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義父蘇る(ゾンビ企画)
猫が義父の死体の上を飛び越えた。あれほど注意していたのに、どこからやって来たのだろうか。昔からそこにいるように、黒猫が義父の側で座っていた。なんでも、猫が死体を飛び越えると、死人が甦るとか。
「兄貴。あかんで! はよ帰りや! 兄貴は死んだんや!」
叔父が必死になって箒で義父の体を叩く。
迷信をそんなに信じるなら、猫が入り込まないような葬儀場で見送ればいいのに「住み慣れた家で送ってあげるんが、一番の供養なんや」と箒を振り回している叔父がそう言っていた。本音は葬儀代をケチりたいだけだろう。私が嘆いても仕方のない事だ。排他的な旦那の実家では、私の存在など無いに等しい。
「猫を近づけたんは、誰や!」
責任の押し付け合い。旦那の実家は阿鼻叫喚だった。
義母はありきたりな念仏を泣きながら唱え、叔母は「あたしやないで!」と訴えている。
「親父!」
義兄がそう叫んだので、私はまさかと思いながら、義父……といっても死体だが、その方を見た。
「あかん。みんな、離れろ! おっさん(和尚さん)を呼ばんか! 死人に噛まれたら、えらい事になるで!」
そう叫んだ叔父が、いの一番に逃げ出した。
あり得ない事だが、私は確かに見た。義父が上半身を起こしていた。
「見たらいかんよ。そっとしといてあげましょう」
間も無くやって来た、如何にもという風采のお坊さんがそう言った。この辺りの人は、お坊さんの事をおっさんと呼ぶ。それが私には可笑しかった。結婚して何度か顔を合わせたことのある親戚一同は、別室に集まり、義母と同じ念仏を唱えていた。そう言えば、黒猫はいつの間にかいなくなっていたようだった。
「ところでお義父さん。何をしていたの?」
帰り道、車のなかで旦那に聞いてみた。お葬式は無事に終わった。しかし、あの出来事の話をしてはいけない雰囲気だったので、私はそれまで旦那にも聞く事ができなかったのだ。
「なんかパソコンをいじっとったみたいやね。閲覧履歴を消しとったんちゃうかな」
旦那が地元の言葉で話した。
「パソコン?」
「俺も見たわけやないで。おっさんがそう言っとった。こんなん言うたら元も子もあらへんけど、親父、エロ動画をよく見てたらしいわ。そんな事が未練て、幸せな人生やったんやな」
正直なところ私は呆れた。もう少しマシなゾンビの話の方が納得できる。
ふと窓の外をみた。黒猫が私達を見ていた……気がした。
おわり(987文字)
★このお話は、NNさんの企画に参加したお話です。
NNさんお誘いいただきありがとうございます。ゾンビがメインのお話ではなかったのですが、こういう切り口もありじゃないですか? (笑)
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