見出し画像

Next Lounge~私の鼓動は、貴方だけの為に打っている~第25話 「吃音」

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
主題歌:イメージソング『Perfect』by P!NK
https://www.youtube.com/watch?v=vj2Xwnnk6-A
『主な登場人物』
原澤 徹:グリフグループ会長。
北条 舞:イングランド🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿3部リーグ『EFLリーグ1』所属 ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 チーフ テクニカルディレクター。
アベル:舞がペルー🇵🇪のホルヘ・チャベス国際空港で出会ったストリートチルドレンの少年。サッカーが得意というが・・果たして。
アルベルト・マット:ザ ウェスティン リマ ホテル & コンベンション センター アシスタント・マネージャー(副総支配人)。
イバン:舞がペルー🇵🇪のホルヘ・チャベス国際空港で出会ったストリートチルドレンの少年。アベルと共に、孤児院より抜け出して育つ。
エーリッヒ・ラルフマン:サッカーワールドカップ2014優勝ドイツチーム元コーチ。現ロンドン・ユナイテッドFC監督。
エンゴロ・カンテ:プレミアリーグ所属チェルシーFC選手。ピッチの広範囲をカバーする圧倒的な運動量を持ち、ボール奪取のスペシャリストとして有名なフランス🇫🇷代表選手。
カルレス・プジョル:カンテラ(下部組織)上がりのバルサ生え抜きDFで、04年からキャプテンを務めている。闘将、バルサの象徴などとも呼ばれるクラブの支柱。EURO2008では主将としてスペイン優勝に貢献。10年南アフリカW杯優勝。13-14年シーズン限りで、バルセロナを退団している。
ジネディーヌ・ヤジッド・ジダン:スペイン🇪🇸1部リーグ リーガ・エスパニョーラ所属 レアル・マドリード監督。監督再就任にあたり全権を条件とし、任されることに。愛称はジズー。フランス🇫🇷の名手で「マエストロ(巨匠)」の異名を持つ伝説的プレーヤー。強靭なフィジカルと抜群の技術、そして高い戦術眼と、現代サッカーで必要とされる要素を最高レベルで兼ね備えていた。W杯、EURO、CLといった主要タイトルを全て自らの活躍で勝ち取り、バロンドールに1度、FIFA最優秀選手賞にも3度選出。
ジュニーニョ・ペルナンブカーノ:フランス🇫🇷リーグ・アン所属オリンピック・リヨン スポーツディレクター。現役時代、ブラジル代表として活躍、直接フリーキックによるゴール数77本の歴代最多記録を保持する。
セロンド・ムサカ:ソマリア国籍の難民選手。RSB希望。dreamstock(ドリームストック)にて、プロ選手を夢見る。ドイツ11部リーグ所属 難民だけのサッカーチーム ウェルカム・ユナイテッド03所属。                 
ディディエ・ラゴール:グリフ警備保障南米支部 支部長。元アメリカ🇺🇸海兵隊を得て傭兵経験がある。
フィオラ・デ・マルセリス:癖っ毛の澄んだブルーアイが特徴的でエキゾチックなギリシャ🇬🇷女性。ザ ウェスティン リマ ホテル & コンベンション センター フロントスタッフ。
ベラス カンデラ:ペルー国籍の有望選手。ペルー🇵🇪1部リーグ プリメーラ・ディビシオン所属スポルト・ボーイズ選手。CMF登録。dreamstock(ドリームストック)にて、移籍先をチームからも期待される逸材。
ホルヘ・エステバン:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 エージェント。
マリオ・オッドーネ:ザ ウェスティン リマ ホテル & コンベンション センター ドアマン。
ルカ・モドリッチ:クロアチア🇭🇷の次代を担う逸材。卓越したテクニックと高い戦術理解度が持ち味で、トップ下、またはボランチの位置から好機を演出する。クロアチア代表としてチームを牽引し、バロンドールのみならず、UEFA欧州最優秀選手賞、FIFA最優秀選手賞といったあらゆる個人賞を総なめにしている。
リサ・ヘイワーズ:ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 事務。

アイアン・エルゲラ:ロンドン最大のギャング組織集団『グングニル』の元リーダー。ロンドン・ユナイテッドFC選手。GK登録。通称アイアン。原澤会長に"舎弟"として気に入られている。
坂上 龍樹:ロンドン大学法学部1年。元極真空手世界ジュニアチャンピオン。ロンドン・ユナイテッドFC選手。CF登録。通称リュウ(龍)。
デニス・ディアーク:元バイエルンミュンヘンユース所属、元ギャング団グングニルメンバーの在英ドイツ人🇩🇪。ロンドン・ユナイテッドFC選手。 CB登録。
ニック・マクダゥエル:イングランド🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿とナイジェリア🇳🇬の二重国籍を持つ、元難民のロンドン・ユナイテッドFC選手。DMF登録。通称ニッキーと呼ばれ、アイアンとは幼馴染み。キャプテン。
レオン・ロドゥエル:特徴的なモヒカンヘアで、表情を変えない北アイルランド人。そのクールさから"アイスマン"と呼ばれるロンドン・ユナイテッドFC選手。LSB登録。

☆ジャケット:ザ ウェスティン リマ ホテル & コンベンション センター エントランスホール
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

第25話「吃音」

グリフグループ会長、原澤 徹のスマホに着信が入った。デスク上の暖色系の明かりが、パソコン周辺を照らしている。彼は、スマホを掴むと液晶画面を覗き込んだ。画面には"舞"の文字が燦然と輝いていた。電話の主は、彼の最愛の女性、イングランド🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿3部リーグ『EFLリーグ1』所属 ロンドン・ユナイテッド FC 総務部 エージェント課 チーフ テクニカルディレクター 北条 舞からであった。
「どうした?」
「あ!すみません・・もう、おやすみかと思いましたが・・かけてしまいました。」
彼がスマホをスピーカーモードにしたことで、会長室に今朝聞いた愛しい声が溢れるとメロディーの様にジャズと混ざりあって、彼の耳に入って来た。
「いや、大丈夫だよ。」
「ロンドンは、23時頃ですよね?」
「ああ、そうだな。リマは?」
「17時です。」
「そういえば・・舞?」
「はい?」
「あまり、ラゴール達に迷惑を掛けるなよ?」
「えっ?彼から苦情ですか??」
「外見に似合わず"無鉄砲だ"と、そう言っていたな(笑)。」
「本当ですか?おっかしいなぁ??そんな事は・・無いと思うんですけどね〜?」
「"知らずは本人ばかりなり"と言ったところか(笑)。」
「でも、助かりましたよ?徹さんの御好意でスマホを無くさずに済みましたし、ありがとうございます。」
徹は徐にワインのボトルを取ると、コルクを抜いてグラスに注いだ。その心地よいサウンドが、彼の鼓膜を揺すった。
「どういたしまして。」
グラスを持ち、軽くワインをローリングさせて香りをたたせた彼は、それを鼻腔に吸込み軽く息を吐くと、口に含んだ。
「あのう、徹さん?」
「ん?」
「御願いがあるのですけど・・聞いてもらっても?」
「御願い?」
「はい。」
「構わんよ、どうした?」
徹はそう言うと、会長席に再び腰を降した。
「リュウをロンドン大学の親善試合に出場させた際、アウェイの市民チームに有望な選手達が居て引き入れたのですが、その中に徹さんも耳にしたアイアン推薦のデニスが居ました。」
「先日、ホライゾンで会ったよな?」
「はい。その彼が、一緒に入団予定のレオン・ロドゥエルを心配してるんです。」
「心配?また、何で?」
「"彼は、イギリス人を心から嫌悪してる"ので、それが心配だと。」
「何?」
徹は、スマホから聞こえた舞の言葉に反応し、目を向けた。
「彼の父親方の祖父は一般人でしたが、北アイルランド紛争時にIRA(アイルランド共和国🇮🇪)のテロ行為を鎮圧しようとしたイギリス🇬🇧軍の誤射に遭い命を落としたそうです。そのため、彼は父親からイギリス政府の横暴さを幼い頃から説かれていたそうで、彼も自然とその影響下に・・」
徹の表情が鋭くなった。北アイルランド紛争・・忘れもしない、1998年のベルファスト合意まで断続的に発生した紛争だ。徹はワイングラスのワインを飲み干した。
「レオンの個人情報は、分かるよな?」
「はい、大丈夫だと思います。」
「勿論、伝手はある。時間をくれ。」
「いいんですか?」
「何が?」
「だって・・」
「自分の女の頼みを無視するヤツが、何処にいる?了解したよ。」
と、部屋中に舞の声が響いた。
「ちょっと!?何やってるの!!」
「・・シャワー浴びただけだぜ?」
「泡が付いたままじゃない!もう・・何やって・・」
スマホからは引き続き、舞の叱る声が聞こえてくる。
「全然、洗えてないじゃない!」
「うっそでぇー!洗ったぜ?」
「今の貴方達には、一回じゃ無理なのよ。もぉー!イバン、もう一度入って!」
「舞・・俺も駄目なのか?」
「そう、ダメよ!ほら、アベルも入りなさい!」
アベルとイバンは、不満顔でバスルームへと入って行った。
「仕方ないなぁ・・。」
そう言うと服を脱ぎ始めた彼女は、髪を結い上げバスタオルで身体を覆うとバスルームの扉を開けた。
徹はスマホから聞こえて来た声を聞いて、目を丸くした。
「確か、ラゴールの話だと13歳位の男の子達だったよな?」
舞が、思春期の男の子達を子供の様に遇らうことに一抹の不安を感じたのだが・・
「うわ!何だよ舞?」
「洗い方がなってないのよ、まったく!イバン、貴方からよ!」
「えー〜!?」
"バタン!"
バスルームの扉が閉まり、やがて声が遠くなった。
「だ、大丈夫か?」
思わず徹も目を丸くしてスマホを握ったのだが、
軽く首を振るとため息をついた。どうやら、北条 舞という女性と付き合うことは、こういうことなのかもしれない。そう理解した彼は、スマホの通話を切ったのだった。
「イタタタ!舞、もうちょっと優しく洗ってくれよぉ!?」
「動くと耳に泡が入るわよ!」
イバンをバスチェアに座らせると、彼女はシャンプー剤を手に取り、手のひらで空気と水を混ぜるように泡立てると、頭頂部、両サイド、後頭部にのせ、指の腹を使って髪全体に空気を含ませるようにして、さらに泡を立てていった。
「泡立ちが悪いでしょ?しっかりと泡立ちさせないと、汚れが取れないのよ。」
"ヒーー!"とイバンの悲鳴が木霊すバスルームで、アベルは浴槽の中、仕方なく立ち尽くしていたのだが、目の前で舞が真っ白な肌に胸の谷間を見せ、バスタオル1枚を巻いた姿でいることに、股間が大きくなるのを必死に耐えた。まだ、13歳である。コールガールの女性に相手を所望されて経験が有るとはいえ久し振りに、しかも、舞ほどの美人の素肌を見ることなど皆無に等しい。前屈みになったことで、舞のお尻へと視線が行った。もう少し屈めば、中が見える!?そう思った時、彼は手の中で果てていた。あまりの快感にアベルは、背を向けると勢いよく放出する体液を手の中で受けると、急いで浴槽のシャワーを開いて流した。
「アベル?次、洗ってあげるからね?」
「あ・・ああ、頼むよ。」
「イバン、流すわよ?」
「早くしてくれよーー!」
アベルは、持っていたシャワーノズルを舞に渡そうとして躊躇した。
「どうしたの?貸して、アベル?」
「俺が流すよ。」
アベルかイバンの頭を洗い流した。
「うん、ありがとう。」
舞は再びシャンプーを付け洗い始めた。アベルは、舞の気付かない様に石鹸を手に取り、シャワーノズルと彼のノズルを洗った。しかし、困った事に、目の前のこの人は誘惑しているかの様に見えそうで見えない肌身を晒している。アベルのノズルが、躊躇なく起立し始めた。
「ちょ、ちょっと、舞!?まだ、洗うの?」
「これで、ラストにするわよ。手を出して?」
「こう?」
舞は、両手の平を出したイバンの手にボディーソープを付けた。
「顔を隅々まで洗ってね。」
「うん・・」
イバンが素直に従うと、再びイバンの頭を隅々まで洗った舞が、アベルを見上げた。
「アベル、お願い?」
「えっ?あ、ああ。」
「イバン、顔も流すのよ。」
「うん。」
イバンが言われるまま顔を洗い流すと、舞がアベルを止めた。
「オッケー!次は、コンディショナーで終わりだからね。」
「えーー?まだ〜?」
「はいはい。」
舞はイバンの苦情を聞き流して、髪を拭き始めた。
「あれ?拭いちゃうのか、舞?」
「うん、コンディショナーを使う前に髪の毛の水分をよく切らなければダメなの。シャンプーで洗い終わって、すぐにコンディショナーをつけてしまうと水分が多過ぎて髪になじみにくくなるのよ。髪の毛の水分を切ってコンディショナーを使うことで、コンディショナーがよく髪の毛に付着するのね。」
「へぇ、知らなかった。」
舞は、コンディショナーを適量手の平に広げ、髪の毛に塗っていった。はじめに、髪の毛の中で最も傷んでいるとされる毛先を中心にコンディショナーを塗り、全体にかけて塗っていく。
「さ、終わったわよ。アベル、よく流してね。」
「了解。」
アベルは、もう開き直ってしまった。先程、雄のエキスを出してしまったことも幸いし"見るなら見ろ!"と、舞に言ってやる!そんなところだ。
「はーい、よく我慢したわね。さあ、ラストは身体よ。」
「もう、疲れたよぉ〜。」
イバンが火照った顔をして天井を見上げた。舞はボディソープを泡立てネットで泡立てるとイバンの身体を洗い始めた。見る人が見たら、ソープ嬢の様な光景かもしれないが彼女としては、元彼、間宮孝彦と付き合っていた時にしてあげていたことで普通のことだった。まあ、その時は全裸であったのだが・・
「ちょっと、泡が黒いじゃない!」
「あ、本当だ!」
「だから、言ったじゃないの、もう!白い泡になるまで洗うわよ。」
「ヒーー!
「ほら、逃げないの!」
都合、舞のボディ洗いは、3回に及んだ。
「お尻の穴と・・その・・"元気なJr."は、自分で洗ってよね。」
洗われて火照ったイバンだが、そこだけは"ギンギン!"にいきり立っていた。
「う、うわァー!見るなよぉ〜!」
「そ、そんなことはどうでもいいから、しっかり洗いなさいよ。ほら、アベルが洗えないでしょ!」
イバンは、舞からボディソープを手の平に受け取ると背中を向けて洗い出した。
「イバン・・一皮剥けたか?」
「舞のおかげで、身体中ヒリヒリするぜ!」
「ほら、分かったってば!」
舞はそう言うと、イバンの身体にバスタオルを掛けた。
「ちゃんと拭くのよ、いい?」
「先、出てるよ。」
「冷蔵庫のコーラ、飲んでいいからね?」
「マジか!?頂き!」
イバンは、そう言うとよく拭かないでバスルームを後にした。
「はい、お待たせ!髪、洗っちゃおうか?」
アベルは、顔を火照らせ玉の様な汗を浮かべた彼女を見た。何とも言えない愛らしさと色気に、頭が"クラクラ"してくる。彼は、浴槽から出ると起立した股間を隠して、バスチェアに腰掛けた。
「自分で洗うよ。」
「ホント?分かったわ、流すのは私がやるわね?」
舞は差し出されたアベルの手の平にシャンプーを乗せ、彼はそれを髪に乗せると泡立てることに努めた。
「2回は洗おうか?泡立ちが良くないもの。」
「ホント?そんなに汚れてるのか?」
「ええ、とってもね(笑)。」
一通り髪を洗ったアベルは、舞に流してもらい2回目のシャンプーに入った。
「ねぇ、アベル?」
「何?」
「私・・まだ、貴方のサッカーをする所を観てない。」
「えっ?」
アベルは頭を洗いながら右目だけを開けて、舞の声がする方を見上げた。
「結構、いい筋肉してるもんね?」
舞は床に膝立ちになると、アベルの身体に触れた。彼は、思わず身体を硬らせた。
「あ・・ごめんなさい。背中を洗うわね?」
舞はボディソープを泡立てネットで泡立てると、アベルの頭をシャワーで流した。
「ラストよ、アベル。しっかり洗ってね。」
アベルは、無言で目を閉じて洗ったが、その目蓋の裏には舞のバスタオル1枚の姿が、くっきりと残っていた。すると、舞が彼の背中をボディタオルで洗い始めた。それも、結構強い力で。
「痛くない?」
「大丈夫だよ。」
「そう?私ね、日本人って言ったでしょ?国では特に男性かなぁ?後輩が先輩の背中を洗う様な風習があったりしたの。後輩が先輩の背中を追うというか・・洗えない背中を後輩に任せるというか・・とにかく"任せる"というのかな?背中って見えないし届かないから、弱点みたいなものだと思うの、信頼感なのかなぁ?ふと、アベルの背中を洗っていて思い出しちゃった。」
アベルは、舞の言葉を反芻していた。"背中を任せる"自分は、誰かに任せたことがあったのだろうか?イバンとは親友として居るが、そんなこと考えてもみなかった。もしかして、舞という女性が彼にとって初の信頼できる"姉"の様なそんな気がしてきた。舞に背中と頭を流してもらい、バスタオルで拭いてもらった後、コンディショナーをしてもらった。
「舞?」
「な〜に?」
「その・・ありがとう。」
「え?ふふふ、気にしないで。正直ね、気を紛らわせているんだ、きっと。」
「紛らわす?」
「うん・・流すね。」
舞はアベルの髪に付いたコンディショナーを洗い流し、バスタオルで拭き始めた。
「正直、ベラス・カンデラ選手を獲得できる自信がないから、不安でしょうがないの。」
「何で?」
「アベル?貴方なら、プレミアリーグの名門チームから声を掛けられているとして、3部所属の無名チームに行く?」
「そういうことか・・」
アベルの耳に、舞がため息をついたのが聞こえた。
「いつも問い掛けてるわ。選手にとって、本当に為になるのかどうかを・・だからこそ、彼をチームに勧めて良いのか悩んでしまうの。」
舞が再びボディソープを泡立てネットで泡立て、ボディタオルを浸しアベルの身体を洗おうとした時、アベルはそれを受け取り自分で洗い始めた。彼女がイバンを洗うのを見ていたこともあり、彼は真面目に真似て洗った。安心した舞は、浴槽のヘリに腰掛けるとアベルを見つめていた。
「俺だったら・・"自分を必要だ"と、そう言ってくれたら、行きたくなると思う。」
「え?」
「"誰かの代わりでなくて、俺だから欲しい!"そう言われたら、嬉しいんじゃないか?」
誰もが主役になれる、エースと言われる選手だけではなくだ。ベラス・カンデラという選手を見た時、彼女は未来を見た気がした。ロンドン・ユナイテッドFCの中盤に君臨し続け、無限のスタミナで神出鬼没に縦横無尽の働きを成す、無表情の鉄人。まさに、いぶし銀の漢を感じたのだ。
「彼の気持ちを聞いてみないことには、分からないだろ?」
「そうね・・分からないよね?ありがとう、アベル。」
舞の顔を見ようと振り向いた彼の視線の先に、浴槽のヘリに腰掛けたバスタオル1枚の舞が視界に入った。だが、瞬時にアベルは身体を丸くして前を向いた。
「ん?どうかした??」
この人は、気付いていないから困ったものだ。振り向いた彼の視線の先、真っ白な太ももの間から舞の整えられた恥毛のデルタゾーンが、微かに目に飛び込んで来たのだ。ただでさえ敏感になっている彼の男根には、影響大であった。
「流そうか?」
「いや、もう少し・・」
彼は話し掛けてくる舞の言葉に反応する度に振り向いて、目にその素晴らしい光景を何度も焼き付けると、その右手で忙しなく自分の分身を擦り上げ彼女の見ている中、手の中で2度目の絶頂に達していた。腰に気怠い様な甘美な痺れを感じ、彼は恍惚の表情で目を閉じた。
「ごめん、舞。流してくれるかい?」
「え?あ、うん。ねぇ、大丈夫?」
アベルは、舞にシャワーを促すと彼女に見えない様に泡と共に、その濃いミルクも流した。
「悪い、もう1回洗うよ。」
集中して洗っていなかった事に気付いたアベルは、意を決して舞に促した。だが、困ったもので、まだ、視界に素晴らしい誘惑が飛び込んで来ていて、未だ彼の息子は衰えを知らないようだった。
「じゃあ、貸して?」
「え?」
「ボディタオル。仕上げをするから。」
「い、いいよ!」
「何言ってるの!とても上手いとは、言えないわよ、ほら!」
「だから、いいって・・!?」
「きゃっ!?」
揉み合いになった舞とアベルだったが、彼女が身体を伸ばした時、その裸体を覆っていたバスタオルがはだけてしまった。露わになった舞の肌身を観て、アベルが固まった。
「あー、もう!・・ねぇ、見えたでしょ?」
「え?あ、うん。少しだけ。」
「参ったなぁ〜、もう。」
そう言うと、舞は外れたバスタオルを抑えて立ち上がりアベルの見えない位置を確認すると、バスタオルを一度はだけてから巻き直した。
「これで、よし!さあ、ボディタオルを貸して?」
アベルは、無言で舞にボディタオルを渡すと股間を押さえた。舞のバスタオルの隙間から反対側の鏡が少し見え、彼女の裸体が目視出来てしまったからだ。柔らかそうな乳房にくびれたウエストが引き締まった、素晴らしい裸体だった。
「ねぇ、アベル?貴方が好きなポジションは、何処なの?」
「え?」
「サッカーの。」
「あ、ああ。好きなのは、センターバック(CB)だよ。」
「え?いっがーーい(意外)!そうなの?」
舞がアベルの左腕の垢を落とす様に強く洗った。
「なんで?」
「もっと、"バリバリ"のフォワード(FW)希望かと思ったもん。」
「そうか?でも、俺が好きな選手は、カルレス・プジョルなんだけど。」
「FCバルセロナのレジェンド選手ね!」
「ああ。相手アタッカーを弾き返して封じたり、豪快なヘディングで攻撃を跳ね返し、粘り強く体を寄せ、あきらめないディフェンスでボールを奪い取り、隙あれば攻め上がって、その迫力はたじろぐほどだから憧れるんだ。」
珍しくアベルが、熱の入ったことを話してくれたことに、舞は穏やかな表情で聞いていたが、その嬉しさは計り知れなかった。彼が心を開いてくれた、それを強く感じたから。でも、アベルが心を開いた、本当の理由を彼女は知らない。
「チームのために汚れ役になるのも厭わない姿勢、相手に対しても敬意をもって接する、それは尊敬すべきものだわ。」
「だろ?俺も、そんな・・」
「どうしたの?」
「何でもないよ。」
アベルは言葉を区切ると、そこで項垂れてしまった。
「アベル、チャンスは自分で掴み取るものだよね?」
「え?」
「私、サッカーエージェントだよ?」
「・・」
「貴方のことも、観ているわ。」
「何言ってんだよ!俺は・・」
「ストリートチルドレンだから何よ?うちのキャプテンは、今年18才でしかも、ナイジェリア🇳🇬からの難民よ。母親を亡くして病魔と闘う父親を看病しなら、薬学を勉強する妹の面倒もみているわ。それに、もう1人獲得を狙っている選手は、アフリカのソマリア🇸🇴でイスラム過激派組織アル・シャバブへの加入を拒んだ父親が殺害され、身の危険を感じた家族とドイツへ逃亡してきたそうよ。北アフリカからイタリアへの難民船の乗員177人のうち、たった5人しか生き残らなかった。彼は、欧州の地にたどり着いたそのうちの1人なんだって。家族はその際に亡くなられてね、それでも彼は『出来ることは、唯一サッカーだけ』だったと言ったそうよ。」
アベルは、舞に洗われながら一言も逃さず聴いていたが・・ショックだった。自分は、両親を知らないが、孤児院に入れたことはラッキーだったと思ったことはなかった。初めて聞く難民の経験談は、とても衝撃的なことだった。
「さあ、これで良いわね。流すわよ。」
「ありがとう、舞。」
「え〜?いいわよ、気にしなくて。」
アベルの中で、何かのスイッチが"カチリ!"と音を立てて入った気がした。それが何なのかは分からない、だが、彼の人生が始まる、そんな音だったのかもしれない。
「はぁ・・最後は、私ね。先に出て休んでて。」
舞はバスタオルで彼の背中を拭くと、そのまま彼に手渡して言った。
「うん、分かった。」
舞に促されて部屋に足を踏み入れた彼は、ベッドの中央で全裸で横になり股間を右手で握り締め、1人エッチに励むイバンを観た。左手は、舞の履いていたパンティを掴み顔に押し当てている。
「おい、イバン?」
「ちょっと、待てよ・・もう少し・・なんだ・・・うっ!?」
どうやら、いった様だ。
「何回目だよ?」
「3回目だ。参ったよ、これ!見つけちゃってよ、匂い嗅いだら堪らなくなっちまったよ。お前も嗅ぐか?」
「馬鹿だな、嗅ぐかよ!」
本当は、嗅ぎまくりたかった。
「そうか?でも、この布の辺り固まってるの、きっと、舞のラブジュース(愛液)だよな?」
「え?嘘だろ?」
「ほれ!な?」
アベルは、イバンに言われて凝視したが、確かに・・そんな気がする。
「もうさ、たまらないよな!舞、いい女だし。」
「い、いいから、早くしまえよ!」
「何だよ、折角見せてやったのに・・」
イバンは、そう言うとブツブツと呟きながら舞の履いていたパンティを、元あった彼女の服の所に戻した。
「アベル、舞と何を話していたんだ?」
「えっ?何って・・別に。」
アベルは、着替えながら曖昧な返事をした。
「少しだけど、声がしたからさ。」
アベルは、Tシャツを着ると呟く様に話し始めた。
「俺の・・」
「え?」
「『俺のサッカーをしている所を観たい』と言われた。」
「お!興味あるって?」
「ああ。」
「凄いじゃないか?なぁ、もしかしたら『ワンチャン』あるんじゃないか?」
「『ワンチャン』って、何だよ?」
アベルは着替え終わると、冷蔵庫からコーラを取り出した。
「あ!俺のも頼むよ。」
アベルは言われるままに、もう一本取り出しイバンに放り投げた。
「Gracias(サンキュー)♬」
「夢は見ない方がいいだろ?」
「何で?」
「何でって・・夢を見れるならいいじゃん!無料(タダ)だし。」
「そんな簡単かよ!」
「お前は、難しく考え過ぎなんだよ。『ラッキー♬』ぐらいにしとけ?」
「いいよな、お前は単純で。」
暫く2人でテレビを観ていたら、バスルームの扉が開いた。
「はぁ、疲れた。」
髪を結い上げ、火照った顔をした舞がバスタオル一枚で出てきた。
「長かったな、舞?」
「そう?」
彼女はそう言うと、自分のキャリーバッグに歩み寄って屈み込み、着替えを取り出した。その色っぽい仕草に、アベルとイバンが鼻の下を伸ばして見惚れる。か細く、真っ白なうなじ、バスタオルから溢れそうなバスト、くびれたウエストに引き締まり張り出したヒップ、そして真っ白な太もも、どれもが少年達に、妄想を抱かせる魅力的な女性の象徴をもった人、それが舞であった。
「ちょっと、待っててね。」
彼女はそう言うと、着替えを抱えて再びバスルームへと消えて行った。
「なあ、アベル?」
「え?」
「舞って、いくつなのかな?」
「さあ・・東洋の女って、幼く見えるから分からないよ。」
「うん・・」
暫くして、バスルームからドライヤーを使う音がして来た。しばらくしてバスルームの扉が開くと、膝が隠れるロング丈でネイビーカラーのワンピースを纏い、髪をポニーテールにした舞が現れた。スーツ姿の凛々しい彼女とは異なり、異国を愉しみたい!そんなステキな女性が居た。
「待たせてごめんね、ファンデーションと眉を描いてたの。あ、似合うじゃない、2人とも!ステキよ♬」
舞が両手を胸の辺りで合わせ、2人に微笑んだ。
「お腹空いたよね?早速だけど、夕飯を食べに行こうか?」
「やったーー!」
「いいの?本当に?」
「え?勿論!遠慮しなくていいわよ。」
舞はそう言うと、自分の来ていた服を仕舞うために屈んで手を伸ばしたところで動きを止めた。
(やばっ!?)
イバンが、動揺してアベルの顔を見た。一瞬、手を止めた彼女だったが、何も言わずにそのまま手に取り、膝の上で畳み直すとキャリーバッグを開け、専用の袋にしまった。アベルの目に下着だけを分けて入れるのが見えた。
「ねぇ?」
「は、はい〜!?」
舞の呼び掛けに、イバンが思わず素っ頓狂な声を上げた。
「凄い返事ね(笑)。何か食べたいのある?」
「え?」
2人が顔を見合わせて悩んでいるのを見た彼女が"クスリ!"と微笑んだ。
「2人に食べさせてあげたいのがあるんだけど、どうする?」
「え?なになに??」
イバンが、座っていたベッドから勢いよく立ち上がった。
「お寿司!食べようか?」
「お寿司?何だよ、それ?」
アベルが目を丸くした。
「知らないのか?」
「え?お前知ってるのか?」
「知らねぇ、だけど美味そうじゃん!」
舞が大爆笑した。
「あははは!そっか、じゃあ!そうしようか。ホルヘを呼ぶわね。」
舞はそう言うと、サイドテーブルに載せておいたスマホからホルへを呼び出した。
「あ、ホルヘ?」
「お待ちしてましたよ、チーフ。」
「ごめんごめん。お寿司、食べに行こうと思うけど、どう?」
「お寿司?ですか?・・良いですねぇ〜♬私、久しぶりですよ!」
「よし、直ぐ行ける?」
「承知しました。」
舞は振り返って2人を見ると、背後にくっ付き目をキラキラさせている。それを見た彼女が、再び吹き出して笑った。右手を口元に当てて、目を細めて笑うのを観て、2人も嬉しそうだ。
合流した4人は、舞を先頭にエレベーターホールへと向かう。
「チーフ、宜しいんですか?」
「もう、大丈夫よ。2人共、ピッカピカ☆だもんね?」
「どうだ、似合うだろ!」
「ああ、先程とは大違いだな。」
心配したホルヘに、イバンが胸を張って応えた。エレベーターで1階へ、受付のあるエントランスへと降りた。天井を見上げてしまうと、余りの高さにそのまま転倒しそうになったイバンをアベルが支えた。
「ホルヘ、彼等をお願い。」
「あ、私が・・」
「お店を聞くのよ、お願いできる?」
「承知しました。」
舞はそう言うと、フロントへと向かった。
「こんばんわ。」
フロントの女性が、和かに微笑んだ。胸に"フィオラ・デ・マルセリス"の文字が見える。癖っ毛の澄んだブルーアイが特徴的な女性だ。
「こんばんわ、フィオラ。これから、お寿司、和食を外で頂こうと思うんだけど、オススメのお店はあります?」
「お寿司の食べれる和食店なら、当ホテルにもございますが?」
「今日は、ちょっと・・」
「どうか、なさいましたか?」
会話の途中で、アルベルト・マット副総支配人が声を掛けてきた。
「あ!先程は、スミマセンでした。」
「いいえ。」
「お寿司、和食を外で頂こうと思うのですが、オススメはありますか?」
アルベルト・マット副総支配人は、背後にいるアベルとイバンを見て理解したようだった。
「ですが、今のお客様ならば宜しいのでは?」
「慣れないといけないですから。」
「なるほど・・承知致しました。少しお待ち下さい。」
アルベルト・マット副総支配人がその場を後にすると、フィオラが声を掛けて来た。
「あのう・・何か、問題でも?」
「いいえ、こちら側にね。」
「あ!失礼しました。」
「ごめんなさい。こちらのお店、人気あるんでしょうね?」
「それは、もう!業界関係者の方々も多くいらっしゃいますよ。」
「業界?」
「ええ、政治、経済界、芸能・・色々な方々にお会いする時がありますから。」
「そんな凄い所だと、彼等が緊張しちゃうかな。」
「そうかもしれませんね?」
2人は、顔を見合わせて笑いあった。
「楽しそうですね?お待たせ致しました。」
舞とフィオラが楽しそうに話していると、アルベルト・マット副総支配人が戻って来た。
「こちらなど、如何でしょう?"Edo Sushi Bar"というお店になります。料理は和食, 寿司, フュージョンとなりまして、ベジタリアン料理、ヴィーガン料理、グルテンフリーと、お客様の事を考えたお店となっております。我々も、仕事明けに行ったりするんですよ。」
「へぇー、それは楽しみだわ。伺ってみます。」
「では、こちらから連絡を入れておきましょうか?」
「宜しいのですか?」
「勿論です。"北条さま"でお伝えしておきます。」
「ありがとうございます。」
アルベルト・マット副総支配人は、笑顔で軽く会釈をすると、備え付けの電話で店に連絡をしてくれた。
「お待たせ致しました、大丈夫ですよ。」
「御丁寧に、ありがとうございます。早速、伺ってみますね。」
「明日の朝は、是非、当ホテルのレストランを。」
舞は振り返って、アベルとイバンを見た。
「明日の朝は、こちらでお世話になるわよ。御行儀良く出来るかしら?」
「無理だね。」
「出来る訳ねぇーし。」
「えーと・・考えさせてください。」
舞は無表情で振り返ると、呟く様に話しアルベルト・マット副総支配人が、苦笑いをして頷いた。軽く会釈をしてその場を離れた舞は、エントランスホール入り口、玄関ホールへと向かった。
「ねぇ、少しは良くなろうとか思わないの?」
前を行き振り返った舞が、アベルとイバンを見て話し掛ける。
「最初から良い子だぜ、俺ら。」
アベルの一言に、イバンが深く頷いた。
「分かった・・もう、いい。」
玄関を通る時、ホテルアシスタントマネージャーでありドアマンのマリオ・オッドーネに挨拶を受け、4人は目的地である"Edo Sushi Bar"へと向かった。途中、ホルヘが珍しく舞に話し掛けて来た。この近辺のこと、そして、他チームエージェントと思われる者達のこと。そして、彼は舞に問い質してきた。
「チーフ・・正直、ベラス・カンデラの獲得は、困難かと思うのですが・・何か、勝算はあるんでしょうか?」
1番聞かれたくない質問に、彼女は小さくため息をついた。それをアベルが不安そうに見つめている。
「無理かもしれないわね。でも・・、会わない訳には行かない。」
「何故です?」
「今後があるから、かな?もし、今回、縁が無かったとしても、彼との繋がりは大事にしておきたいのよ。二番煎じでも、三番煎じでもいいから、彼に選んでもらいたいの。」
「しかし、チーフ・・それは、無駄なことでは?」
舞は今度は空を見上げ、呟くようにホルヘへと語った。
「無駄か・・そうかもね。期待された選手が実際、残念な結果となることは、よくあることだわ。でもね、この選手なら、きっとそんなことになったとしても立ち上がれる、再起出来る、そんな気がするから。」
「何故、そう思えたるんです?私には、そんな感じがしませんでしたが?」
「必死さと理知的、それに感の良さかしら?プレイを観て、そう感じたわ。チームの皆が下を向いていても、彼だけは敵チーム選手を睨み続ける、そんな気がしたのよ。」
「そんなこと、分かるわけないじゃないですか!」
「分かるよ。」
ホルヘが舞の考えを理解出来ないと、問い質す最中、アベルが反論したのだ。
「え?」
3人が思わず、アベルを観た。
「メンタルって、凄ぇ大事なんだよ。自分より強ぇ奴を目の前にしても、ビビらずに普段みたいに立ち向かえる奴は、絶対強ぇから。舞、そのベラスって選手は、当にそんな奴なんだろ?」
「ええ、そうね。」
舞は、アベルに微笑んで魅せた。彼がとろける程の素敵な笑みで・・。やがて、店に到着した4人は、テーブル席へと座り、彼女はメニューからアベルとイバンに"炙りサーモンのアボカド添え"を勧め自分も頼むと、ホルヘは寿司を頼んでいた。あまり経験が無いのだろう、アベルとイバンが落ち着かず、周囲をキョロキョロと見廻している。やがて、運ばれてきた食事を観て、2人が目を丸くした。
「さあ、食べましょ!美味しそ〜♬」
「舞・・これ、生じゃないか?」
「ん?お寿司って、生がほとんどよ。まだ、慣れないだろうから、炙りサーモンにしてみたの。こうして、わさび醤油をかけて・・と。」
舞がわさびを溶いた醤油をかけ、箸で掴んで口に放り込むと両手で頬を挟んで目を細めた。
「んー〜!美味しい♬トロけるわぁ〜!ほら、同じ様にして食べてみて!」
2人は舞に教わった通りにわさび醤油をかけ、スプーンで口に運んでみた。イバンが目をまん丸にして驚いている。
「ウンメェーー!なんだ、これ???」
イバンが口に含んだまま叫ぶ横で、アベルがお碗に入った炙りサーモンとアボガドを凝視している。
「どう、美味しい?」
アベルは舞の問い掛けに無言で頷くと、一気に食べ始め、隣に居るイバンも同じタイミングで頬張り始めた。
「一緒に"お味噌汁"も飲むと、最高に美味しくなるわよ。」
2人は舞に言われる通りにし、交互に食べまくった。
「凄い食欲ですね?」
ホルヘが、2人を目を丸くしてみている。
「"美味しい物は、美味しく頂くのがいい"の。喜んでもらえると、こっちも嬉しくなるわ♬」
舞も、2人を微笑んで観ながら食べ始めた。
「ふぁーー!食った、食った!」
「はぁ・・」
「お碗に付いたご飯粒はね、最後まで全て頂くのよ。」
「何で?」
食べ終わったアベルが、味噌汁をすすりながら舞を観た。
「その一粒一粒が、農家さんの苦労だもの。失礼なことは出来ないわ。」
「ははは!そんなの、考える訳ねぇーだろ!なぁ?・・アベル?」
「・・」
アベルは、味噌汁を飲み終えると、丼の中身を見つめスプーンで米粒を取り、食べ始めた。それを観たイバンが舞の顔を観ると、彼女は優しく頷いてみせ、イバンもアベルに倣って食べ始めた。
「それでいいのよ。"感謝する気持ち"これは決して忘れないで欲しいな。」
食べ終わった2人の前に、舞がメニューを広げて見せた。
「デザート、食べようか?何がいい?」
「え?」
「いいのか?」
「勿論!私、パフェがいいな〜♬」
舞が"ペロリ"と舌舐めずりするのを観た2人は、身を乗り出して選び始めた。目を輝かせて選ぶ2人を観て、彼女の中に愛おしさが込み上げてきた。
(可愛いなぁ〜。)
もう、すっかり、結婚適齢期の舞だった。やがて、注文した苺🍓たっぷりのパフェが4つ届いた。まさかのホルヘも注文するとは・・いやいや!顔で判断はいけない、日本では確か・・プロレスラーで甘党の人が居たような気がする。
「思ったより、大っきいね。」
「初めて見たよ・・。」
「ま、舞、何処から食べるんだ?」
イバンが、鼻の穴を広げて舞に問い掛けた。
「アイスクリームを後回しにすると、ドロドロに溶けてしまうよ。スプーンの届く範囲にアイスがあるだろ?なるべく優先して、溶ける前においしく食べるといいよ。」
珍しくホルヘが助言してきたことに、舞は目を丸くした。
「ホルヘ、結構好きなの?」
「あ、はい。私、お酒飲めないので、甘いの好きなんです。」
「そうなんだ。」
「あ、それと、パフェに添えられているフルーツのなかでも、イチゴは一口サイズだけど大きめにカットされてるだろ?一口で食べきれない場合に、食べかけを器に戻すのはNGだと思うなぁ。」
「そんなの一口だよ!」
イバンが手掴みで苺🍓を取ると口に放り込んだ。
「それとな、味の濃厚なものから食べるのはやめた方がいい!自分の好きなものから食べたいと思うが、好物だからといって真っ先に濃厚なチョコレートからいくと、より繊細なデザートの味がわからなくなる。まずはゼリーやムース類など、あっさり系からいってだな、チョコレートやクリームの味が濃厚なものは後回しにする方が、より多くの種類のデザートを楽しめるってもんなんだ・・、おい!聞いてるのか?」
ホルヘの珍しい講義も、彼等には馬の耳に念仏なのかもしれない。スプーンを片手に凄い集中力で食べている、時折、果物が手掴みだが・・。
「あんた、ゴチャゴチャとうるさいよ。」
「な、何だと!」
アベルが眉をしかめ、ホルヘに呟いた。イバンは、パフェの中身を覗き込んでいる。
「まあまあ。ホルヘの言う事は、理解出来ると思うけど、まだ、早かったかな。」
「し、しかし・・美味しく食べた方が良いのでは?」
「食べるうちに気付くこともあるわよ。」
ホルヘは、口をへの字にしてスプーンを操っている。それを見て、舞が"まあまあ"と宥めた。やがて、アベルとイバンが、空になったパフェの容器の底に残ったクリームを必死になって掬い始めた
「やべぇ、もう、無くなる?」
「俺もだ。」
"かちゃかちゃ"とガラス容器にスプーンが当たる音をさせた。
「まったく!さっきから、うるせぇーなぁ、おい!」
「ガキが来る店だと分かっていたら、来なかったよな?」
「本当だぜ、まったく!」
アベルがスプーンを止めて振り返り、声がした背後の席を睨んだ。舞は、アベルとイバンに軽く人差し指を立ててウインクすると、音を抑える様に促した。
「食事中の音は、気にする人も居るから抑えようね?」
舞の穏やかな説得に対して、ホルヘが片方の口角を上げてニヤけた。アベルの目が鋭くなった瞬間、再び舞が小声で声を掛けた。
「ア・ベ・ル、駄目よ?」
彼は舞と視線を合わせてから逸らすと、スプーンを置いて席の背もたれに寄り掛かりため息をついた。と、そんな時だった。
「しかし、本当に獲る価値があるのかよ?」
「プレイ事態は、悪くないってよ。」
「俺は、あの根暗っぽいところが嫌なんだよ、前髪も目が隠れるくらいに伸ばして陰気クセェーだろ?」
「まあな。」
「ジズー監督、本心で欲しいのか?俺はそれが疑問なんだよ。」
舞は、思わず"ギクッ!?"とした。ジズー監督・・もしかして、あの生きるサッカー界のレジェンドであろうか?もし、そうならば・・
「"変化をもたらす為には、若い力、下から上の者を弾き飛ばす様な選手が必要なんだ!"だとよ?本当に、ベラス・カンデラにそんな力があるのかね?」
「モドリッチのバックアッパーで、欲しいらしいぜ。」
これには、アベルとイバン、ホルヘまでもが舞の顔を観た。間違いない!アベルとイバンの背後に居るのは、あのスペイン🇪🇸1部リーグ リーガ・エスパニョーラ所属『銀河系軍団』レアル・マドリードのスカウト関係者だ。そして、前人未到のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)3連覇にチームを導いたレジェンド監督ジネディーヌ・ジダンがベラス・カンデラを狙っているというのか?舞は、絶望的な展開に頭が"クラクラ"してくるのを感じた。
「ルカ(モドリッチの名前)の代わりとなると?本当か、それ?」
「ああ。うちがシーズン開始前からドタバタだろ?ジズー監督は、それを持ち直すために必死なんだよ。」
ルカ・・恐らく、クロアチア🇭🇷の英雄、ルカ・モドリッチのことであろう。クロアチア年間最優秀選手賞に最多となる7度選出されているほか、2015年にFIFA/FIFProワールドイレブン、2016年にはUEFAチーム・オブ・ザ・イヤーにクロアチア人で初めて選ばれた。2018年、東ヨーロッパ出身選手で初めてUEFA欧州最優秀選手賞、FIFA最優秀選手賞を受賞し、クロアチア人初となるバロンドールにも選ばれた逸材だ。
ジダン監督は、モドリッチのバックアッパーに、彼を据えるつもりなのか?これは、まるでイングランド🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿1部プレミアリーグ所属チェルシーFCが予測出来る展開、エンゴロ・カンテのバックアッパーと同じことだ。やはり、ベラス・カンデラは、それ程の選手であったか・・。
「獲るなら早くしないとな、チェルシーFCとリヨンが狙っているそうだぜ。」
(リヨン!?)
舞は、思い出し"はっ!"となった。リヨン・・空港で会ったジュニーニョ・ペルナンブカーノがスポーツディレクターを務める、フランス🇫🇷リーグ・アン所属オリンピック・リヨンであることは間違いないだろう、彼との会話が思い出される。
「しかしなぁ、あの陰気な外見に"吃音"だぜ?スター性は皆無だな。」
ホルヘが、舞の顔を見つめてきた。小さく"吃音"と口を動かしている。
吃音・・話し言葉が滑らかに出ない発話障害のひとつだ。単に『滑らかに話せない(非流暢:ひりゅうちょう)』と言っても、様々な症状があるが吃音に特徴的な非流暢には、以下の3つがあるとされる。
1️⃣音のくりかえし(連発)
  例:「か、か、からす」
2️⃣引き伸ばし(伸発)
  例:「かーーらす」
3️⃣ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック)
  例:「・・・・からす」
上記のような、発話の流暢性(滑らかさ・リズミカルな流れ)を乱す話し方を吃音とWTOは、定義している。舞は想像してみた、恐らくベラス・カンデラの彼等が言う陰気な外見とは、幼少期、軽く繰り返すくらいであれば、全く自分の症状に気づかないことが多いのだが、頻繁に繰り返したり、ことばが出ないことを経験すると、そのこと自体にびっくりしたり、うまく話せないことを不満に感じたりしたのだろう。それでも、幼い頃は、その感情もその場限りの一時的なものだと考えてのかもしれない。だが、それが成長とともに吃音も固定化し、うまく話せないことが多くなってくると、周囲の人から指摘される場面も多くなり、子どもは自分のことばの出づらさをはっきりと意識するようになってしまうのではないだろうか?その結果、話す前に不安を感じるようになったり、吃音が出ることを恥ずかしく思ったりしてしまう。また、話す場面に恐怖を感じるようにもなるだろう。このような心理は、成長の過程で「うまく話せない」という経験が増えれば増えるほど強くなっていくように思われる。それを考えた時、彼女の中でベラス・カンデラという人物に更に興味が湧いてきた。彼を知りたい!彼を獲らねば、と。きっと、彼ならチームが喜んで受け入れるだろう。何故ならうちのチームは、いわゆる"曰く付き"が多いのだから。

第26話に続く。

"この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。"

いいなと思ったら応援しよう!