第8話 ドングリ募金
そして一方、メデタは給仕室の前に来ていた。
「さっきマーブル博士が出て来たけど何の用事だったんだろう?まぁいいか。」
給仕室の中に入ると、すぐに玉ねぎの匂いに気付いた。「ん?玉ねぎのみじん切り、何でそのままなんだ?博士かな?」
メデタはおもむろにみじん切りにされた玉ねぎを手ですくい匂いを嗅いぐと、なんとなく顔の前でそれを握り潰した。
するとメデタは「あっ!」と声をあげると、メデタの目に玉ねぎの汁が飛び散った。
すると目には涙がジワジワと溜まり始め、それはポロポロッと頬を伝い流れ落ちた。
「なんだこれは?何故目から液体が出て来たんだ?」
メデタは流れ落ちる涙を指ですくい、それをペロッと舐めた。
そこへ、ガラガラッと戸が開く音がした。
「メデタ君!その玉ねぎにに触っちゃいかん!」入って来たのはマーブル博士だった。
「えっ?」とメデタが振り向いた瞬間、メデタの視線はみるみる低くなっていった。
そしてメデタは昆虫サイズのデターの姿に戻ってしまった。メデタが着ていた白衣、Tシャツ、ジーンズが床にファサッと崩れ落ちるようにして横たわった。
「えっ!?何だ?博士が大きくなった!
いや、違う。僕が元のゴキブリ の姿に戻ってしまったんだ!」
デターに戻ったメデタは昆虫の姿だが言葉を話している。
「あちゃーっ!ひと足遅かったかぁ!メデタ君が昆虫に戻ってしもーた!」
マーブル博士は渋い表情で自分のつるつる頭をペシッと叩いた。
「メデタ君?そこにおるかぁ~?」
マーブル博士は床に片膝をついてメデタを探した。すると白衣の間からひょこっと姿を見せた。
「博士~!ここで~す!」
メデタの声に気付いたマーブル博士はデターのメデタをすくうようにして両手に乗せた。
「博士!これは一体どういう事なんですか?」
「わしも初めての事で、驚きを隠せんのじゃがな、よ~く聞いてくれよ。要するにじゃな。どうやら人化した昆虫は『人の目から出た涙』によって元の姿に戻るようじゃ。なんとも不思議な現象じゃ。さっきあのムカデにも同じ事が起きた!もしかしたらと思い戻って来てみれば、案の定メデタくんも。」
「それじゃ、あのムカデ君は無事に元の昆虫の姿に戻れたんですね!良かった。」
「じゃが君まで戻ってしもたな。どうしたもんか。」
「大丈夫です博士!この姿の方が仲間達と話がしやすいので丁度良かったです!」
「それもそうじゃな!メデタ君が人間の姿のままで仲間達に近づいたら警戒して逃げてしまうのぉ。」
「そう言う事です。では僕は仲間達の所に行ってきます!」
マーブル博士はメデタを手の平から床に下ろした。
「それじゃ宜しく頼んだぞ!」
「任せて下さい!では行って来ます!」
デターのメデタは冷蔵庫の下の隙間へとカサカサカサと入って行った。
丁度そこへ、アイがドングリ拾いから戻り、マーブル博士はそれに気付いた。
「おぉ!アイちゃん、お帰り。ドングリ採集はどうじゃった?」
アイは持っていた袋をマーブル博士に見せた。
「なんじゃ?ほとんど入っておらんじゃないか?ドングリは見つからんかったのか?」
するとそこへアイの後ろからブタの親子が入ってきた。ブタは道なりに落ちているドングリを食べながらやって来たようだ。
「アイちゃん?ブタがなんでここにいるんじゃ?しかも子連れの。」
マーブル博士は驚きを隠せないでいる。
「実は博士。この子達、迷い豚なんです。」
「迷い豚とな?猫や犬ならまだしも豚が迷子なんてのは聞いた事がないのぉ!
それで?アイちゃん、この豚の親子をどうするつもりじゃ?」
「博士。私この子達を飼いたいんです。だってとても可愛いいんですもん。」
「可愛いいんですもん!じゃなくてじゃな!
家畜の飼育は大変じゃぞ?犬や猫とは訳が違うんじゃよ?それでも飼いたいのかね?」
「はい!飼いたいです!」
「分かった。そこまで言うのならわしも協力しよう。」
「博士!ありがとうございます!」
アイは博士に嬉しそうに頭を下げ、そして喜びのあまり抱きついた。
「アイちゃん、痛い痛い。」
「あっ!ごめんなさい!つい嬉しくて強く抱きしめてしまいました!」
「君はヒューマノイドなんじゃ。力の加減もコントロールせんといかんな。」
「ごめんなさい。」
アイは博士に抱き付くのをやめると悲しそうな顔をして謝った。
「とにかくこの豚の親子が生活出来る様に小屋でも作ってやらんとな。確かアイちゃんはDIYが得意じゃったな?」
「はい!そう言われると思いまして、もうすでに作りました。」
「えぇ⁉︎流石アイちゃん!仕事が早いのぉ!」
「お褒め頂きありがとうございます!」
「ところで、アイちゃんは給仕室に何か用事があったんじゃないのかね?」
「はい、ドングリ豚の飼料を拝借しようと思いまして。」
「ちょっと待ってくれ?アイちゃん。一応確認させてもらうがドングリ豚っていうのはその豚の事かね?」
「ええ、そうですよ。それがどうかしましたか?」
「いやいや、ドングリ豚なんていう名前の豚を初めて聞いたもんじゃからの。」
「私も知らなかったのですが。実際に高級豚として飼育されているようですね。有名なところではイベリコ豚がそのようですよ。」
「ほほぅ、イベリコ豚なら知っとるよ。」
「さすが博士、ご存知でしたか。」
「じゃが、ドングリ豚だけあって飼料としてのドングリが大量に必要になるのぉ。」
「その通りです博士。もちろん研究所の周りの森にドングリの木はあるのですがもっと増やす必要があります。
さらにそれだけではなく国民の皆様からもドングリを募ろうと考えています。」
「なるほどなぁ!さしずめドングリ募金と言ったところじゃな?」
「ええ、その通りです博士。私の考えでは【クラウドファンディング】に近いですね。」
「クラウドファンディング?それは一体何じゃ?」
「博士はご存知ありませんか?クラウドファンディングというのは、簡単に言うと【予約販売】の様なものです。
支援という形で先に資金を調達してからリターンという形でお返しの商品を渡すというのがクラウドファンディングです。効率的に資金を集められて尚且つ在庫を抱える必要が無いのでこの方法を活用している人も多い様ですよ。」
なるほどのぉ~。じゃが、はたして国民からそんなにドングリが集められるかのぉ?」
「大丈夫です博士。そのドングリ募金クラウドファンディングではドングリはデターと同じく【お金】であり、さらに【豚のエサ】にもなります。
私が考えたドングリ募金クラウドファンディングの目的と集まったドングリで交換できるいくつかのリターンはこれです。」
『①ドングリ100個募金した方
*ドングリの苗木を進呈。』
「苗木を自宅の庭に植えても良い。
許可を得て公園や山に植える事で緑が増えてCO2削減に繋がり、山に植える事で根が張り地盤がしっかりして地震などで起こる土砂崩れを防ぎ、地球環境整備の役に立ちます。
ドングリを集めて支援する事で以下の美味しくて嬉しいリターンがあります。」
『②ドングリ200個支援した方には
*ドングリ豚の生ハム肉を進呈。』
『③ドングリ300個支援した方には
*ドングリ豚バラ肉を進呈。』
『④ドングリ400個支援した方には
*ドングリ豚しゃぶしゃぶ肉を進呈。』
『⑤ドングリ500個支援した方には
*ドングリ豚ステーキ肉を進呈。』
など、このように魅力的で嬉しくて美味しい特典付きのドングリ支援ですので、ドングリで美味しい豚肉が食べられると思ったら必ずみんな一生懸命ドングリを集めると思うんです。
ですからドングリ豚のエサになるドングリは必ず全国から集められると思います。そして集まったドングリの78%はドングリ豚のエサに。
残りの22%は植樹に使用します。
そうする事でドングリの木を増やしながら効率よく常にドングリがある状態を作れると思います。」
「なるほどなぁ!凄いのぉ!かなり具体的に案がまとまっていてたまげたわい!言う事ない!感心じゃ!これなら間違いなく飼料用と植樹用のドングリは集められるのぉ。」
「その通りです!博士にそう言ってもらえると自信になります。そういえばメデタが見当たりませんがどこに行ったんでしょうか?この話を彼にも伝えないと。」
「アイちゃん、その事なんじゃが。」
マーブル博士はメデタが涙によって元のデターの姿に戻り仲間の所に向かった事をアイに話した。