子猫(短編小説)
題 子猫
「子猫ちゃん、どこいくの?」
そんな言葉をかけられた日曜の午後、渋谷。
私は最大限の冷たさを持って相手を一瞥する。
そしてそのまま歩いて去ろうとした。
「あ、待ってよ、ねえ」
相手の男性は慌てた声を出すと、私の目の前まで走ってくる。
「・・・何か?」
「何かじゃないよ、何で無視するの?」
「だってくだらないこと言ってたから、何?子猫ちゃんって」
私がため息をつきながらそういうと、相手・・・私の彼氏は目をウルウルさせて反論してきた。
「だって、ほら、僕にカッコ良さがないって前きみちゃん言ってたでしょ?だから、カッコイイ男性が主人公の小説読んだんだよ、そしたら、子猫ちゃんって言ってたから」
「いや、普通に、日常で使ってる人いるかどうか位わかるでしょ!」
私は彼氏のトンデモ理論に即座に強い口調で返答した。
いないでしょ、子猫ちゃんって・・・しかも、私の彼氏だ・・・。
絶望しかない。
「ええっ、そんなの、他のカップルの会話聞き耳立ててるわけじゃないから分からないよ〜!でも、僕頑張って本読んだんだよ、褒めてよ?」
「もー、聞かなくても分かるでしょっ」
とか言いながら、弟系の可愛い顔にふわふわっとした髪の毛でこちらを見つめてくる彼氏の顔に負けてしまう。
あぁ、そうよ、私はいつもこの顔に負けちゃうのよ。
もう、何でそんな可愛い顔なのよ!?
「・・はいはい、偉いよ、ちゃんと私の言う事聞いて調べてくれてありがとう、でも、今度それしたい時は私に参考書籍聞いてくれるかな?」
彼氏の、ふわふわの髪の毛を撫でながら私はちゃんと次回の改善点を忘れずに伝える。
「うんっ、分かった。ありがと、いつも優しいきみちゃん」
とっても嬉しそうに彼氏が私に笑いかけるものだから、私も釣られて口角が上がってしまう。
なんだかんだ言っても、私は彼氏にメロメロなのだ。