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バーテンのひとり語り 〜人生における仕事について、これまでとこれから〜

ホモサピエンスは(いきなりでかい主語)――

”ストーリー理解”と親和性の高い生き物である。

どういうことかというと、「どうしてこうなったのか」という結果や出来事に、理由や経緯(つまりストーリー)を見つけることで安心できる生き物だ、ということだ。

あのとき受験に失敗したのは、この大学に進学するためだったのだ、とか。この仕事の失敗は次の仕事への布石だったのだ、とか。あの大失恋こそが、わたしを大きく成長させたのだ、とかとか。ちなみにわたしは、19のときに女の先輩に裏切られて大失恋をしたが、結果的に今の夫と出会えたのであれはあれでよかったと思っている。相手の女は一生恨むけど(粘着)

実際はあらゆる結果も出来事も、多くは「偶然」とか「気分」とか「運」とか、そういう『たまたま』が積み重なって人生は続いていく。そこには、理由もなければ経緯もない。たぶん、運命なんかも存在しない。すべてはたまたまの出来事であって、本当は誰も(たぶん神様でさえも)、わたしのことなんて見ちゃいない。

けれど。

それでも振り返って、「わたしの人生にはこういうストーリーがあったのだ」と、わたしは言いたい人間だ。それは、そのほうが我々ホモサピエンスの脳みそにとって認知的負荷が低いからだ、と、頭ではわかっちゃいるけどやめられない。わたしは自分のストーリーが好きだし、誰かのストーリーを聴くのが好きだ。平凡なじぶんの人生に、意味を見出すのが好きだ。べつに誰に聴かせるわけでもないが、夜な夜なワイングラスを傾けながら「ああ、あたしはなんて意味深い人生を送って来たんだ」と、ひとりほくそ笑むのが大好きだ。

2025年1月。わたしは人生における「仕事」という側面に、一度句点を打つ。これは、(短期的な無職期間は別として)わたしの人生において、初めて経験するステータスだ。

「母じゃない」人生から、「母である」人生へのシフトチェンジ。こどもがいること前提の生活へのリニューアル。

その前に。

わたしがこれまで「仕事」とどう向き合って来て、今なにを考えながら働き、そして未来の展望をどう描いているのかを、シフトチェンジ後のわたしに向けて書き残しておきたいと思いました。

別に、わざわざ世界に大公開する必要はないじゃない?いや、そうかも。あとから読んだら、恥ずかしいかも。たぶんそうなる。

でもまあ、あとから読んで恥ずかしい文章を残しておくことこそ、ブログを書く醍醐味じゃないですか!と、そう思って、あとは、やっぱり少しは誰かに聴いてほしくて、書き始めました(mixiは二度と開きたくないです

というわけで、わたしもぼんやり書きますので、みなさんもどうぞぼんやりと。電車移動の暇つぶしに、飲み会前のそわそわに、眠れぬ夜の導入剤に。平凡な女バーテンの独りごとに、ぼんやりとお付き合いいただけましたら幸甚です。

わたしは臨床心理士だ。(そうなんですよ)

大学院卒業後、当時まだただの彼氏だった夫の背中を追って東京に上京してから、ざっと十数年ほどを心理の仕事に費やして来た。

あの頃、今よりもさらに心理の求人は飽和状態で、大学院を出たばかりの身分に常勤職などなく、仕事は基本的に非常勤だった。いくつかの病院や公的機関などを駆け持ちながら、それでも足かけ10年と少し、こどもの専門職としてわりと一生懸命にやってきた、つもりだ。

ちなみに、心理の仕事は大好きだ。日々ここには書けないことばかり起きるが、だからこそ人間の根本が問われる本当に味わい深い職業だ。で、大好きなので、実は今も辞めていない。もはやわたしの「本職」はワイン業界人だと思っているが、そんな今のわたしでも雇ってくれる現職場――わりと最前線の現場なんだけど――で、みなさんの深い理解と支えのなか、細々と仕事をさせてもらっている。本当にありがたいことだ。

ワイン業界人に転生したのは、2023年の3月だった。

なお、有料記事ですが転職してからの1年間についてはこちらに。SNSやメディアでは明るく朗らかなところだけを切り取ってお送りしていますが(※ワイン界にひとを招き入れるためには、発信者はそうあるべし、というわたしの個人的な信念からです)実際はかなりギリギリの状態でなんとか1年を生き抜きました。

転機になったのは、コロナ禍だった。誰にとってもそうであったように、あの時期はわたしにとっても、人生のストーリーを練り直す時間だった。つまり、暇だったのだ。

当時、35歳。ちょうどこどもを持つことについても考えている時期だった。でも、できない。結婚して7年が経過しても、あちら側からの音沙汰がない。

当時メインで勤めていた国立病院は、子育てを考えるには最高の環境だった。院内保育あり、病児保育あり、9時5時の勤務に加えてほぼ自由に休める環境。非常勤のため給料は時給制だったが、人間関係も抜群によく、今考えても天国みたいな環境だった。

そこに、9年いた。白衣で院内を歩き回り、のべ数百人、もしかするともっと多くのこどもたちと会った。ちなみに心理士、なかでもいわゆる「カウンセラー」になりたいと思ったのは14歳の頃で、つまりわたしは、じぶんがこどもの頃に憧れた職業に就いていたのだ。とても誇りに思っていたし、そんな自分が好きだった。何よりもやりがいのある大切な仕事だ、と、頭では重々承知していた。

でも。ここに一生いるのか、と思うとなぜか心がざわついた。それでも、最初にざわつき始めてから3年ほどは、そこに残った。心理の仕事が好きだったし、万が一子育てをするならやっぱりここがいいと思ったから。でも、こどもはできなかった。そして、コロナがやってきた。そうか、わたしたちはみんな、いつ死ぬかわからないんだ。そう思った。

だったら、いつ来るかわからないこどもよりも、重い責任と引き換えに手に入るやりがいよりも、シンプルに「楽しい」仕事がしたい、と思った。だって、いつ死ぬかわからないんだったら、そして、誰しもいつかは必ず死ぬんだから、死ぬまでくらいは楽しく生きていたいじゃない。それで、当時ハマりにハマっていた、ワイン業界へのキャリアチェンジをはかったのだった。これは、こどもを持つという人生の選択肢の優先度を、いったん下げることに他ならなかった。36歳になる年のことだ。

ちなみに最初は、ブドウ畑に就職したいと思ってました。「醸造」は神様みたいな仕事なので、まさか携われるとはつゆほども思ってなかったので。で、紆余曲折あり、最終的には現職のワイナリーに拾ってもらったところから、ひよっこワイン業界人として生きていくことになってます。人生ってほんとに、意味深い…

ワイナリー勤務をしながら、ワ活、と自ら称するワインの活動も続け、のちに週1で開くシューイチバー、中野バーテン修行、そして、現在の六本木のWineBarのオープンへと道は繋がっていった。

軸になっていたのは、いつでも「ひと」だった。

わたしはどうやっても、やっぱりひとが好きだった。単純に、寂しがり屋なのだ。ワイナリー業務でいちばん好きなのは店頭での接客だったし、ワ活で誰かと出会うことも、ワイン片手に語らうことも大好きだった。正直、もう一生分のひとと出会って来たので対人職からは離れるつもりだったのだが、結局もっとも心惹かれたのは「ひとと出会う」仕事だった。だから、六本木にやどり葉を開いた。あれは、紛れもなく「わたしが誰かと会うための」店だ。

2024年に入ってからは、圧倒的に、というか、絶望的に、というか、とにかく毎日忙しく、そしてひたすら楽しい毎日だった。

こっち側の業界人、あるいは当事者の方はお気づきかもしれないが、あたしは間違いなく多動・衝動性優位の脳タイプだ(未診断)。若干躁鬱の気さえあるので、なんならお店のオープン前後は、ちょっと躁転してるんじゃないかとは自覚していた。でも、それでもまあいいか、と思っていた。わたしは長く走り続けることが苦手なタイプで、単発的な爆発力のほうが圧倒的に高い人種の人間だ。だからこそ、爆発したときにステージをあげて一気に頑張るほうが、わたしの脳タイプには合っている。

でも、急ブレーキがかかった。まさかの、このタイミングで、こどもができたのだ。もちろん、嬉しいことだった。それでもやはり、動揺した。

特に「わたし」の健康と元気が運営資本となっているバーの運営が難しくなった。妊娠しても頑張って仕事を続けられる女性が多いことは承知しているし、そういった諸先輩方の背中を見てきたわたしは罪悪感を抱きさえした。でも、どう頑張ってもわたしの場合は、これまでとおなじように働くことが難しかった。本当に、なんとか六本木に行っても営業ができないばかりか、その後で寝込んでしまっていたのだ。じぶんが悔しかった。

そういう2ヶ月を経て――いま思えばたった2ヶ月だが、渦中は「一生」に思えていた――バーは今のゆるい営業スタイルに落ち着いた。体調はまずまず整ってきたが、もう無理はしないと決めている。これから妊娠中期、そして後期に向けてまだまだ変化の途上だし、体力も3分の1くらいになった。たった半日買い物に出るだけで、翌日半日はお布団とお友達なのだ。前とおなじようには、やりたくてもできない。

じぶんと家族を大事にする。あたりまえだけど、すっかり忘れかけていたそんなことを今は、いちばん大事に思うようになった。

「こども産んだら、いつ戻って来る?」

今、産休をお伝えするようになっていろんな職場で聞かれている。相手がこどもの場合はさすがに「1年くらいかな」と答えているが(大切なひとと、何らかのお守りを持って別れていくのは大事なのだ)、相手がオトナの場合は率直に伝えている。わかりません、と。

職業柄、わたしは普段なんらかの偏りのあるこどもたちばかりに会っている。そんな生活が10年以上続いた。わたしの世界認識は完全に、偏りがある側に偏っている。そのうえ、じぶんも、夫も明らかに神経発達的な特性を持つ私たちが、いわゆる定型のこどもを生むとは思っていない。子育てはそもそも「育てにくい子」が前提であり、今のこのよぼよぼ体力をもってそんな育児に立ち向かいながら働くじぶんの姿は、今のところちょっと想像ができない。

そもそも、わたしは働くことが嫌いだ(こんなに働いといてアレですけど)働くかどうかはわたしにとっては「選択肢」であって、いつだって目の前には、働くか、働かないかという、ふたつの選択肢が同時に存在する(このとき、経済状況はいったん考えないこととする)

だから、「いつ戻って来る?」と聞かれると、「ちょっと待て、まだ働くとは決めてない」という、車は急には止まれないみたいな標語調の答えがまっ先に出てくるのだ(このとき、経済状況はいったん考えないこととする

だって、子育てがあるのによ?それだけで重労働であるばかりか、すでに今、働くだけでその他の生活がまわらないくらい不器用なのによ?シフトチェンジ後のことなんて今から考えられなくない?

などと思い、なんでみんなふつうに復帰前提で聞いてくるんだろう?とイノセントな質問を夫にぶつけてみたら、「申し訳ないけど、きみはそもそもの自尊心が高いんだよ」というまさかの回答が返ってきた。え、あたしのせい?

「仕事がアイデンティティになっているひとからすると、そもそも働くかどうかは選択肢でさえない。それによって自我が支えられていることさえあるのに、きみのようにそもそもの自尊心が高いと、生きてるだけで自分に価値があるから働くことの意義が薄いんだよ」

めちゃくちゃ褒められている気もするし、ものすごい悪口を言われている気もする。でもまあ、ごもっともだ。あたしは仕事をしてようがしてまいが、価値あることをしてようがしてまいが、じぶんがこの世に生きることに疑問がない。一方で、それとは違う文脈で刺激がないことは苦手なので、かつて事情があって無職になったときは実際には1週間で音を上げた(そうなるとそうなったで毎日ボロボロ泣き明かすのである。面倒な女だ)だから、わたしにだって仕事を「しない」ことのつらさがあるにはあるのだが、その刺激の受け取り口が子育てになる可能性はある。いや、十分にある。

ーーでも。

もし、(いつかわからないけれど)いったん母になる人生のもっとずっと先に、何がしていたいかと考えると、やっぱり「ひと」と会っていたいと思うのだ。

生きづらいこどもたちやその親御さん、ひいてはなんとなく寂しいオトナたちが集う場所。コロナ禍のわたしを支えてくれた、大好きなワインで繋がる居場所。そういう場所を、やっぱり作っていきたいと、そう夢見てしまう。

はからずも、というか、たまたまの偶然の重なり合いで、ほんの一瞬だったけれど「じぶんのお店をもつ」という夢に手が届いてしまった。このしあわせを、ただのいい思い出として取っておくことが、果たしてこの落ち着きのないあたしにできるだろうか。このしあわせな日々に、もう一度手を伸ばしたいと思うのではないだろうか。なんなら思ったよりも早い段階で、「またお店やりたい」とか言い出しかねないんじゃないだろうか………

うーーーん、あり得る。

というわけで、仕事復帰時期は未定ですが、またなんかやりたいとは思ってます。仕事がすべてじゃないけれど、っていうか、なんならホントにべつに全然働きたくはないんだけど(このとき経済状況は考えないこととする)、今やっている仕事がどれも好きな仕事ばかりなので、たぶん句点打ったら打ったで(そして子育てがつらいときほど)いい思い出ばかり思い出しちゃうんだろうな…

それが来年なのか、5年後なのか、はたまた20年後なのかはわからないけれど、そんなことを考えながら、わたしは日々カウンターに立っております。

先日お客様から、「ますたやさんって明るく見えて、本当はネクラじゃろ?」って言われました。ザッツ・ライト

真正パリピのみなさんも、ネクラなみなさんも、本当はネクラなビジネス・ネアカのバーテンに会いにどうぞ六本木まで。11月からはもうすこーしだけギアをあげて、ラストオーダーなんかももうちょいと遅らせて、12月の閉店まで駆け抜けようと思ってます。

……ほらね〜、どうせ休めないんだよ、あたしってば。年明けたら1回やすむぞ!絶対に!!絶対にだ!!!!!

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六本木の隠れ家WineBar やどり葉|店主 マイコ(ますたや)
JSAワインエキスパート/都市型ワイナリー勤務

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WineBarやどり葉 店主|ますたや
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