とたけけから学ぶ世界の民族音楽 アジア・その他地域編【どうぶつの森】
「とたけけから学ぶ世界の民族音楽」後編。
前回はヨーロッパ・アメリカ地域の音楽をご紹介しましたが、今回はアジア・その他地域の音楽についてまとめていきたいと思います。
前回の記事はこちら↓
けけじょんがら
日本は青森、津軽の民謡「じょんがら節」。
三味線がクールで印象的です。
「じょんがら」という名前の由来については諸説ありますが、「上河原」という地名から来ているという説が有力な様子。
じょんがら節では「津軽三味線」と呼ばれる比較的大型の三味線が使われています。
大型でネックが太い分、普通の三味線よりパワフルな音が出せるのです。
また、間奏のソロパートなどを即興で演奏するのもじょんがら節の特徴。
伝統的なイメージとは裏腹に、思ったよりジャズっぽいジャンルです。
三味線の速弾きってかっこいいですよね。
ハイサイけけ
日本・沖縄(琉球)の伝統的な音楽。
「琉球音階」と呼ばれる五音階で作られているのが大きな特徴です。
琉球音階とは、普通の7音階からレとラを抜いた「ドミファソシ」の5音のこと。
この5音を使えば適当に弾いてもなんか沖縄っぽくなります。
でもハイサイけけにはちょっとだけ「レ」も使われています。というか、いわゆる「沖縄っぽい曲」でちゃんと琉球音階を貫いてる曲は実はほとんどなかったり。
基礎が琉球音階ならそれでいいんだよ!って感じなんでしょうか。なんくるないさー精神ですね。
とたけけが持っている楽器は三味線……ではなく、沖縄音楽のマストアイテム「三線(さんしん)」。
三味線よりもやや小ぶりで、表面には蛇の皮が使われています。ジャケットイラストでも蛇柄がはっきりと確認できますね。
けけチャイナ
その名の通りの中国音楽。
日本の伝統音楽同様、ファとシを抜いた「ヨナ抜き音階」が使われているのが特徴です。
中国を代表する擦弦楽器「二胡」、「古箏」などの琴の仲間、日本でもお馴染みの「琵琶」などが主に用いられる民族楽器。
しかし、「けけチャイナ」を聴く限りではどれもそれらしき音は見当たりません(音質的な問題かもしれませんが)。
というか、色々中国の民族音楽を探して聴いてみても「けけチャイナ」に近い雰囲気のものはなかなか見つかりません。
大体どの曲にも二胡が使われており、神秘的で美しい雰囲気のものがほとんどです。ファンタジーRPGの世界観によく合いそうな感じ。
↑(曲はJ-POPですが)二胡の音の参考動画。癒される…。
チャイナというからには中国に違いない。
でも中国音楽にこんな曲は見当たらない。
では、この「けけチャイナ」は一体何者なのでしょうか?
自分なりに色々調べてみたんですが、一番可能性が高いのは「オリエンタル・リフ」ではないかという結論に達しました。
オリエンタル・リフ(アジアン・リフ)とは、西洋音楽において中国などのアジア圏のイメージを表現する時に使われるテンプレフレーズのこと。
つまり中国の音楽ではありません。
「中国民族音楽」で探しても全然出てこないわりに「中華風BGM」で探すと似たような曲が無限に出てくる時点で疑惑はありましたが、まさか本当にエセ中国音楽だったとは…。
失望しました、とたけけのファン辞めてDJ K.Kのファンになります。
けけホーミー
モンゴルの民族音楽。
ジャケットイラストのとたけけが持っているのは絵本「スーホの白い馬」で有名な「馬頭琴(モリンホール)」という楽器です。
絵本の話の内容の通り、弦や弓が馬の毛から作られています。
この曲で最も印象的なのはインスト版、ライブ版の両方で聞こえる謎のノイズのような音と口笛のような音。
これこそが「ホーミー」。
唸るような低音で歌いながら同時に口笛のような高音を出すモンゴルの伝統的な歌唱法です。
ちょっと何言ってるかわかんない。
実際のホーミー。どうなってんのこれ
原理としては、声に含まれている倍音(通常は人間の耳に聞こえない倍の周波数の音)を口内で反響させて増幅することでまるで二つの音が鳴っているように聴こえる、ということらしいです。
言われたところでバトル漫画みたいな理屈だなという感想しか出てきませんが……。
当然ながら難易度は高く、下手な練習法では喉に悪影響を及ぼす可能性もあるとされています。
トルコそんぐ
勇ましさと異国情緒を併せ持つ、トルコ(オスマン帝国)の伝統的な軍楽「メフテル」。
軍楽隊は世界中の様々な国にありますが、その元祖となるのがこのメフテルです。
メフテルを演奏する楽団は「メフテルハーネ」と呼ばれます。名前かっこよすぎ。
とたけけが持っているのはトルコの伝統的な管楽器「ズルナ」。
チャルメラに近い木管楽器で、これがヨーロッパに伝わることでオーボエへと変化したといわれています。
このメフテルはクラシックの「トルコ行進曲」にも大きな影響を与えたそうです。
「トルコ行進曲」はベートーヴェン作曲のものとモーツァルト作曲のもの、同じタイトルでも全く違う2つの曲があってややこしいですね。
皆さんが真っ先に思い浮かべるのはどっちの「トルコ行進曲」でしょうか。
自分はベートーヴェン派です。
けけガムラン
インドネシアの合奏曲。
インドネシア語で「叩く」という意味の「ガムル」に由来しており、その名の通り鉄琴や銅鑼などの打楽器がこれでもかと使われています。
宮廷舞踊や宗教的な儀式、伝統的な影絵芝居の伴奏などで演奏されることが多いです。
ガムランが特に盛んなのはジャワ島とバリ島。
ジャケットイラストで描かれているのは恐らくジャワ舞踊なので、この「けけガムラン」はジャワ島のガムランということになります。
ジャワ島のガムランはゆったりとした曲調、バリ島のガムランは激しめ、と地域ごとに音楽性に差がある様子。
けけカリプソ
トリニダード・トバゴを中心にカリブ海近辺で発展した音楽。
4分の2拍子の、南国の風を感じるトロピカルな曲調が印象的です。
ジャケットイラストの楽器はトリニダード・トバゴ生まれの「スティールパン」。
一見すると太鼓のようですが、れっきとした音階を持った楽器。それもティンパニのようないかにも太鼓といった低い音ではなく、どちらかというと鉄琴に近いイメージの音が鳴ります。
音を聴いてみて真っ先に出た感想が「マリオの音」だったんですが、調べてみたらマリオシリーズのBGMでは実際によくこの楽器が使われているそうです。
↓ソース
アロハけけ
ゆったりとした南国風味の、いわゆるハワイアン・ミュージック。
イラストのとたけけも持っているようにウクレレのイメージが強いですが、「アロハけけ」ではウクレレは使われてない気がします。
メロディ部分で聞こえるポワ〜ンとしたハワイっぽい音の正体は「スティールギター」。
普通のギターのように持って構えるのではなく、琴のように横向きに置いて演奏します。
指ではなくバーで弦を押さえ、それをスライドして音程を変える演奏法が特徴的。
普通のギターでも「ボトルネック奏法」としてたまに使われる手法です。
こちらの「けけスラッキー」もハワイアン系ミュージック。
「スラッキー」とは「スラック・キー」、すなわち「ゆるいキー」という意味で、普通のチューニングから弦を緩めた独特のチューニングのこと(明確にこの音、という定義はありません)。
ハワイ発祥のチューニングであり、前述したスティールギターで多く用いられます。
けけマハラジャ
インド音楽。「マハラジャ」というのは「大王」という意味で、特に音楽とは関係ありません。
インド音楽において重要なのは「ラーガ」と「ターラ」。この二つのワードがとにかく頻出します。
「ラーガ」とはインド音楽における音階の配列のことで、西洋音楽でいうところの「スケール」みたいなものです。ものすごい数のパターンがあるそう。
「ターラ」は一定間隔で繰り返されるリズムパターンのことです。
インド音楽は恐ろしくややこしくて話を聞くだけでも頭がこんがらがりそうですが、とりあえず
ラーガ=音階
ターラ=リズム
みたいな雑な認識でいいと思います。それ以上先は悟りの境地です。
インドの古典音楽は北インドの「ヒンドゥスターニー」と南インドの「カルナータカ」の大きく二種類に分けられます。
同じインド音楽でも北インドは即興性、南インドは伝統性を重視しているとのこと。使われる楽器も南北で異なります。
確信は持てませんが、シタールは主に北インド音楽で用いられる楽器なので「けけマハラジャ」はおそらくヒンドゥスターニー音楽であると考えられます。
「けけマハラジャ」のメロディ部分で聞こえるビヨーンとした音の弦楽器が「シタール」。
「さわり」という、ギターの「ビビり」に近いビリビリとした音が特徴の楽器です。
ギターのビビりは調整の甘さなどから来る良くないものとされますが、シタールは特殊な構造によってわざとこの音を出しています。
三味線にも似た構造があるんだとか。
ちなみに、シタールの話となるとほぼ必ずと言っていいほど出てくるのがビートルズ。
どの本もどのサイトも体感9割くらいの確率でビートルズの名前を出してきます。この記事もその一つになってしまいました。
ビートルズがインド音楽の影響を受けたというのは有名な話で、「ノルウェイの森」などの楽曲では実際にシタールが使われています。
けけアフロ
野生味のある合唱と打楽器が印象的なアフリカの伝統音楽。
「アフロ」というのは「アフリカの」という意味で、髪型の「アフロ」もこれに由来するものです(アフリカ系の人々の間で流行したから)。
異なるリズムや拍子を同時進行で演奏する「ポリリズム」がアフリカ音楽の大きな特徴。
「ポリ」というのは「複数の」という意味で、「けけアフロ」でも複数の打楽器がそれぞれ異なるリズムを叩いているのが確認できます。
このアフリカ音楽の優れたリズム感は後世の音楽に多大な影響を与えており、ファンクやブルース、ジャズ、果てはロックに至るまで様々な現代音楽の源流となる音楽であると言えます。