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第4話 マンドレイク

「博士、この部屋はたしか所員すらも立ち入り禁止の部屋のはずですが?」

「そうじゃ。じゃが、もう時は来たようじゃ。芽が出たんじゃよ。」

「芽?ですか?」

マーブル博士は立ち入り禁止の部屋の鍵を開けた。

中に入ると部屋一面に植物の植えられたプランターが置かれている。

「わしは昆虫と植物の研究を長い間してきた。かつてわしの右腕だった植物専門の博士がおったんじゃが、若くして病気で死んでしもうた。彼は病床でこんな手紙を書いてわしに渡した。アイちゃん、これじゃ。」
マーブル博士はアイに一枚の手紙を渡した。
アイは手紙に目を通した。手紙を読み終わる頃、最後の名前を見た時にアイは目を見開いた。「メデオ、お父さん。」

「そうじゃ、アイちゃんの父メデオはわしの右腕じゃった。メデル君も安定した銀行員を辞めてまで父亡き跡を継ぐためにこの研究所に戻って来てくれたんじゃが、まさかあんな事になるとはな。」

「博士、私は父の病死のあと兄の謎の事故死があってから、寂しくて、悲しくて。でもこの研究所で新たに行われる研究の事を聞いた。」

「HIP(Humanized Incepts Project.)じゃな。」

「はい。もしこの研究が成功して結果を出せれば、父も兄も、生まれ変わる事が出来るんじゃないかって!」

「そして、僕は生まれた。アイの兄メデルの細胞によって。アイの念願ってこの事だったんだね。」

「ええ、そうよ。ごめんねメデタ。あなたが止めようとしてるこの研究を私は成功させてしまった。自分の淋しさを埋めるために。」

「それは違うぞアイちゃん!君は何も間違っちゃいない!」

「そうだよアイ。僕を人間にしてくれたからこうして話し合えてる。『話し合いをしよう。』って言ったのはアイじゃないか?君は正しい事をしたんだよ。」

「マーブル博士、メデタ。ありがと~ぉ。」
2人はアイの肩に手を添えた。

「そう言えば、アイのアルバムに挟まれていた手紙。メデルさんからの。」

「ええ、兄の手紙。メデタ読んだのよね?」

「あぁ。メデルさんの手紙を読んだ時、その内容を見て、驚きのあまり目が飛び出てしまいそうになったんだ。そう、メデタだけに。」メデタは真顔でダジャレを言った。

「くくくっ!くくくっ!」
それを聞いたマーブル博士はメデタのダジャレが笑いのツボに入り、口を押さえ涙を流しながら笑い声を堪えている。

「メデタ!何で今ダジャレを言うの?真面目に話してよ!そして博士も何でこんなので泣くほど笑ってるんですか!

「ゴホンッ!いやいや~、失敬失敬。」

「笑って頂きありがとうございます、マーブル博士。今お笑いについての勉強もしていまして。本当は『メデルだけにね!』にしようと思ったんですが、僕が言ってるんだから『メデタだけにね!』の方が良いかと思いまして。変更して正解でした。」

「なにそれ!その説明どーでも良いわ!」
アイはメデタに強めのツッコミを入れた。

「なるほどなるほど!メデタ君は笑いの勉強も頑張っとるんじゃな!感心感心!」

「もう!どこを褒めてるんですか~博士まで!」アイは呆れ返っている。

「すまんすまん!それで?メデタ君、そのメデル君の手紙の内容は何と?」

「手紙にはこう書いていました。
なんと、メデルさんは・・・。
昆虫を通貨にしようとしていたようです。」

「えっ?昆虫を通貨に?それって!?」
アイとマーブル博士は目を見開いた。

「そうです!先程僕が話をした、僕たちゴキブリ改め『デター』をお金にする話。実はメデルさんの手紙を読んだ事でヒントになりました。」

「兄はすでに昆虫はお金になると、価値を見出していたのね!」

「なるほどなぁ。面白い事になった!
その手紙を書いた『昆虫を通貨にしたい』と言うメデタ君の細胞によって人化したメデタ君の『人類と地球を救いたい』と言う想いが一致した瞬間じゃな!」

「僕もこの手紙を読んで目が飛び出るかと思いました。そうメデルだけにね。」
メデタはまた真顔でダジャレをかました。

「そこメデタじゃ無いんかい!」
すかさずマーブル博士がツッコミを入れた。

「流石ですね、マーブル博士!てんどんかと思いきやメデタとメデルを言い変えると言うボケを聞き逃さずツッコミを入れるなんて!マーブル師匠と呼ばせて下さい!」

「何の話をしてるの?!2人ともバカなの?」

「えっへん!マーブル師匠博士と呼びなさい。」

「そんな呼び方ややこしいわ!はぁ、やっぱりバカでした。」
アイはさらに呆れ返っている。

「おっ!そういえばお父さんのメデオからもう1枚手紙を預かっておったんじゃ。中身は見ておらんからアイちゃん読んでもらえるかな。」

「えっ?もう1枚手紙が?」
アイは手紙を受け取り内容を確認する。
そこに書かれている内容にアイは目を見開いた。

「えっ?どう言う事?『植物は通貨になる。』
しかも『ドングリが特に適している。』って、ちょっと待って。お父さんもメデル兄さんと同じ事を考えてだってこと?」

「ほっほ~!ドングリを通貨にとなぁ。彼らしい発想じゃて。」

「そうなんですか?」

「あぁ、彼が植物の専門職に就いた根本の動機を話してくれた事がある。」

「根本の動機?それは一体?」

「それは、『地球を救いたい!』と言う事だそうじゃ。彼はとても心の優しいヤツじゃったからな。だから『植物に囲まれて仕事を出来る事が何よりも事が幸せだ』とも言うてたな。」

「そうだったんですね。あっ、まだ続きがあります。『もしも僕が死んだら植物に生まれ変わりたい。そうだな、ドングリが良い。HIPを応用して植物を人化出来ないだろうか。私の細胞で実験してみよう。』ですって。マーブル博士どう言う事でしょう?」

「なるほどなるほど!そう言うことかぁ!!
今分かったぞ!彼がわしに頼んだ意味が!」

「えっ?何の話ですか?」

「いやな、彼が病床で亡くなる前にわしに頼み事をしたんじゃ。それは『この部屋の植物を育てて欲しい』と。」
マーブル博士は歩き出し、たくさんあるプランターの中から一際目立つ背の高い植物の前で立ち止まった。

「これじゃ。」
マーブル博士はその植物に指差した。

「これがその父が育てて欲しいと言った植物ですか?」

「あぁ。わしはそんな実験とは知らずに毎日毎日この植物たちの世話をしていた。しかも『誰にも知られず』と言うもんじゃからこそこそとやっておった。」

「これは何の、植物ですか?」
アイとメデタは足をかがめてプランターを見ている。
「これはドングリの苗木じゃ。じゃが少し違うのは、こいつは生きておる。」

「生きているって?植物も生きているのは当然では?」

「いや、そうなんじゃがな。なんちゅーか、そいつだけが、生きてるように動くんじゃ。」
苦笑いのマーブル博士は人差し指でツルツルの頭を掻いている。

「えぇ?そんな事ってあるんですか?」

「いや、無い。わしもこんな気色の悪い植物は初めて見たんでな。戸惑っておったんじゃ。しかしメデオ君がわしに託した植物なもんで、下手な事は出来んからのぉ。」

「もしかして、父が言ってた『植物になりたい』って言う実験がこのドングリの苗木だって事ですか?」

「あぁ、そうじゃ。アイちゃんの父メデオ君の実験は見事に成功したと言えるじゃろう。」

「植物も人化出来るなんて、アイのお父さんと兄さんは凄い方だったんですね!」

「そう、自慢の家族よっ!」

「さて、メデオ君とメデル君の生前の目的がメデタ君の目的と一致していた事が分かったところで、これからどうする?」

「ええ、僕に考えがあります。まずはこのメデオさんの人化ドングリの苗木をもっとたくさん増やす事から始めましょう!」

するとドングリの苗木はウネウネとまるで喜んでいるかのように葉っぱを揺らしはじめた。

「おお!メデオ君の話に苗木が反応したぞ!」

「ちゃんと言っている事が聞こえているんですね。」

「もしかしからこのまま成長したらマンドレイクの様にになるかもしれんな。」

「マンドレイクですか?」

「マンドレイクというのはな、それこそ人の顔をした植物の名前じゃよ。それを人工的に作るわけじゃな。」

「マーブル博士、ドングリの木はとても大きく育ちます。その木が人間の様に喋り出したりするのでしょうか?」

「さてなぁ、わしも初の試みじゃからのぉ。」

「そうだ!僕、面白い事を思い付きました!
博士?車椅子はありますか?」

「たしか一台あったと思うが、車椅子なんか何に使うんじゃ?」

「植物が自分で移動出来たら面白いと思いませんか?」

「なるほど!プランターのまま車椅子に乗せて自分で移動出来れば面白いのぉ。」

「そうでしょう?それに植物が自らシャワーを浴びる様に水をかける事が出来れば、雨が降らなくても人間が水やりをしなくても植物は自分で好きな時に水分補給をする事が出来ます。」

「メデタ凄いわね!その発想!面白い!」

「植物が自立して自分の意思で活動する事が出来れば、人間や動物の力を借りなくても種を拡散し増やしていく事が可能だと思うんです。」

「そんな事が出来れば今よりもっと緑が増えて地球環境を整えることができるわね!」

「そうだね、しかも僕らデターも然り、ドングリも電子マネーの通貨にすれば、人類の生活も助かり全てが丸く収まるんだ!もしも、この通貨に名前を付けるとするならば『メデルマネー・D』!!」

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