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シネマティックな映像とは? / 里山の物語を届けるための技法
前回お話ししたように、僕は岐阜の「里山」で暮らしながら、同時に客観的に自分の暮らしを見つめ、そこで得られる「物語」を探している。
そしてそれを発信していくこと。
改めて「映像作家」としての自分を、そう認識していくと決めた。
自然と共に生きる暮らしの中で、都会では気づけなかった新しい視点や物語が次々と見えつつある。
僕の最終的なゴールは、この暮らしから得られる気づきや物語を、映像や写真という形で表現して、届けること。
これまではクライアントワークが中心だったので、個人の作品として発信できるものは多くなかったのだけど、今年からは積極的に制作し、そのノウハウについても発信していきたい。
一応、これまで東京の映像プロダクションに勤め、一流のクリエイターとお仕事をさせてもらったり、個人としても、ワンオペでできる限りのクオリティを追究してクライアントの作品を作ってきたので、それなりのノウハウが溜まっている。
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というわけで、これからは僕なりの映像についての考えや、テクニックについても少しずつ触れていきたいと思う。
とはいえ、専門的な話をするつもりはあまりなくて、あくまで「物語」を表現し、届けるに至るまでの一般的な「映像」についての話だ。
今日はまず、僕もその表現の手法において重要視している「シネマティック」という映像のジャンル、もしくはその表現について。
シネマティックの本質を探る
「シネマティック」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
ネット上ではさまざまな使われ方、表現のされ方をしている。
「シネマティック」というのだから、「シネマ風」「映画っぽい」ということになる。では何が「映画っぽい」のか?何が映画とは違うのか?映画ってそもそも何なのか?
歴史はさておき、映画には「感動的」「情緒的」「壮大」というようなイメージがあるかもしれない。
たとえばYouTubeなどでは、ドローンで撮影した壮大な風景や、森の中や街の中で、かっこいいカメラワークと、感情的な色彩編集、壮大なBGMを施した映像なんかが、よくシネマティックと呼ばれたりしている。
僕はこうした映像には素直に「すごいな」と思う一方で、いつもどこかに違和感を感じていた。映像を否定したいわけではないのだけど、でも僕はそれだけがシネマティックな表現ではないと考えている。
***
結論、僕にとってのシネマ、あるいはシネマティックの定義とは
「物語から、自分の人生に役立つメッセージを得る体験」。
映画館での上映や、長時間の尺が、必ずしもシネマティックの条件ではない。YouTubeの短い動画でも、十分にシネマティックな体験を提供できる。
ただ大切なのは、その映像を通じて作者が何を伝えたいのか、見る人の心にどんな種を植えたいのか、という制作者の意図(メッセージ)であると思う。
映画で感動したときのことを思い返してみてほしい。
僕らは映像表現で感動したというだけではなくて、きっとその奥にある、作者のメッセージや物語に感動していたはずだ。
この映像表現、たとえば先ほど述べたような壮大な風景撮影、BGMといった技術的な要素(テクニック)は、このメッセージを伝えるための「手段」に過ぎない。
エモーショナルな映像表現は素晴らしいものだけど、それも同様に、このメッセージを視聴者に効果的に伝える(刺さる)ための「手段」だ。
高価な機材も同様。
いい機材を使えばシネマティックになるわけではない。
どんな機材も、目的のために使いこなせなければただの鉄の塊になる。
ここまでをまとめると、僕なりにシネマティックな映像を実現するための大事なポイントは以下のようになる。
①作者が伝えたいメッセージ> ②物語・世界観> ③感情を揺り動かす表現
> ④表現のための技術(テクニック)> ⑤道具としての機材
ネット上に溢れる「シネマティック」への違和感は、きっとこの③〜⑤ばかりがフィーチャーされていて、①②がない、あるいは「あるっぽい」雰囲気になっているからだと思う。
だからこのどれが欠けても、僕にとってそれはシネマ、あるいはシネマティックな映像ではないと思っている。
映像が持つ力
映像には、見る人の人生を豊かにする力がある。
たとえば、知らない誰かの人生の物語から、自分の今後の生き方についてのヒントを得たり、新しい視点で世界を見つめられるようになったりする。
まだ見ぬ異世界の物語に触れることで、現実からの一時的な逃避を味わったり、未来への期待を膨らませたりすることもできる。
過ぎ去った時間に思いを馳せることで、今を生きる意味を見つめ直すこともできる。
幼少期からこうした体験を実際にしてきたことこそが
僕が映像を愛している、一番の理由だ。
僕は本当に「映像に救われた」と思うことが何度もある。
だからこそ、メッセージが大切だ。
その受け皿でもある、物語が大切だと僕は思う。
物語の展開技法
テクニックについても少し触れておきたい。僕は映像の専門教育を受けたわけではないので、以下はあくまで独学である。
例えば「物語の展開技法」については、よく知られている「ヒーローズジャーニー」のような王道パターンがある。
主人公が登場し、まず困難に直面し、そしてさまざまな試練を乗り越えて、最終的に成長していくという一連のプロセスだ。
映画『スターウォーズ』は、この典型的な例として知られており、これを踏まえて映画を観ると、ほとんどの大作映画は(面白いくらいに)このプロセスに沿って脚本が組まれていることが分かる。
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それだけ、観客をワクワクさせ、「メッセージ」を届けやすい物語のフレームだということなのだろう。
***
また、映画『アバター』のように、既存の物語の型を、新しい世界観で再構築する手法もある。
例えば映画『ポカホンタス』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』で描かれたような、西部開拓地への入植者が、現地の女性と恋に落ち、価値観の転換を経て、元いた自分の世界を敵に回す、という構図。
これをそのまま宇宙の星「パンドラ」に持っていったのが映画『アバター』だった。
もちろん、パンドラの生態系の描き方や、特にそこで暮らす先住民「ナヴィ」のパンドラ(自然)との繋がりによって成り立っている文化、生命、言語というものが非常に作り込まれていて、優れていたからこそ、映画『アバター』は名作として名高い。
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言語学者と一緒にイチから作り上げている。(画像:映画.com)
「3D」映画として凄かったから、ヒットしたわけではない。
(もちろん映画界への技術的な衝撃もかなりあった。)
そんな美しい世界観を表現するための手段として、もっと奥行きのある、没入感のある「3D」という技術的な選択をする必要があったということだ。
ついついアバターについては熱く語ってしまうので、またいずれ。
映像技術の手法
他にも、たとえばカメラワークは、物語を伝える上で重要な役割を果たす。
主人公を中心にカメラがぐるりと回る表現は、その人物の置かれている状況や心理を効果的に伝えることができる。
主人公にゆっくりと寄っていくショットは、その人物の内面に迫っていく効果がある。
照明による陰影や、色彩表現も、物語の雰囲気を作り出す重要な要素である。
オレンジ色の光は温かく情緒的な雰囲気を、青い光は冷たい印象や孤独感を表現できる。
緑色は怪しく、不可思議な雰囲気を醸し出す。
(映画だと『ジョーカー』『マトリックス』など)
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こうしたテクニックを知った上で、映画を観てみるのも面白い。
里山から「物語」を届ける
僕は現在、岐阜の「里山」というフィールドで実際に暮らしながら、日々の得られる気づきやメッセージを探している。
ここには、自然との共生、地域の文化、人々の交流など、さまざまな物語が眠っている。僕にとっては、ある種の「パンドラ」だ。
暮らしを通じて見えてくる「人間らしい生き方」や、まだ語られていない身の回りの物語を、映像という形で伝えていきたい。
そして「シネマティック」な表現で発信していくことで、伝えられるものがあるし、見た人の心に響く作品を作っていきたいと考えている。
同時に技術も磨きながら、さまざまな試みを重ねているところだ。
そうすることで、誰かの人生がほんの少しでも豊かになるような体験を提供できれば、これ以上の喜びはない。
***
<プロフィール>
シンディ / Hiroaki Shindo
映像作家・写真家。東京で映像プロダクションに勤めた後、2020年、東京から岐阜に移住。里山をフィールドに自然農の米作り、古民家ゲストハウス、自然体験ガイド、子育てなどを礎に活動を続ける。
個人のテーマとしてこれからの豊かな「人間らしい生き方」を、さらに里山エリアの地域文化や自然環境、共感するプロジェクトにおいて、身の回りのまだ紡がれていない「物語」を探究・表現することで、誰かの人生を少しでも豊かにする体験を提供している。
映像においてはドキュメンタリーでありながら、視聴者をのめり込ませ、感情を揺さぶるシネマティックな表現を追究している。
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<その他>
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