人は不安になると過去から目をそらし、憎悪と差別に走る
第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人などの大虐殺(ホロコースト)について、イギリスの成人の20人に1人が「起きなかった」と考え、12人に1人が「誇張されている」と考えていることが明らかになった。イギリスのホロコースト・メモリアル・デー・トラスト(HMDT)が2000人以上を対象に行った調査に調査した結果。
27日は国連が定める「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」に当たる。イギリスではロンドンでの追悼式典に加え、国内で1万1000件以上の関連イベントが行われた。
HMDTの調査では、回答者の45%がホロコーストの犠牲者数を知らないと述べたほか、ホロコーストで殺されたユダヤ人は200万人以下と答えた人が19%いた。実際の推計は600万人とされる。
「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」では、1994年にルワンダで起きた虐殺や、1970年代のカンボジアのポル・ポト政権による虐殺の犠牲者も追悼する。
時の流れによって過去の出来事が風化していくのか、辛い過去をから目を背けようとしているのか。それとも「なかった事」にしようとしているのか。
人間は不安が募っていくと必ず憎悪と差別が湧いてきます。それは自分と違うもの、弱いものに向けられます。
ジャシーが歩いていると二人組がジャシーに向かって人種や同性愛に対する差別的な言葉を叫び、彼を襲ったという。ジャシーは漂白剤とみられる液体をかけられ、首には縄を巻かれたという。
二人組はその場から逃走し、ジャシーは病院に向かったとのこと。ジャシーはかすり傷や打撲で済んだが、精神的なショックが大きいようだ。ジャシーがドラマで演じるジャマルはゲイで、自身もゲイであることをカミングアウトしており、今回の犯行は差別的な動機によるヘイトクライムとみられている。
もし私が第二次世界大戦時に自助グループの活動をしていたら、どうなっていたでしょう。ホロコーストでは同性愛者や精神疾患の人達も犠牲となりました。私も間違いなく命を奪われています。
1979年に上演され反響を巻き起こした伝説の戯曲「ベント」の映画パンフレットを見直してみました。
同性愛者はピンク色の逆三角形(ピンク・トライアングル)を囚人服の左胸と右足に縫い付けられていた。ピンク・トライアングルは遠くから識別できるように他のトライアングルより更に2センチほど大きく作られていた。
映画「ベント-堕ちた饗宴-」パンフレットより
反ナチスのマルティン・ニーメラーの言葉「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」がありますが、その最後は何度見てもやはり衝撃的です。
そしてナチスが私を攻撃したとき
私のために声を上げる者は誰一人残っていなかった
直接自分が誰かを殴ったり殺したりしないで傍観しているだけだったとしても、その攻撃の対象が明日には自分に向けられるかもしれません。誰もが自分の事と考えずに過ごせば、また殺戮が繰り返されるでしょう。
加害側は口を閉ざす。だって口を開けば責任が問われる。自分の関与について答えねばならない。そして何よりも、できることなら忘れたい。加害側にいる多くの人はそう思う。人は都合の悪い事実からは目を背ける。なかったかのように振る舞う。そのうちに実際に忘れてしまった人も少なくない。こうして加害の側の声は、夏の終わりのセミの声のように、少しずつか細く、そして小さくなる。
森達也「虐殺のスイッチ 一人すら殺せない人が、なぜ多くの人を殺せるのか」
だからこそ加害側の声を聞いて集めなければならないと続いています。
先に書いたジャシー・スモレットが襲われた事件のように、今も差別的な出来事が相次いでいます。報道されないものもたくさんあるでしょうし、SNSには人を死に至らしめる毒ガスのような差別的で恐ろしい言葉が多く流れて人を苦しめています。ヘイトクライムが相次ぎ、それがやがて燎原の火のように止められなくなり、虐殺へ繋がっていくのではないでしょうか。
都合の悪い事は時に改ざんされ、そして私達を貶めようとした捏造や陰謀であるという話にすり替わります。過去を捨てるのではなく、被害も加害も語り継いで過去から学び、これからの未来に生かしていかなければならないはずです。
セクシュアルマイノリティであっても、自分たちが知らない精神疾患や障害を持つ人に対して差別的な発言をする人がいました。また精神疾患の人でもゲイやレズビアンを気持ち悪いという人もいます。
そうした複数の生きづらさを抱えた人はどこにも居場所がなくなってしまう。そんな思いから自助グループ「にじのこころ」を立ち上げたわけですが、まだ生きづらい空気が蔓延しているようです。
多様な生き方を、それぞれの人生を大切に思う。そんな世の中にしなくてはならないと思う次第です。アウシュビッツを生き延びたフランクルはこう書いています。
どんな時にも人生に意味がある
ヴィクトール・E・フランクル「それでも人生にイエスと言う」
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