第7話 ドングリ豚
一方、研究所の外へと出てきたアイは、施設を取り囲む様に生い茂った森林の中を下を向いて歩いていた。手には大きめのナイロン袋を持っている。
「どんぐり、どんぐり。どこかな~、どんぐりちゃん。」
アイは木の付け根を主に見回しながらドングリを探している。
すると落ち葉の間からドングリらしき物が見えた。
「よ~し!まずは1個目発見したわ!このドングリはコナラね、小さくて可愛い。この調子でどんどん探しましょう。
あっ!あそこにも!あっ!ここにもあった!」
アイは無我夢中でドングリを拾い集めていった。30分程でナイロン袋の中はドングリで半分ほどになった。
「もう少しで袋の中一杯になるわね。なんだか宝探ししてるみたいで楽しいわね。だってドングリも通貨になるんだったらみんな拾うに決まってる。しかもこれなら子供でも出来るし。
よ~し!頑張ろう!」
アイがドングリ集めに没頭していると向こうの草陰の方からカサカサッという物音が聞こえた。アイはその物音に気付き、その方向に視線を変えた。「誰?誰かいるの?」アイが呼びかけてみると「ブヒ、ブヒ」という鳴き声が聞こえた。「この鳴き声は!」アイは鳴き声の聞こえた草陰に近づいて行った。草を掻き分けて中を見るとそこには豚の親子がいた。しかも母親豚は横になって3匹こ子豚にお乳をやっている最中だった。「何でこんな草むらに豚の親子がいるのかしら?野生の豚かしら?」
アイに気付いた母親豚はムクッと起き上がりアイに近づいて来た。「なになに?私何もしないわよ?」母親豚はアイが持っているナイロン袋をクンクンと嗅いでいる。「ダメよ!これは大事なドングリなの!」そんな事はお構いなしに母親豚はナイロン袋を下からガブっと噛み付いた。すると小さな穴が開きドングリがポロポロポロポロと出てしまった。
「やめてよー!せっかく集めたドングリなのに~!」アイは慌てて拾おうとするも母親豚はドングリを一個また一個パクッパクッと食べていった。
「豚ってドングリ食べるんだっけ?」
アイはポケットから小型タブレットを取り出して『ドングリ 豚』でネット検索をした。
「へぇ~!ドングリ豚かぁ!その中でも、ドングリを餌として飼育されている種類がいるのね。希少で高級な豚なんだぁ~。そうかぁ、この母親豚はお腹が空いてて子供にお乳をあげるためにドングリを食べたかったのね。そういう事なら。はいどうぞ、たくさん食べなさい。」
アイはドングリを手に取り直接母親豚に食べさせた。
母親豚はドングリをボリボリと食べ続けると、お腹が一杯になったのか、食べるのをやめて3匹の子豚の所に戻って横になると再びお乳をあげ始めた。
「なんだかよく見てると豚って可愛いわね。
そうだ!この子達を連れて帰ってマーブル博士に研究所で飼ってもいいかお願いしてみよう。」
アイはドングリ豚の親子を微笑ましく見つめている。