生まれて初めてガチの野良猫を保護した話⑤
とうとう捕獲!
公園は、サロンの目の前。私たちは小走りで、捕獲機まで駆けつけました。
うわあ、いる! 暗くてよく見えないけど、しっぽ、確かに中にいる! ときどきシャーッって言いながらうずくまってる!
ホッとしました。工事の前に無事に捕まえられたこと、長かった公園通いがやっと終わること。よかった、ホントよかった。
捕獲機をサロンに運んでよく見ると、布にはナメクジやら虫やらの姿が。ぎゃあ、とつい声が出てしまう私の前で、
「猫の捕獲作業って虫との戦いよ~。夏なんて蚊に刺されまくり」
と、まったく動じずテキパキ作業するえつこさん。すごいなあ。私にとっては非日常だけど、えつこさんはこういう行為を、一年中無償でやってるんだもんなあ…。
時刻は22時近く。しっぽを捕獲機に入れっぱなしにしておくのが忍びなくて、24時間対応の動物病院に電話をかけ、タクシーで運ぶことにしました。
ところが。
この子は、人に馴れてますか?
「仮に不妊手術までしたとして、約27万円かかります」
その病院が出した見積もりは、衝撃的な値段でした。しかも。
「この子は、人に馴れてますか? 性別は? 年齢は? それからこの捕獲機は、どうやって開けるんでしょうか」
先生は、野良猫や保護猫に、明らかに不慣れな様子。そうかあ。動物病院で野良猫を診るのは日常茶飯事で、連れて行きさえすれば適性な治療をしてもらえると思っていたけれど、どうやらそうじゃないみたい。
思えば私も、今回のことがあるまで、捕獲機なんて見たことなかった。飼い猫の経験値と知識が、野良猫には通じないことも多いって痛感したけど、それは動物病院の先生でも同じなのかも。
幸いしっぽは、捕獲機の中で大人しくしてくれてます。
「いずれにしても今夜は急患があるので、この子を診るのは明日になります」
そうですか…うーん。悩んでいると、えつこさんが小声で言いました。
「しっぽみたいな野良猫を受け入れてくれる提携病院があるから、明日の朝いちばんに、そこに連れて行きましょう」
でもそれじゃ、しっぽは朝までお水が飲めないし、トイレもいけません…。
「だいじょうぶ、捕獲機は中でちゃんと身動きが取れるし、猫はこの状態で一晩置いておいても、全然心配ないから」
力強くうなずくえつこさん。結局先生は、捕獲機を開けることなく、
「見積もり代と夜間診療代で、13000円です」
お金を払って、私たちは病院をあとにしました。
野良猫に慣れた病院
我が家にも、えつこさんのサロンにもお住まいにも猫がいるので、結局しっぽは、誰もいない夫の仕事場で、一夜を過ごすことになりました。
次の日の朝早く、迎えに行って中を覗きこむと、ぐちゃぐちゃになった新聞紙と、誘い込むために入れた大量の食べ物のかけらの中で、しっぽは昨日とほぼ同じ状態でうずくまっていました。顔を近づけただけで、ツンと独特のにおいがします。
ごめんね。狭いし、臭いよね。それにきっと、怖かったよね。
私たちは急いで、教えられた病院までタクシーを走らせ、そこでえつこさんと落ちあいました。
院内は、座るところもないほど超満員。ここの先生は、数えきれない野良猫を受け入れ、治療や手術をしてきた人で、飼い主たちからの信頼がとても厚い人なんだとか。
病院のスタッフさんは、捕獲機を見てもまったく表情を変えず、
「野良ちゃんですね、はーい。一通りの検診と、ノミダニの駆除と、不妊治療も必要ならする、と。了解です」
驚くほどテキパキ話は進み、結局しっぽは、一日お預けすることに。
よかった。年齢も性別も経歴も病歴も、なんにも分からないしっぽだけど、ひとまず捕獲機から出してあげられることが、うれしい。願わくば、どうかシリアスな病気が見つかりませんように…!
そんな私に、えつこさんは言いました。
「さて、しっぽを預かっていただいてるあいだに、今度はますみさんのお家に、しっぽが療養できる環境を作らなくては」
ああ、そうでした。まだやることがたくさんありますよね。
「長期戦になりますが、がんばりましょう」
ん…? ちょうきせん…?
我が家の猫たちとのエピソードはこちらに。
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