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女神クッキー

お菓子を買った。一パックに三個クッキーが入った、三パック入りを二箱。
子どもたちと分けよう、と思って買ったので、家に帰ってすぐに子どもたちを呼んだ。
子どもたちは遠慮して取らないこともあるので、マジックペンで名前を書いた。
むーちゃん、ぴんちゃん、わたし…。
パパの名前はない。
女の子だけで食べて、ちょっとした福繍にしようと思ったのだ。

「名前が書いてあるっ!」
リビングに出てきたむーちゃんがそう言って笑う。
少し嬉しそうな声だ。
最近お菓子をあまり買っていないせいかもしれない。
ちょっと可哀想なことをしたような気になった。
ごめんね、わたしの財布が厳しいばっかりに…涙。

余談だが、現在は4人分の食費の多くをわたしが持っている。
そもそものところで予算を増やしたのだ。
他のお金を一切払わない代わりに、また、わたしのメンタルのために。
詳しくはまた別記しようと思う。

三個パックは一人にふたつずつ分けられた。
わたしの持ち分は二パック、六枚のクッキー。
わたしは夜にお菓子を食べたくなるので、夜食べようと二パックを大事にしまった。

夜。
シンシンがヨレヨレになっていた。
ソフトウエアエンジニアとして勤め、社内の人材育成に関わっているシンシンは、脳の容量のほとんどを仕事で使い切ってしまう。
ふわふわした癖っ毛の髪と相まって正しく「大爆発」を起こした頭をユラユラさせながら座椅子に座り込み、シンシンは動かなくなった。

わたしはそっとチョコチップクッキーを取り出した。
名前は書いてあるが、脳の栄養は糖分だと、同じくハンドメイドやデザインや執筆業で頭を使うわたしもまたわかっていた。
「女神…!」
チョコチップクッキーを手にしたシンシンは大層ありがたそうにそう呟いた。
そしてわたしはシンシンと今日の他愛ないことを話し、体を休めながら袋を開け、クッキーを一枚食べた。
あとの二枚は袋に入れてそっと鍵をかけ、明日の朝開くように設定した。
こんなに大事にお菓子を食べることを普段、わたしはあまりしない。
珍しいことをしたのだ。

翌朝。
お腹空いた…と食べ物を探すシンシンにわたしは一枚のクッキーを渡す。
「女神…!」
わたしは二度目の女神になった。
手元には一枚のクッキー。
ちょっとずつ、大事に食べた。
クッキーってこんなに美味しかっただろうか。

買ってきたのはひとつ三枚入り、三パック入ったのを二箱、18枚。
内わたしが口にできたのは二枚。
買ってきたのから、1/9になってしまった。
でもわたしは満足だった。
ひとと分け合う、ことがこんなに心を満たすのか、と感じた一件だった。

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