妥協なきステイホームの求道者 益村康平インタビュー
この男は、プライドを持って、毎日を過ごしているのだというーーーーー
取材決行
「またか」とため息をつくような、度重なる緊急事態宣言。人に会い、土地を巡り、日々のストレスが発散できない世の中になってしまってからどのくらい経ったのだろうか。
「ステイホーム」が過去の言葉になりつつある。
そして日本が、「我慢」の毎日から「限界」の毎日に変わりゆく。
そんな中、「ステイホーム」を極める「求道者」が西東京に生息している事を事情通から掴んだ取材班は、西武池袋線に飛び乗った。これは決して不要不急の外出ではない。新たな出会いの、開会式である。
西武池袋線沿線某駅に到着すると、新たな商業施設の開店もあって人々が各々の外出を楽しんでいた。マンションも多い、住みやすそうなベッドタウンという印象だ。ここにステイホームの求道者が住んでいるのだと思うと、一気に緊張感が過る。
徒歩10分ほど、こじんまりとしたアパートに着いた。住所にあった部屋を訪れると、眼鏡をかけた男性が出迎えてくれた。
「あ、どうも!」
出迎えてくれる益村。前髪が少々寂しい印象を受けた。
意外にも、はつらつとした印象。部屋は一人暮らしには十分なワンルーム。我々取材班は、恐る恐る、渡されたクッションに腰を降ろし取材を始めた。特に、飲み物は出されなかった。
そこは、こじんまりとした王国だった。
部屋を案内する益村。裸足がペタペタと床を鳴らす。
ーーー取材を受けていただき、ありがとうございます。
益村:いえ!こちらこそ。あまり人を会う機会もないので、緊張しております(笑)すみません、狭い家で。
ーーーとんでもないです。最初にお聞きしたいのですが、普段益村さんはどのようなお仕事をしてらっしゃるのでしょうか。
益村:う~ん。なんなんでしょうね(笑)一応、ぺーぺーのお笑い芸人はやらせてもらってて、それもご時世と能力不足でライブも仕事もないんで…。かといってバイトも。居酒屋のバイトをしてるんですけど、休業という状態で。何も、してないってことになりますかね(笑)
ーーー毎日、お家にいらっしゃる?
益村:そうなりますね。
ーーーこのご時世で、遊びに行けない、人に会えないという状況が続いています。やはり、退屈ではないですか?
益村:退屈っちゃあ退屈ですよ。毎日、何もしてないわけですから。退屈といえば、退屈。
退屈…。ステイホームの求道者から出た言葉は、意外な言葉だった。
語りながら、壁を見つめる益村
益村:毎日好きな時間に起きて、好きなご飯を食べて、酒を飲んで…。生産性の欠片もないのですから、退屈ということなんじゃないですかね。暇だし、何もしてない日や一日中寝てる日もあります。
ーーー普通の人は、退屈な状態というのは苦痛なものだと思うのですが。違うのですか。
益村:ステイホームっていうのは、その退屈さをいかに幸福に変えていくか、という考え方だと思うんですね。
アップデートすべき価値観
ーーー幸福、ですか。
益村:退屈なのはもうしょうがない。そこでいかに自分を満足させるか、ということです。何もない一日なのだから、1食に1品増やすとか、飲んだことないお酒飲んでみるとか、映画を見るだとか。幸福度を上げていく作業が…。ステイホームなんですね。僕はそこに誇りを、持っています。
ーーー流石、ステイホームの求道者、ですね。これまでの価値観が揺さぶられました…。
益村:そんな大したものでは(笑)人が勝手にそう呼んでるだけで、僕はありのままに生きているだけだし、この日々が世界のためになっているのだと思うと毎日自信になりますね。
語る益村
ーーーというと。
益村:僕が毎日いるだけで、不要不急の外出をしないという国の要請を守り、感染リスクを減らし、世界のためになっている。僕が毎日家でひとり酒を飲むだけで、世界がよりよくなっているという事実が、僕の毎日に自信を持たせてくれるんです。
ーーーなるほど(笑)
益村:ん?とにかく…みんな出かけすぎだと思います。一度ステイホームに立ち返って、日々の暮らしを見つめ直してみては。そこから、暮らしのステージが上がっていくと思うんですね。
ーーー目に鱗です(笑)夕方まで寝るだけで、世界のためになっているという考え方ですね。
益村:う~ん、どうなんですかね。
ーーーえ?
益村:もちろん僕も一日中寝る日もありますけど。それは稀、なんですね。夕方まで寝る、ということは自分のためにならない、とこの生活を送るうえで最近気づきがあったんですね。
ーーーえっと…すいません。どういうことでしょうか。どうせ、夕方まで寝ているんでしょ?
益村:ん?いや僕は基本的に朝から起きて活動してますし、ほら、この通り朝の日課の瞑想もしてます。朝からいかに自分のために行動を増やすか、そこにステイホームの面白さがあると思いますよ。
「チャクラが集まってきてます。」と、瞑想中の益村。
その場で急に瞑想の姿を見せてくれた。何か未来は見えているのだろうか。
支えてくれる師匠
ーーーすごいですね(笑)独学ですか?
益村:いえ、僕のメンター的存在「竹脇まりな」先生が教えてくれたんですけど、まりな先生に教えてもらった瞑想やストレッチ、食生活を参考にして自分の体をメンテナンスはさせてもらってるんですね。色々教えてもらって…。時に厳しく(笑)
笑う益村
ーーーあの、youtuberのですか?なんか直接教えてもらったみたいに言ってますけど。youtubeですよね(笑)
益村:まぁ…youtubeといえばyoutubeですけど…。なんか問題ありますか?さっきから半笑いですけど。すいませんそんな態度なら、僕もあんま時間ないんで…。正直、どうなのかなと思いますけど。
ーーーいやぁ、別に、ないですけど。
益村:…。まぁとにかく僕の発信でステイホーム力…。これは僕が考えた造語なんですけれど…。そのステイホーム力を世界の皆さんで実践すれば、世界はよくなっていくんじゃないかなと強く思う次第であります。…取材していただき、そこは嬉しいですね。みなさん、がんばりましょう!こんな感じでどうですかね(笑)
ーーーでも皆さん生活もありますし、益村さんみたいに無責任に自由にダラダラできるわけでもない。このご時世のストレスは必ずあるわけで、そこの折り合いの付け方は生まれてくるもの。そこをもちろん皆さん我慢してますよ。それをずっと家にいるだけのあなたに諭される筋合いもないと思うんですよ。ステイホームの求道者とか言ってますけど、ただの引きこもりでしょう?お笑いもないバイトもないというけど、それはあなたが何も行動してないだけですよね?もっと言うと…。
益村:え、やんの?
ーーーえ?
両刀キンミヤ瓶が、現場の空気を凍らせる。
益村:やんのかって話。人の家でズケズケ上がってきて飛沫飛ばしに来たんかお前は。なんだお前オイ。なぁ、なぁ、ん?ん?やんの?お前?いやマジでマジで。立てって。立~~てって。自粛明け初喧嘩といくぞお前、なぁ。なぁ!
ーーーすいませんちょっとやめてください!そんなにステップ踏まないで!
すると益村は、おもむろに仮面ライダーのベルトを取り出し、こちらに罵声を浴びせてきた!
益村が迫る。おもちゃの光が、妖しく発光していた。
益村:いくぞお前!!!!
身に危険を感じた取材班は、湿気っぽい部屋を後にした。取材クルーの女性は震えながら泣き、そっとジャンパーを羽織らせた。
ステイホームの求道者、その求道の果てに、未来はあるのだろうか。
益村が愛飲しているというキンミヤ焼酎。脇役が脇役を飲んでいる。
続報があれば、また本件を追いたい。
筆:マスムラコウヘイ