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スイーツ女子と甘い先輩5(連載小説)

次の日、私はいつものように昼食を食べ終えると中庭にダッシュで向かった。

もちろん、オススメのお菓子を手にして。


中庭には、もう先輩が来ていて、座っていた。

昨日と同じサッカーの本を読んでいる。

本を読む先輩も絵になるな、と思う。

真剣な表情をしている先輩にドキっとする。

「先輩、こんにちは」

それでも、私が平静を装って声をかけると、先輩は顔を上げて、微笑んだ。

「こんにちは」

「今日もいいお天気ですね」

ありきたりなことを言う。

「そうだね。天気いいよね」

先輩は嬉しそうに同意してくれた。


次は何を話そうかと考えていた時、突然後ろから声がした。

「あ、見つけた優!」

「本当?ちょっと、見えないからそこどいて」

私はギョッとして振り返ると、二人の女生徒が渡り廊下から怖い顔をして近づいてくる所だった。

一人は、ふわふわウェーブをポニーテールにまとめた髪をしていて、つり目で勝ち気な印象を受けた。

もう一人は、ショートカットで、小麦色の肌をしていて、目はパッチリして活発そうな人だった。


ずんずんと近づいてくる二人に、成すすべもなく立ち尽くしていると、後ろでハアッと小さなため息が聞こえた。

先輩だ。

先輩は読んでいた本を横に置くと、少し怖い顔をして立ち上がった。

初めて見る顔だ。

いつも優しい顔をしているのに。


「優、何で昼休みいないの?探したよ」

ポニーテールの子が非難するように言った。

「そうよ、優がいないとつまらないよ。一緒にご飯食べようよ」

ショートカットの子も悲しげなニュアンスで訴えた。

「・・・僕がどこにいようが、篠原と中瀬には関係ないと思うけど?」

笑顔で言う先輩。

でも怖い。何だろう、静かなのにこの怖さ。

「そ、それはそうだけど、今までは昼休み付き合ってくれてたじゃない」

「そうよ、私は二人の方が良かったけど、それは仕方ないとして、一緒にお昼食べてくれたよね?」

ショートの子がそう言うと、ポニーテールの子がキッとにらむ。

「二人でとか何言ってるの?中瀬がいつも邪魔してるんじゃん」

「え?それ本気?篠原は迷惑がられてること気づいてないんだ?」

話の流れからショートの中瀬さんと思われる方もにらみ返す。


完全に、場の雰囲気に呑まれた私は、どう動けばいいか分からない。

すると、先輩が口を開いた。

「二人ともいつもその調子で言い合ってるよね。昼も、僕らが食べている所に勝手に来てるだけでしょ?僕、昼休み位落ち着いて過ごしたいんだけど」

先輩はもう笑ってなかった。

そんな先輩に、篠原さんと中瀬さんも恐れを抱いたように黙った。

実を言うと、私も少し恐怖を感じた。

いつもニコニコ優しい先輩だから、怒ると余計怖く感じる。

「・・・分かった、優がそんな風に思ってたなんて知らなかったから・・・でもさ、今まで通り話してくれるよね?」

ショートの中瀬さんが恐る恐ると言う風に尋ねた。

「うちらあまりケンカしないようにするからさっ」

篠原さんも取り繕うようにひきつった笑顔で話す。

「うん、いつも通りでいいよ。二人とも、先に教室に戻っててくれる?」

高城先輩は、にっこりと、でもきっぱりと二人に言った。

「分かった、戻ってる」

「後で宿題の答え合わせしようね」

中瀬さんと篠原さんは口々に言うと、そそくさとその場を去っていった。

チラッと私の方を見ていった気もするけど。

あっと言う間に去って行ったから定かかどうかは分からない。


「ついに見つかっちゃったな」

二人が行ってしまうと、先輩は困ったような顔で私を見た。

「ごめんね、変な所見せちゃって」

「いいえ、いいえ!」

私は慌てて答える。

今見たことの衝撃から、まだ気持ちが戻って来てなかった。

いきなり修羅場?のようなものが始まってしまったのだから。

「さっきの先輩達はクラスメイトですか?」

名前で優って呼んでいたし、先輩だよね?

私の問いかけに先輩は頷いて肯定した。

「そう。中瀬は一年で同じクラス、篠原は二年で同じクラスだったんだ。三年になってあの二人と一緒のクラスになったんだけど、あんな風に、いつも言い合ってて。落ち着いて過ごせないからここに避難してきてたんだよ」

先輩は、憂いを含んだ顔で話してくれた。

「そうだったんですか・・・」

私は同意しながら気がついた。

先輩は静かに過ごしたがっているのに、私が毎日のように来るのは邪魔じゃないかな?

先輩は優しいから我慢してくれてるだけかもしれない。

不安感でなんだかモヤモヤする。

先輩が本当に迷惑だったら私が嫌なので、勇気を出して聞いてみた。


「先輩、私も来ない方がいいですか?」

「え?」

唐突な問いかけに、先輩は微かに驚いた顔をした。

「あ、だって、先輩の静かに過ごせる時間、邪魔しちゃってますよね」

私は焦って答える。

先輩のこと、何も知らなかったことを思い知らされた。

この間、先輩は人気があるのはいいことばかりじゃないって言ってたけど、このことだったのかな?

「市川さんは邪魔なんかじゃないよ」

先輩は、穏やかな顔で私を見つめた。

私は視線のやり場に困る。

「ほ、本当ですか?」

私が若干目を反らしぎみで聞くと、

「本当」

と言った。

目を反らしているので、先輩の顔はあまり見えない。

高城先輩は、続けて話した。

「あの二人にもあそこまできつく言うのは初めてなんだ。なんでだろう。・・・市川さんと話す時間、邪魔されたくなかったからかもな」

先輩がそう言うので、私はパニックになりかける。

でも、これは先輩のジョークなのかもしれない。

この場を和ませてくれてるだけかも。

「そ、そうなんですか?光栄です!先輩みたいな人気のある人からそんな風に言ってもらえて」

私が緊張とドキドキのあまり、赤面して手を慌ただしく揺らしながら答えると、先輩は、フッと表情を崩して微笑んだ。

「慌ててるの?可愛いね」

先輩の低めの声にさらにドクドクと心臓が激しく高鳴る。

「先輩、そういうの、ずるいです」

私は思わず言ってしまう。

心臓がドキドキしすぎて、限界だった。

「ずるいの?」

先輩が問うので、私は頷いて答える。

「先輩にそんなこと言われたら、ドキドキしちゃうじゃないですか~」

少し冗談めかして答えた。

私は先輩が好きだけど、話したいって言ってくれても、それが好意かどうか分からないから。

単に好奇心とか友情ってこともありうる。

だから、私は踏み込んで答えることをためらってしまった。

「そっか、ちょっと嬉しいな」

先輩は、そう言って本当に嬉しそうにした。

少なくとも私にはそう見えた。

それでも私はそれも本心なのか疑ってしまっている。

先輩がまさか私を好きだなんて。

チラッと頭に浮かんだだけでも、ありえないと即座に否定してしまうのに。

「・・・」

言葉が出てこなくなってしまった。

何を話したら正解なのか分からなくなる。

先輩は私を見て、優しく話してくれる。

「今日はゆっくり話せなかったね。また明日話そう」

先輩の優しい声に心が落ち着いてきた。

少し冷静になって、言葉を返す。

「はい、明日また来ますね。これ、今日持ってきたお菓子です」

私は袋に分けて入れてきた新作お菓子を差し出す。

「どうぞ、食べてみてください」

私が袋を差し出すと、先輩は受け取ってくれる。

それから、

「ありがとう。あ、そうだ。渡そうと思ってたのがあるんだ」

と言って、学ランの胸ポケットからスティック状のものを取り出す。

「これどうぞ。昨日コンビニに寄った時に見つけたから。市川さん好きかと思って」

そう言って、私の手に乗せた。

「あ、これ、新発売ですね!CMで見て気になっていたんです」

私は嬉しくて、満面の笑みでお礼を言う。

先輩が私のことを思い出してコンビニでお菓子を買ってくれたことが嬉しかった。

「喜ぶ顔が見られて良かった」

先輩は目を細めて笑いかける。

その表情に弱い私は、途端にドキドキしてしまう。

嬉しいけど、ドキドキして仕方ない。

「ありがとうございます。本当に嬉しいです!」

私は幸福感に満たされながらお礼を言った。


先輩と別れてから、気持ちが高揚したまま、教室に戻る。

席に着くと、机の上に手紙が置いてあった。

ノートを小さく切ったもののようで、二つ折りにしてある。

私が手に取ると、そこへ由香がやって来た。

「それ、うちのクラスの男子が置いてたから聞いたら、何年か分からないけど、女子二人が渡してって言ってたみたい」

「そうなの?何だろう」

開いて中を見る。

その手紙は、中瀬先輩と篠原先輩からのものだった。

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