60年以上つづいている中国語文芸雑誌
言語を問わずプロ作家がほとんどいない東南アジアの文壇において、奇跡的に60年以上つづいている中国語文芸雑誌『蕉風』(Bulanan Chao Foon)は2020年中に発行なく心配されたが、近く514号を出版と聞く。
日本には1904年創刊の『新潮』などもあるが、1999年一旦停刊した際には「出版史上最も長く続いている中国語文芸雑誌」と報じられた真偽はともかく、中国語で現存している文芸雑誌としては、かなり古い方ではないだろうか。
1955年に方天(張海威)の主編で登場した『蕉風』(写真は創刊号題字)はシンガポール発行ながら、当初香港でも読まれていた。ちなみに張海威は毛沢東に追われた中国共産党の有力者、張国壽の子弟である。大陸以外の中国語文壇で屈指の長篇作家黄崖から、1999年に至るまで物心共に支え続けた姚拓まで、主に香港経由で東南アジアに「南下」してきた華語系華人(サイノフォン)作家たちによって編集されてきた。50年代末には発行地をマラヤに移し、中国語を非国語とする地域では最も充実したマレーシアの華文教育制度に支えられ、華人の民族文学の発表の場として、主に現地華人の投稿によって成り立っていた。マレー文学やインドネシア文学など、東南アジアの他民族の文学や、台湾文学、中国現代文学の紹介の場でもあり、「現代派」と呼ばれるモダニズム作家の牙城だった。
『蕉風』は留台(台湾留学)組を中心に、マレーシア華人を主な読者としており、常に新しい血を入れ続けた編集陣は、『星洲日報』などの華字紙文芸欄担当者の養成の場ともなっていた。アジア通貨危機に伴うマレーシア経済の低迷の中でも、装丁を変えたり、中学生向けの『少年蕉風』を添付したりと工夫を重ねていたが、蕉風出版基金会の設立も空しく、1999年2月の休刊に至った。創刊当初から毎号1500リンギ、最近では毎号6000リンギ(約20万円)の赤字を出し続けていた公称2000部の文芸雑誌が生き長らえたのは、実業家としても成功していた華人作家らの無償の庇護によるもので、それも積み重なる欠損には耐えかねたようだ。
2002年12月にはジョホールバルの華人系カレッジである南方学院(2012年から大学学院)内の馬華文学館で489号から復刊が始まった。半年刊が目標だったが、2004、2008、2010、2012、2013、2015〜2019は年刊となった。前述の通り2019年4月の513号以来発行されなかったが、主編によると514号は校正中とのことだ。
創刊号から揃いで持っているのはジョホールバルの馬華文学館とシンガポール国立大学中文図書館だが、所蔵調査中に欠号を照らし合わせたところ、両館が寄贈交換すれば揃いとなることに気づいて自分で橋渡しできたのはよい思い出だ。日本ではマラヤ大教員だった呉天才の蔵書(Goh Collection)を立教大学図書館で購入時に混ざっていた分と、姚拓氏に私が手渡された分、そして個人所蔵分を寄贈し、1966年から欠号ありだが488号まで、南方学院移管後は内山書店に国内代理をお願いし立教大学新座図書館で購読製本している。近々京都大学図書館でも収集開始と聞く。クアラルンプールのスランゴール中華大会堂内の華社研究センター集賢図書館にも姚拓氏寄贈分などがあったかと思うが、揃いにはほど遠かった。未確認だが、カジャンの新紀元大学学院の陳六史図書館の方が、方修文庫や李錦宗蔵書など、近年現地文芸資料収集を進めているので期待できるかもしれない。
転載:The Daily NNAマレーシア版 21.4.27「知識探訪ー多民族社会の横顔を読む」