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スイーツ女子と甘い先輩4(連載小説)

ベンチを後にした私は重いため息をつきながら教室に向かった。

先輩と一緒に過ごせる時間があるだけで幸せなはずなのに、先輩の優しさに憂鬱になってしまうなんて。


気持ちを切り替えられないまま教室にたどり着くと、由香を探して、先輩に言われた事と私の不安を話してみた。

「それは不安になるね。でも、高城先輩ってみんなにそんな女たらしなことしてるのかな?」

「ちょっ由香っ、女たらしって!」

私はギョッとして由香の言葉に反応した。

「そうじゃないの?だから愛奈は悩んでるんだよね?」

確かに悩んではいるけど。

「女たらしって感じじゃないんだよね。軽薄っぽくないし。親切すぎる?優しすぎるのかな」

先輩のあの性格をどう表現していいか分からない。

「要するに愛奈は自分だけならいいけど、他の人にもそういうのは嫌なんだ?」

「・・・うん」

ワガママな気もするけど。

付き合ってる訳じゃないし、友達であるかもまだ怪しいのに。

「じゃあさ、放課後サッカー部見に行ってみる?マネージャーとか他の女子とどんな感じか分かるかもよ?」

由香の提案に、私は嬉々として飛び付いた。

「そうだねっそうしよう!さすが由香っ」

「ちょっと、いきなり抱きつかないでっバランス崩れる~」

慌てている由香を見ながら、私は放課後が早く来ないかと思っていた。

けれど、心のどこかにずっと不安の種もくすぶりつづけていた。



放課後、私と由香は美術部に休部届を出すと、急いで階段を掛け下りてグラウンドに向かっていた。

サッカー部は、いつもグラウンドで練習してる。

私達が靴を履き替えてグラウンドにたどり着くと、もうサッカー部員達は集まっていて、ストレッチを始めていた。


私達の学校は、中高一貫型で、中学校と高校の校舎は向かい合わせに立っている。

その間に、広いグラウンドが広がっていて、中高で共有して使用している。

だから、グラウンドにはその日も、サッカー部以外にも野球部、バドミントン部、テニス部にインディアカ部など、様々な部活で溢れていた。

とは言え、みんなユニフォームなので、校舎から出たところで制服で突っ立っていると凄く目立つ。

私達は移動して、グラウンドの端にある休憩スペースで見学することにした。

ここは、パラソルがついた丸テーブルに椅子が四個用意されている。

テーブルは6つ設置されていて、部活の休憩の時などに利用されていた。


椅子に座ると、私と由香はさっそく高城先輩を探し出した。

サッカー部は少し遠いけど、充分確認できる。

高城先輩は黙々とストレッチをしていた。

「いたよ」

私はすぐに先輩を見つけ出した。

「奥にいる。マネージャーの隣に」

由香に教えると、由香も先輩のことを確認できたみたい。

ストレッチが終わったのか、先輩がタオルで汗を拭いていると、マネージャーが先輩に話しかけた。

私の好きな笑顔で答える先輩。


その姿を見ると、胸が苦しくなった。

「大丈夫?愛奈」

由香が心配そうにこっちを見ていた。

「うん」

私は軽く胸をなでると、由香にそう言った。

だけど、とても大丈夫な状態じゃなかった。

ただのマネージャーと仲良くしているだけでこんなに胸が痛むなんて。

重症だ。


それから、先輩達はその場でリフティングしたり、シュート練習したり、お互いにボール蹴りあったりしていた。

部活中はさすがに女子と話すこともなくて。

先輩は真面目に部活していた。

時々話すのはマネージャー位。

3年生かな?

知的な感じの美人な人。

でもマネージャーもみんなにまんべんなく話しかけていた。


「せっかく見に来たけど、部活中はやっぱり真面目に活動してるんだね」

由香が私に話しかける。

「うん、マネージャーとは話してるけど、過剰に話してる風でもないし、普通だよね」

それでも私は先輩が他の人と仲良くしているともやもやしちゃう訳だけど、と心の中で付け足す。

「どうする?部活終わるまで待つ?」

由香が尋ねてきて、私は一瞬考える。

「うん。今美術部に行っても中途半端だし、見てるよ。由香、付き合ってくれる?」

私は由香に確認する。

「オッケー、部活終わった後に他の子と話すかもしれないしね」

由香がそう言った時、私は凄く嫌な展開を想像してしまった。

先輩に彼女がもういて、一緒に帰ったりするかもしれない。

そしたらそれを目撃することになってしまう。

「・・・確認なんだけどさ、由香」

私が話を切り出すと、由香は首を傾げて

「何?」と聞いた。

「先輩にもう彼女がいるなんてこと・・・ないよね?」

「あ、そっか、その可能性もあるね」

由香が眉をひそめて言う。

「私が聞いた限りではいないと思うけどな。一年の時に同じクラスだった子でね、結構ウワサに敏感な子がいて聞いてみたけど先輩の彼女のウワサはないみたい。いたら大騒ぎになってるよ」

由香がそう言ってくれて、私はホッとする。

「ありがと、由香聞いてくれたの?安心したよ」


その後は、私と由香はサッカー部が終わるまで雑談しながら待っていた。

サッカー部が終わると、部員達は集まって一緒に帰ってゆくようだった。

先輩も一緒に帰っていく。

帰り際、他の部活の知り合いとちょっと雑談めいたものをしていたけど、特に甘い雰囲気でもなかった。


「良かった」

先輩達がグラウンドを出ていってから私はホッとして由香に言った。

「先輩が他の子と仲良く話すこともあるかもしれないけど、やっぱり見たくないよ。私は中庭で先輩と仲良くなるのを頑張る!」

「そっか~そうだね。今日見てる限りでは、優しそうだけどべたべたしてもなかったしね」

由香の言葉に私は大きく頷く。

「そうだよね。よし、明日からも頑張るぞ!」

私が意気込んで言うと、

「その意気!」

由香もニコッと笑顔になった。


そんな感じで改めて明日から張り切って行こうと決めたんだけどーーー

次の日に私の想像もしなかった事態が巻き起こるなんて、この時は思ってもいなかったんだ。

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