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訪ねてびっくり、「宮殿」で思いがけないリンクが起こった話

リンク
link /líŋk/
-n 1a 《鎖の》環(かん),輪.…
2 結合させる人[もの],つなぎ …
-vt 連結[連接]する,つなぐ:関連づける,結びつける,…

リーダーズ英和辞典より抜粋

久しぶりにコペンハーゲンへ遊びに行った。
私の住むスウェーデンのマルメという街は、海峡を挟んでデンマークのすぐ向かいに位置する。橋を使って電車で約30分、あっという間にウェルカム・トゥ・デンマーク!というそんな短い距離である。

国境を超えると自動的に「ウェルカム・トゥ・デンマーク!」と携帯電話にメッセージが入る。
料金のお知らせが書かれているのだが、デンマークに入っても通話料金は変わらない。とても便利だ。

さて、今回デンマークへ来た目的は大学時代の先生に会うこと。
そしてその後に、別の友達と食事の約束もしている。

先生はかつて客員教授として私の通っていた大学に勤めておられ、私が人生で初めて出会ったデンマーク人である。
授業中は決して日本語を使わなかったが「実は日本語ペラペラらしい」という噂で、先生の前でクラスメートとお喋りするときは、うっかり下手なことを言わないように気を遣ったものだ(笑)。今は退職され、日本とデンマークを行ったり来たりしながら生活されている。

ご自宅に招いて頂いたのだが、「ん?」教えてもらった住所に見覚えがある。
私がコペンハーゲンに住んでいた時、ある合唱クラブに属していたのだが、その練習場所と同じ通りの名前だった。
そこで歌っていたのはもう10年以上前のことだから、懐かしいなぁと思いながらネットで教えられた住所を検索するとまたびっくり。グーグルマップのピンがその練習場所を指しているではないか。
しかし、練習場所だった建物はコペンハーゲン大学のキャンパス(音楽学部)の一部だったので、そんなところに住めるはずはない。もしかすると隣に建っているマンションと番地が被っているのか?不思議に思いながら取りあえずその住所へと向かった。

すると行き当たった建物がこれ。

正面から撮ると写真に納まらないぐらい大きい建物

ええっ。いや、これまさに私が合唱の練習をしていた大学の建物ですが、、、?
こんなとこに住んでるの?

そしてこの入り口!

はい、まさかのまさか。これが先生のお家(マンション)だったのだ。
恐る恐る中に入ってみると、完全に改築されている。

先生のお話では、この建物は6~7年前に大学が移転した後、住居として改装されることになったそう。しかし改装途中でなんと放火魔によって内側が全部焼失するという難を受け、工事は一からやり直し。残った外側の部分を利用して今の住居になったそう。

建物自体は古く、1868年のもの。実は元々フリーメイソンの集会所として建設されたもので、今でも当時の名前を引き継いで「ソロモン宮殿」と呼ばれている。

「宮殿」と言われるだけあって、ものすごく天井が高い。先生曰く4メートル以上あるらしい。昔々はシャンデリアなんかがぶら下がっていたに違いない。大きな窓から外を眺めると貴族にでもなった気分だ。そのやたら縦に長い空間を利用して、各部屋にはロフトが設置されている。
住居部分の完成は2017年。かつての「宮殿」は超モダンかつラグジュアリーなマンションに生まれ変わっていた。

(建物のパンフレットを見つけました。14-15ページ目~でマンションの部屋の様子が良く分かると思います。パラパラめくってみてください。)

ところで、久しぶりにお会いした先生とは随分話が弾んでしまい、完全に時間を忘れてしまった。はっと気づくと既に次の約束の時間になっていて、携帯電話に目をやると、友達から待ち合わせ場所に着いたというメッセージが届いていた。

慌てて友達に電話をし、謝りながら「私、今まだ○○通りの音楽学部があったところにいるのよ。もし良かったらここまで来て中の様子を見に来ない?」と誘ってみた。
もちろん先生の許可を得て。

実は友達のお母さんはかつてコペンハーゲン大学の音楽学の先生だった。
彼女から話は聞かされていたので、以前からそのことは知っていたのだが、彼女もまさかお母さんの昔の職場が住居になっていることは知らないだろう。

ほどなくして彼女がやってきた。大きな入口の扉を抜けた瞬間、既に驚きで声を失っている。
改築前のこの建物で、彼女のお母さんは30年間も勤められていたという。彼女が小さかった時には、お母さんの研究室や図書室で過ごす時間も多かったそう。

「ここに階段があったのに、今エレベーターになってるの?」
「あれ?長い廊下が全部なくなってる!」

先生がひととおり部屋を案内し終わった時に、
「もしかすると母の部屋はこの部屋と同じ場所だったかもしれない。もう母はこの世にいないから確かめることはできないけど。もし階が違っていたとしても、部屋の向きは絶対にこの部屋と同じだった。窓から見える景色を覚えてるわ。」
と彼女は言った。顔が若干紅潮しているように見える。

「当時は図書室の扉が重くて、鍵はかかっていなかったのに、小さかった私は扉を一人で開けることができなかったわ。」
「廊下を歩くと色んな所から音楽が聞こえてきて楽しかった。」
思い出話がどんどん飛び出した。

最後に先生にお礼を言って別れ、彼女と一緒にマンションの部屋を出た。
建物を去るときに、彼女は名残惜しそうに振り返って写真を1枚撮ってから歩き始めた。

それにしてもこんな偶然の一致があるんだなぁ。まるで過去と現在が輪(リンク)になって今日丸く繋がったみたい。と思いを巡らせながら繁華街の方へと進み、私たちのお喋りも別の話題に移っていったのだった。


【オマケ】
今回訪れたマンションから歩いてすぐの場所に大きな公園(Kongens Have=王様公園)がある。その公園の真ん中に立つのが冒頭の写真の宮殿、ローゼンボー宮殿。17世紀のデンマーク王クリスチャン4世(下の記事参照↓)が建てた宮殿である。
中の見学もできます。





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