならない。
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高温障害に弱い田んぼのお米にとっては、暑い夏に冷たい水が供給されるということは、結構重要なポイントになってくる。
(逆に寒い時期に水温が上がらないのはデメリットでもある。)
この地域の家ではたいてい、家の前に湧き水を引っ張ってきて、そこで野菜を冷やしたり、いろいろな活用もしているので、それも紹介しておこう。
水船の文化
この郡上(ぐじょう)という地域には、
「水船」という独特の文化が昔からある。
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上からだんだんに3つとか2つの桶が作られている装置で、ここに山の湧き水が上から流れ込んでくるようになっている。
郡上の民家には、結構な割合でこの水船が設置されている。
面白いのは、上の方からだんだんになっている桶ごとに、
水の使い方が分かれていること。
まず1番上は人が飲む水。
当然綺麗な水が湧いてきているので、そのまま飲むことができる。
その下の段が野菜を冷やしたりするための場所。
そのさらに下が食器を洗ったり、お洗濯をしたりする場所。昔からやっていることなので、洗剤などは使っていないのだろう。
最後にその下の段、あるいはそのまま川に流れ込んだところのちょっと溜め池みたいなところに、たいてい鯉を飼っていて、そこで魚たちは上から降りてきた水に含まれている野菜屑とか、食器についていたカスを食べて、餌をやらなくても元気に育つというシステムになっている。
そして魚が食べて、綺麗になった水が、また川に戻っていく。
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この水を超有効活用をする文化が、
昔から今にも残っているというのは、奇跡的だ。
郡上の中心街の「郡上八幡」に行くと、水船で有名な「宗祇水」という場所もある。(名水100選)ぜひ一度見てほしい。
おわりに
もし里山にあそびにくることがあれば、
ちょっと意識して、集落を流れている水、そして水路を見てほしい。
水を、先人たちが今に至るまで、
いかに大切に、活用しているか。
流れている水のきれいさも知ってほしい。
自己責任だけど、湧き水は飲んでみるのもおすすめしたい。
ぼくは夏になるとたいてい毎日は飲んでいる。
暑い日に作業した後の湧き水は、おいしくて冷たい。
ぼくの地域だと、いたるところに湧き水が湧いているので、さらに飲み比べをしてみると、どこも味が違ったり、ちょっと舌触りが違ったりして、すごく面白い。
***
このような里山の水の使い方を通して、
日々使っている水のありがたみとか、
人間に欠かせない水というものを、改めて考え直してもらえたら嬉しい。
この記事を読んだら、あなたが毎日飲んでいる水の「味」をちょっと意識してみよう。それだけでも毎日の暮らしは豊かになる。
***
<プロフィール>
東京で映像プロダクションに勤めた後、2020年に東京から岐阜へ移住。
個人のテーマとしてこれからの「人間らしい生き方」をベースに、里山文化や自然、共感するプロジェクトなど身の回りの「物語」を探究。
映像と宿を通して、誰かの人生を豊かにする体験(旅)を届けています。
<映像制作のご依頼>
広告、PR、記録映像など。企業や自治体の「物語」を一緒に見つけ、届けるお手伝いをしています。シネマティックな映像美で、丁寧に紡ぐドキュメンタリー表現が得意。ポートフォリオ、お問い合わせはこちら。
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