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生まれて初めてガチの野良猫を保護した話⑪

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精いっぱいの握手

私は、病院から帰ったしっぽを見るまで「この子は、きっと一生触れないままなんだろうな」と思っていました。

ラシャトンというペーストは手から食べてくれるけど、どさくさに紛れて触ろうとすると、サッと体を引かれてしまう。やりすぎると、小さく唸る。朝、カーテンを開けるために部屋に入ると、シャーッと威嚇。

2段ケージの扉は、ちょっと前から開けっぱなしにしてあって、しっぽが自由に出入りできるようになっており、実際部屋をパトロールしている様子もあるけれど、私が部屋に入ると、すごい勢いでケージに戻り、隠れてしまう。

きっと、ずっとこうなんだ。でも、しっぽは屋外にいるときより幸せそうだし、触れなくてもいいじゃないか。そう思うようになっていました。でも…。

「挑戦すれば、きっと触れるようになりますよ! まずは、手をグーにして、しっぽの体のどこかにそっと当ててみて。撫でるんじゃなく、最初は動かさないで」

えつこさんのアドバイス。そのとおりにやってみます。ああだけど、あと5㎜が、どうしても勇気が出ない。

「しっぽにパンチされても、絶対に手を引かないで。じゃないと、手が近づいてきたら攻撃、っていうのが癖になってしまうから。なにをされても動じないで」

ひー、そんなこと言われても。私も一度しっぽにされたことあるけど、爪が出た状態での猫パンチって、相当痛いじゃないですかー!

恐る恐る手を近づけると、しっぽにも伝わるのでしょう、ぱっと体を引いてしまいます。見ながらだとビクビクしちゃうので、眠そうに横になっているタイミングで、目をつぶってやってみます。

いけるかな。さわれるかな。もうちょい、もうちょい、もうちょい…。

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ちょん。

2020年1月27日。しっぽが我が家にやってきて、2ヶ月と1日。これが私たちの、記念すべき、はじめての精いっぱいの握手でした。

甘えんぼ

その日を境に、しっぽは私に、体を触らせてくれるようになりました。

初日は、手をグーにして、ほんのちょっと体にくっつけるだけ。翌朝は、手の甲をつけても大丈夫に。その日の夜には、なでなでするように手を動かしても、しっぽは怒りませんでした。

そしてさらにその翌日には、なんと全身触れるように。耳のあたりを撫でると「もっともっと」と、自分から頭をすりつけてきて、なかなか開放してくれません。顔を近づけると、私に「鼻チョン」してくれます。鼻の先をくっつける、猫の挨拶です。

爪をしまった柔らかい前足で、私の手のひらを、自分の方に引き寄せることもあります。そして毛づくろいするように、丹念にぺろぺろ舐めてくれるのです。

まさか、こんなに甘えんぼだったなんて!

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しっぽと毎日急速に仲良くなりながら、私は心の中で何度も「ごめんね」と謝りました。

私はずっと、しっぽを誤解してた。人間とは仲良くなりたくないし、気難しい性格で、そっとしておいてほしいのかなって思ってた。でも考えてみたら、毎日口の中が痛くて、お腹が空いても痛みで思うように食べられなかったら、気持ちが張りつめちゃうのは当然だったね。

私はしっぽのことを無意識に「野良猫だから」という目で見ていたのかもしれません。だって自分の家の猫が気が立っていたら、真っ先に「どこか調子がおかしいのかな」って思うから。猫は人間のように、自己弁護をしません。人間が誤解や決めつけをしたら、その誤解は、自分自身が気づくまで、永遠にそのままです。

甘えたくて、撫でられたくて、もしかしたらずっとシグナルを送っていたかもしれないしっぽ。病院で治療を受けたことで痛みが和らいで、ずっと見えづらかった本来持ってた顔を、見せてくれたしっぽ。

本当にごめんね。そして、ありがとう。

⑫へつづく

我が家の猫たちとのエピソードはこちらに。

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