分娩時の麻酔は甘えか?
「4000超えてる可能性があるので難産になることは間違いないです」
出産予定日前日の検診で担当医師にきっぱり言われて、即入院することとなり、さすがに4000gは超えていなかったが、特に頭がBigなベビーで苦しんだ一人目の出産。
体力はすべて使い果たし、産後は立つことすらできずトイレにも行けず、丸2日間寝たきり状態で、赤ちゃんのお世話など全くできずに、本当に辛い思いをしたのは40歳の初産だった。
それから約2年が過ぎて、42歳で第二子の妊娠がわかった。
一人目の出産時のことを思い起こすと、二人目は小さく産みたいと思った。
妊娠中の体重管理や運動にも気を使い、一人目の妊娠中には考えもしなかった和痛分娩についての説明を受けた。
二人目の出産ともなれば、前回のように産後寝たきりという訳にはいかない。産後は新生児と上の子のお世話をしなくてはならないからだ。
和痛分娩についての説明会では、担当の医師から非常にわかりやすく教えてくれた。
硬膜外麻酔による和痛分娩で、硬膜外麻酔とは背中(硬膜外腔)に細いチューブを入れて麻酔薬を持続的に注入する方法。陣痛による痛みを和らげるということ、意識はあり、陣痛もわかるので赤ちゃんが生まれてくる様子もわかるとのこと。
夫ともよく相談して、安全面や年齢や体力的な問題考慮し、思い切って和痛分娩を申し込んだ。
追加でかかる費用は5万円。金額の問題ではないが、目くじらを立てる金額でもない。
そのことを実母に話すと「私は3人とも、普通に産んだけど…麻酔なんかなかったし。必要ないんじゃない?」的なことを言われた。
少し傷ついた。
それでもめげずに、実姉に話すと「麻酔をするなんて、危ないんじゃない?そんなことしなくても産めるよ」と。
42歳の乙女心ならぬ妊婦心は、20代で出産をした実姉には到底伝わらないようだった。
普段はもっといい感じの大好きな母と姉が、私の和痛分娩に挑戦したいという思いを全面的に受け入れてくれている感じではなかった。
でも、私には迷いがなかった。
結論から言うと私は、麻酔を使い和痛分娩をした。
結果、陣痛の痛みが少ない分、いつまで続くかわからない陣痛の不安や恐怖や消耗がなく体力を温存できた。
最後の最後、産まれる直前にはもう、ほとんど麻酔は切れていたので、しっかりと痛かったけれども、体力が残っている分しっかりと力をこめることができたし、リラックスする余裕もあった。しかも会陰切開もしなくて済んだ。
信頼できる助産師さんと付き添いの夫が見守ってくれて、産まれた瞬間もまさに「つるん」という感触。
そして、私自身に元気と意識がはっきりあって、なにより記憶がある分、非常に感動的なお産となった。
少なくとも前回の悪夢いやいや、お腹の上に乗っかってグイグイ押してくる助産師と、吸引している医師と他にもスタッフ数名がドタバタ大騒ぎ、私もギャーギャーと叫びもがき苦しんだ、気絶寸前の一人目の時とは大きく違った。
一人目の時は赤ちゃんの泣き声を聞いた直後に、幽体離脱でもしたかのような感覚に襲われ(実際に幽体離脱だったかはよくわからないが)会陰切開した部分の縫合をしている医師の後ろ姿を見た気がした。
そのくらい、ブッ飛んだのである。
だから、二人目の和痛分娩は最高に幸せで感動的なお産だった。幸せを感じる余裕があった。
「東京行くとき飛行機乗るだろ?それと同じだ」
産後、私のところにやってきた麻酔の医師が言った言葉である。
私が、きょとんとすると医師は続けた。
「昔の人は、歩いて行ったんだ。でも今は飛行機がある。墜落するかもしれんがなw」
ニヤリとして「金を使って、ラクをしたんだよ」と。
お金を使ってラクをすることは、ダメなことではない。
医師が言うように、札幌から東京へ行くには飛行機に乗るし、普通に生きていれば麻酔だって結構使う。
私が直近でした麻酔は、顔にできた粉瘤の臭さに耐えきれずに手術で取った時にした麻酔。「麻酔しますね」と言われ、麻酔の針が痛くないようにしびれる薬を塗ってくれて全く痛みを感じずに臭い粉瘤の摘出成功である。
患者側から「麻酔は甘えなんで、麻酔しないでそのまま一気にやっちゃってください!」とは言わないし、「あのお医者さん何も言ってないのに麻酔してくれた、優しい~!」ということでもない。
手術が痛いから麻酔する。ただそれだけ。
親知らずを抜いた時もそう。
歯科医は迷わず麻酔をして抜歯するが「昔の人は麻酔なしで抜いてたみたいなんで、麻酔なしでやってください」とはならない。
なのに、分娩はものすごく痛いのに、痛くて痛くて痛すぎるのがわかっているのに、麻酔なしでも大丈夫と言われている気がするのは、私だけ?
痛いけど頑張って耐えてね!って、拷問か?
現代のお産ならば、「分娩痛いんで麻酔しますね」って、アリだと思いますよ。
だって、ものすごく痛いんで。
痛みに耐えた分、より赤ちゃんが愛おしく感じるわけでもないし、母性がどうかなってしまうものでもない。
でも、やはり分娩時に麻酔をすることに抵抗がある人が多いように感じる。
なぜだ。
なぜ、出産だけは痛みに耐えぬかなくてはならんのじゃ。
痛みを感じたい人だけ、麻酔なしでやっちゃってもらって、痛みを感じたくない人は麻酔してもいいんじゃないだろうか。
だから、体験者が語ります。
これから始まる新生児のお世話のために必要なのは、痛みに耐え抜き消耗しきってボロボロになった母より、体力が残っている母だと思うのです。
もっと言うと、3時間おきの授乳とかでしっかり寝れなくて、ヘトヘトでホルモンバランス崩してメンタルやられたりして産後鬱とかになっちゃうくらいなら、母の体力温存、睡眠時間の確保のためにできること何でもやってもらって、なんなら産後すぐに初乳は免疫がとか栄養がどうだとか言わないで粉ミルクとか便利に使えるもの使っていいのではないかな。
和痛分娩は甘えでも贅沢でもない。
むしろ、未来のスタンダードになってほしい、素晴らしい分娩方法だと思います。
もし、和痛分娩や無痛分娩に後ろめたさを感じている妊婦さんがいたら、親知らずを抜いた時のことを思い出してほしい。
「痛いから麻酔する」は、甘えではないのだから。
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