元気でね
久しぶりに折り紙を折った。しかもかなり手の込んだ恐竜の折り紙だ。
インターネットで調べると、あらゆる種類の恐竜が折り紙ひとつでできることがわかったが、私の作りたい恐竜はどれも手の込んだ大人の趣味用と言っても良いぐらい難易度が高い。平面図では理解できず、YouTubeで折り方の映像を超スローモーションで流しながら作った。
出来上がった恐竜たちがしっかりと立つように少し厚めの紙を使ったので、しならせるべき所が勢いよくビリッと破れてしまったり、重ねて折るところがあまりにも分厚くなりすぎて折れなかったり、と何体かをゴミ箱に送ることになってしまった。
折り紙を折る作業は性格が出るものである。
きっちり角が折れていないと、例えばくちばしや翼の先が微妙にずれて、裏の白色が端々に見える鶴が折りあがる。小さなころから何かとアバウトで大雑把だった私は、きっちりと完璧なくちばしができたためしがない。
折りながら「従姉の○○ちゃんはこんなにキレイに作ってたのに、あんたは大雑把やなぁ」と、ことあるごとに従姉と比べる母に言われた記憶が蘇った。
別にそれに傷ついたとかそういうことは一切なくて「できないもんはしょうがない。」と開き直っていた私だからこそ、今また大人になって真剣に折り紙を折らなければならなくなって、その大雑把さと格闘する羽目になっているのである。それが人にプレゼントするためのものとなると尚更だ。
そう、この折り紙は私の小さな友達への誕生日プレゼントだ。
今週4歳になるその友達は、国際結婚をした親の元に生まれた。彼の父親は結婚を機に妻の国へやって来たのだが、言葉にも文化にもなじめず、この国の人たちの持つメンタリティも理解できず、静かに苦しんでいたようだ。妻の方も、そんな夫をサポートすべく語学学校の手続きや、インターンシップの受け入れ先を探したり、彼が外との繋がりが持てるようにいろいろと努力した。自分のために彼がこの国に来てくれた、という負い目のようなものも感じて、と彼女は話していた。
そしてある時、夫は母国に帰ることに決めた。もう十分色んなことを経験したからもう良い。自分はこの国で何の役にも立てない。自国に帰れば少なくとも誰かの助けになることができる、と。
妻は夫の国に移って暮らすことは考えられない、と子供と一緒に残ることに決めた。もちろん子供のことも考えて悩んだと思う。子供にはお父さんが必要なのに、と妻は言っていた。でもその一方で、別れるのは辛いけれど、夫が段々年を追うごとに元気が無くなってきているのに気づいていた。彼が母国に帰って元気になってくれるのであれば。また自分自身も、彼を社会に馴染ませてあげなければ、というようなプレッシャーから解放されるので、ほっとしたところも正直ある、と。
この2人とは時々顔を合わし、お家にもお邪魔したことがある。他人様のことだから私がとやかく言う立場ではないけれど、去年の暮れに2人からこの話を聞いた時は悲しかった。どちらが悪いとか、どちらが良いとか、どうするのが良いのかとか、全然わからない。私が結論を出す立場でもない。でもこのことについて随分考えた。
妻は年明け早々に実家近くのマンションを買った。親の近くに住んでると子供の面倒も見てもらえるし、と。彼らはあと2週間で今住むこの街を離れ、しばらく新しいマンションで過ごしてから、夫はひとりヨーロッパに住む友人たちを訪ねた後に自国に戻ると言う。
今でもたまに顔を合わすことがあるが、妻の方がなんとなく会うたびにやつれているような気がする。いつもと変わらないように振る舞っているが、別れの日が毎日日を追うごとに近づいて来るなんてキツいだろうなと思う。すごく楽しそうな家族だったのに、やるせないな、悲しいな、とやっぱり思ってしまう。他人事だと分かっているけど。
子供は最初随分シャイで、私を見ても隠れてばかりだったけれど、だんだん慣れてきたのか、おもちゃを見せてくれたり、名前も覚えて呼んでくれるようになった。
せっかくそこまで近づいたのだけれど、もうすぐお別れしないといけない。たまたま来週が誕生日だと聞いて、プレゼントを渡すことに決めた。でも買ったおもちゃだと味気ないし、何に喜んでもらえるかが分からない。プラスチックの恐竜を持っていたことを思い出したので、折り紙の恐竜を作ることにした。紙だから潰れたって破れたって、そんなに惜しい物でもないし、もらう側も気を遣わないでよいだろう。
ということで作った紙の恐竜たち。気に入ってくれるだろうか。すぐにグチャっと潰してしまうだろうか。元気な彼だからその可能性は大いにある。でもちょっとでも遊びに使ってくれたらと思う。
彼らが街を離れたら私はきっともう会う機会はないと思う。私の小さな友達はこれからどういう風に大きくなっていくんだろう。お父さんとは再会する日が来るのだろうか。今の時代だからオンラインで顔を見ながら連絡取るのかな。
どんな状況であっても元気で幸せに育ちますように。親の2人も、今は辛くとも、幸せな人生になりますように。願わずにいられない。
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