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●美術館の名作椅子#16●MOA美術館
MOA美術館
設計:竹中工務店
開館:1982年
改修:2017年
・杉本博司ベンチ
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デザイナー:新素材研究所(杉本博司+榊田倫之)
発表:2017年
メーカー:インテリアズ
脚部に光学ガラスを用いている。
離れると座面が宙に浮いているかのようにも見える。
このベンチに座り眺める熱海の景色は一層素晴らしい。
館内には下のベンチも多数あったがこちらは脚部に金属が用いられている。
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どちらも座面は同じものに見えたのでこちらも杉本博司氏のものかと思い、美術館スタッフに聞いてみるがわからないとのことだった。
ネットの海を探索するが情報が一切なく暗礁に乗りかけていたところ、下の会社を発見。
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ガラスの脚のものと並列に写真が並んでいるために、もしやと思い問い合わせてみたところ、直接の担当者から丁寧な回答をいただけた。
ベンチはどちらも新素材研究所がデザインし、インテリアズが制作を担当した。
特注品で版権は新素材研究所にあるため一般には販売していないとのことだった。
ということでやはりどちらも杉本博司(新素材研究所)のベンチだった。一件落着。
・Slam Chair
![](https://assets.st-note.com/img/1722512412477-xyTXQ0z5uD.jpg?width=1200)
デザイナー:Lievore Altherr Molina
メーカー:Sellex
価格:¥43,500(2024年現在)
1991年に設立されたスタジオのデザイン。
前述のインテリアズでもデザインしていた。
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発表年がわからなかったが1991年設立のスタジオデザインのためそれ以降、肌感だと2010年前後くらいではないだろうか。
この手のシンプルな椅子は減らす要素がないためデザインと機能のバランスが絶妙なものが多い。
ちょっとした角度の付け方やフレームの長さや太さのバランスにデザイナーの意図やセンスが如実に現れる。
ある意味真のデザイン力を問われる分野なのかもしれない。
そのような視点で見てみるとこのようなタイプの椅子にも新たな発見が色々あり面白い。
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・SEVEN Chair
![](https://assets.st-note.com/img/1722512853373-dhoCwsJOQl.jpg?width=1200)
デザイナー:アルネ・ヤコブセン
発表:1955年
メーカー:FRITZ HANSEN
価格:(塗装仕上げ)¥78,980(2024年現在)
名作椅子業界の中でも代表的な一脚だがシンプルすぎてコピー品が溢れすぎなのが玉に瑕。
唯一FRITZ HANSENのみが正規品だが長い歴史の中で様々なバリエーションがあり、もはや全容は不明。
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・NAP Chair
![](https://assets.st-note.com/img/1722512910053-cEf0OaMZIl.jpg?width=1200)
デザイナー:キャスパー・サルト
発表:2010年
メーカー:FRITZ HANSEN
価格:¥57,200(参考)
《セブンチェア》よりも低価格かつ、軽く座り心地の良い椅子を作るというコンセプトのもとデザインされた。
《セブンチェア》同様に様々なバリエーションがある。
「美しくつくろうとするのではなく、機能から美しさが導き出されると考えます。形は人のためにある。だから、そこには機能が伴っていなければなりません」とのデザイナー本人談だが、その言葉の通り座り心地とともに後ろ姿も美しい。
フリッツハンセンHPをはじめいくつかのページで販売終了案内が出ているため廃番か。
・K65 high Chair
![](https://assets.st-note.com/img/1722512946620-xAejqDictz.jpg?width=1200)
デザイナー:アルヴァ・アアルト
発表:1935年
メーカー:Artek
価格:¥75,900(2024年現在)
名作《スツール60》の長脚バージョン。
バーカウンターやハイテーブルなど様々なシーンで用いられる。
ここのレストランでもハイテーブルに合わせて置かれていたが、入り口付近ではなぜか低座のソファの隣に置かれるチグハグさが気になった。
・FLAD sofa
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発表:2019年
メーカー:five by five(ACTUSオリジナルブランド)
価格:(W180cm)¥272,800〜 (2024年現在)
インテリアショップアクタスのオリジナルブランドのソファ。
標準仕様ではアームがないためベンチのような使い方もできる。
国内ブランドのため細かくオーダーを入れることができ実用性が高い。
このレストランのオープン当初の写真にはK65 high Chairしか並んでおらず、ソファは後日追加されているようだ。
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私の予想:
K65ハイチェアでスタイリッシュに揃えてみたものの高齢者から座面が高くて座りづらいとのクレームが多く入ったので低座のソファも導入してみた。
K65は奥のスペースでハイテーブルと共に使ってはいるが数がいくつかダブついたのでとりあえず入り口ソファ脇にも数脚置いてみたが、結果なんだかチグハグになってしまった。
とまあそんなところではないだろうか。
・Sail Collection Chair
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デザイナー:ピエルジョルジオ・カッサニーガ
発表:2012年
メーカー:Andreu World
価格:¥30,690(2024年現在)
スペインの家具メーカーAndreu Worldの名作椅子。
その名の通り船の帆をモチーフにしている。
2014年にはデザイン大国イタリアにおいて最も権威あるデザインの賞とされるコンパッソ・ドーロ賞を受賞している。
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・TROY Stool Chair
![](https://assets.st-note.com/img/1731509358-WleHYgx9LIcU3rSGzf0XK2Cv.jpg?width=1200)
デザイナー:マルセル・ワンダース
発表:2010年
メーカー:Magis
価格:¥80,300(2024年現在)
ぱっと見、前述のSLAMチェアやNAPチェアと基本的な形状が似ているため同シリーズかと思いきや、よく見比べるとやっぱり結構違う。
高い視点から眺める熱海の海は絶景だ。
この場所にとても合った椅子だと思う。
・PK20 Lounge Chair
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デザイナー:ポール・ケアホルム
発表:1968年
メーカー:FRITZ HANSEN
価格:¥2,000,000前後(革ランクによって異なる)(2024年現在)
ポール・ケアホルムの名作椅子。
丸みを帯びた金属脚の程よいクッションが心地よい。
999.9のメガネの蝶番のようなデザイン。(もちろんこちらの椅子が先行だが)
結構年季が入っているので開館当初から使用しているのだろう。
1980〜90年代にこの椅子を採用するという先見の明が素晴らしい。
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・PK80 Bench
![](https://assets.st-note.com/img/1722513158438-EHXjS3LnkR.jpg?width=1200)
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デザイナー:ポール・ケアホルム
発表:1957年
メーカー:FRITZ HANSEN
価格:¥2,923,800(2024年現在)
この【美術館の名作椅子】でも、もはやお馴染みの名作中の名作。
ざっと挙げただけでも、東京国立博物館本館、東京都現代美術館、国立新美術館、サントリー美術館、京都国立博物館平成知新館など、その他多くの美術館・博物館で採用されている。
ここMOA美術館にもやはり置かれていた。
低い座面と固い座り心地が特徴。
ここには新旧数種類の革質のものが混在し、PK20と同様に結構年季が入っているものもあるのでそちらはやはり開館当初から使用しているのだろう。
1980〜90年代にこのベンチを採用するという先見の明が素晴らしい。
![](https://assets.st-note.com/img/1724054677638-XOlgDbOLrR.png?width=1200)
・Faaborg Chair
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デザイナー:コーア・クリント
発表:1915年
メーカー:ルド・ラスムッセン工房
価格:¥642,400(Carl Hansen & Søn製)(2024年現在)
「デンマーク近代家具デザインの父」と称されるコーア・クリントがデザインした名作椅子。
制作はデンマークのクラフトマンシップの象徴ともいわれる最も古い家具工房ルド・ラスムッセン工房。
1869年にコペンハーゲンに設立された工房はデンマーク王室御用達としても知られ、デンマーク家具の最高峰とされていた。
2011年にカール・ハンセン&サンに買収されて現在はカール・ハンセン&サン製となっているが、ここMOA美術館のものは超貴重なルド・ラスムッセン工房製だった。
・King's Chair
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デザイナー:ルード・ティゲセン、ヨニー・ソーレンセン
発表:1969年
メーカー:FREDERICIA社、もしくはBOTIUM社
絶妙な曲線が美しい。
デンマークのフレデリック王70歳の誕生日に贈られたことにより、その名がつけられたという椅子。
こちらも貴重な椅子だがここには大量に設置されており自由に座ることができる。
裏面を見たがシールや印字が見当たらずに製造元が分からなかったが、明らかにしっかりした作りなので過去に制作していたいずれかの正規メーカー製だろう。
・Japan Chair (custom model)
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デザイナー:ハンス・J・ウェグナー
発表:1982年
MOA美術館開館前に、什器となる椅子の調達を託されたアクタスの社員がデンマークへ赴き、「美しく、上質で、長く愛される家具が、この日本の新しくできる美術館には必要なのだ」と現地家具メーカーへプレゼンを行った。
その様子は現地の新聞にも大さく取り上げられ、程なくしてなんとハンス・J・ウェグナー本人から「ぜひ協力させてほしい」と直接連絡が入った。
その後試行錯誤を繰り返して完成した椅子がこのジャパンチェアだ。
MOA美術館のための特別仕様のためもちろん非売品で世界中にここにしかないという完璧なストーリー。
美術館の誕生と同時に産まれ、ともに歴史を歩んできた超貴重な名作椅子だ。
・まとめ
MOA美術館は2017年の杉本博司(新素材研究所)が関わった大規模リニューアルで杉本氏のデザインしたベンチを新たに導入した際、artekのK65スツールやFRITZ HNSENのNAPチェアも同時期に導入されている。
その他にも建物同様こだわりの名作椅子が多数採用されている。
特にリニューアル以前の開館時期から使用されているとみられるFRITZ HANSEN の PK20、PK80、そしてFaaborg Chair、King's Chair 、Japan Chair等、デンマークの名作椅子へのこだわりは特筆すべき。
中でもJapan Chairはハンス・J ・ウェグナー本人によるMOA美術館のためのスペシャルモデルだ。
開館時もリニューアル後も、とにかく細部までしっかりこだわりの選定をしており、まさに「神は細部に宿る」の言葉のごとく抜かりがない。
神殿のように美しい美術館で名作椅子に座ってのんびりと熱海の海を見下ろす優雅な時間。
都心からは少し距離があるが、椅子を見にいくだけでも訪れる価値は十分ある素晴らしい美術館だ。
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