ー 波 ー 幻想物語
「あなたは今何を見ているの?」
ぼやけた視界に真っ白なカーテンが揺らぐ。
「あなたがどこにいるのか私にはわからないけれど。私はこの場所が好きなの。」
静かな砂浜に波の残像と足跡だけが残る。
それもじきにざらついた音と共に霞みゆくが、今は辛うじて。
その軌跡に時が縋りついていられた。
顔を上げるのはいつぶりだろうか。
そこに映ったのは真っ白なカーテン、いや、私には見る事の出来ないはずのもの。
その者だった。
その者は私を覗き込むようにして問いかける。
ふわりと雨の匂いが香ったと思えば、直ぐに波に攫われ、音を歪ませ宙に舞った。
「私は、」
とそのまま唇が凍ったかのように、光に輝く砂をただぼうっと見つめているだけだった。
耳元でスっと息を吸う音が聞こえる。
その瞬間、私はこれから何を耳にするのかと、ぎゅっと目を瞑った。
指先が熱くなる。
「ー」
けれど、
何も聞こえはしなかった。
そういえば辺りの音も止んでいる。
そんなばかな。
私ははっとして横を向
透明な光の粒がさんざめき、地上から舞い上がればそこには虹色の小さな橋が架かる。
そうして目の前に浮かび上がったのは瑠璃色の瞳だった。
彼女はじっと見つめていた。
それは私を、この宇宙より遥かに遠いずっとずっと先の、そしてずっとずっと昔の透明な雫の中から。