第6話 涙
マーブル博士はムカデ人間の所へ向かった。
倒れたままのムカデ人間の前に着くとムカデ人間は気配に気付いたのかピクッと身体が動いた。
「ウ、ウ~。」と言うかすかな唸り声が博士の耳に聞こえた。
「すまんかったな。わしらの研究の為とは言え、こんな姿に変えてしまって。本当にすまんかった!」
マーブル博士は目に涙を浮かべた。するとその涙が頬を伝ってムカデ人間の顔に涙のしずくが落ちた。
すると不思議な事にムカデ人間のその巨体はみるみるうちに小さくなり人間の姿へと変わった。
マーブル博士は涙を拭うと、さっきまでそこに居たムカデ人間が成人男性に変わっていることに気付いた。
「えぇ?!何がどうなったんじゃ?ムカデ人間が普通の人間の姿に?!これは一体どういう事じゃ?」
「うっ、うぅ。ここは?一体。」
するとムカデ人間だった男性は意識を取り戻した。
「お、お前さんはさっきのムカデ人間か?」
マーブル博士は動揺しつつも男性に質問をした。
「何がなんだか。よく分かりません。
ここはどこで、僕は誰ですか?」
「お前さんさっきまでの記憶が無いのか?
(一体どういう事じゃ?さっきまでのムカデ人間は人化過剰状態だった。それが今人化通常状態に戻っている。何故?どうやって?思い出せマーブル!振り返るんじゃ!わしはムカデ人間に申し訳なく思い感情が高ぶり泣いてしまった。そう泣いて・・・。んっ?もしかして?)」
マーブル博士は男性を担いでガラスの割れたままの研究室の中に入るやいなやデスクの上の物を腕で払いのけると男性を上に乗せて横に寝かせた。「ちょっと待っとれ!」博士はそう言うとフラスコを1つ手に取りそのまま給仕室へと向かった。
給仕室には冷蔵庫や調味料、ダンボールの中には蓋が閉まらない程の玉ねぎが入っている。博士はいくつかの玉ねぎを取り出しては台所で包丁を手に取り玉ねぎを切り始めた。ザクッザクッザクッと言う玉ねぎを切る音が給仕室に響いている。「ん~、まだまだじゃな。」博士はそう言うとトトントントンッ!トトントンッ!とリズム良く玉ねぎのみじん切りを始めた。
すると「よーし!きたぞぉ!」博士はそう言うと小さめの容器を手に取り目の下に添えると中にポタッポタッと数滴の涙が入った。
「これでよし!」
博士は涙の入った容器を持って男性の待つ研究室へと戻った。