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生まれて初めてガチの野良猫を保護した話⑧

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極限の恐怖

しっぽが我が家にやってきて、3日後。待っていた2段ケージがようやく到着しました。よかった、これで少しは動き回れる! ホッとしました。猫をケージに入れっぱなしにした経験が一度もなかったので、いくら療養中とは言え、運動量の少なさが気になっていたのです。

驚かせないよう別の部屋で組み立て、二段ケージを、そっとしっぽのケージのとなりに運び込みました。毛布や段ボールも入れ、準備は万端。

「移動させるときは、猫の意思を尊重して。まずはごはんやお水を新しいケージに移して、ケージ同士をぴったりくっつけて置いとくの。お腹がすいたら自分で入っていくから、そしたら扉を閉めるの。恐怖心を与えると関係が悪化しちゃうから気をつけて」

えつこさんのアドバイスに従い、ケージをつけようとした、そのとき。私はまちがって、しっぽが入っていた段ボールハウスを、がたんと揺らしてしまったのです。

「あっ!」

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しっぽにとって唯一の安心できる場所、ときどき上に乗ってくつろぐようになっていた大切な場所に、突然衝撃を与えてしまった!

しっぽは、文字通り飛び上がって、段ボールハウスから脱出、となりの二段ケージに飛び込んで、上まで登って下に下がって、またもとのケージに駆け込みました。ものすごい速さ。走りながら、あちこちにおしっこをまき散らしていきます。

「しっぽ、ごめんごめん、だいじょうぶだよ!」

慌てて声をかけても、パニックになっているしっぽには届きません。またケージを飛び出して、二段ケージにダッシュ。仕方がないので急いで扉を閉めました。

「やっちゃった…」

あとに残ったのは、おしっこが飛び散って汚れたケージや毛布、散乱するカリカリ、そして、我が家に来た初日くらいに警戒心むき出しの、おびえ切ったしっぽの姿でした。

後戻りしちゃった。そう思いました。やっと、段ボールハウスの中でなら、この写真みたいな、いくぶん穏やかな表情を見せてくれるようになっていたのに。

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あとから聞いたら、猫がパニックになっておもらしするのは、極限の恐怖を感じたときなんだとか。そんなに怖かったんだ…。

この子は、きっと馴れない

えつこさんは、反省する私を励ましてくれました。

「2段ケージをすべて整えてからとなりにセットしたのは、すごく賢明でしたよ。それに、家の中に逃げて行ってしまったわけじゃなく、ケージの中に逃げただけですから、結果オーライ。大惨事にならなくてよかった、だいじょうぶ!」

でも、正直私は、自分がやってしまったこととは言え、気持ちがぐったりきていました。

これだけのことで、こんなに怖がるんだ。この子はいつか本当に、飼い猫みたいに人間に馴れる日が来るのかな。

ネットを見ると、『野良猫を保護したけど、数年経っても野良猫のテンションのまま』という写真や動画がたくさん出てきます。しっぽはもうシニア猫だし、臆病で、警戒心もとても強い。子猫ならともかく、うーん…。

きっと今、しっぽの前で玄関の扉を開けたら、大喜びで外に逃げていく気がする。ああひどい目にあった! って。おもらしを片づけたり、ケージを買って組み立てたり、お世話はすごく大変だけど、しっぽからしたら、いい迷惑なのかも。

「しっぽは、必ず馴れますよ。他の猫たちより、むしろ早いくらい。お世話に疲れてしまうときは、お水とごはんをあげるだけで、あとはほっといていいからね」

えつこさんは、そう励ましてくれます。でも、しっぽの様子を見ると、信じたいけど信じ切れない。万が一このまま馴れなかった場合、しっぽは、私たちは、どうなっていくんだろう。

無償の愛情を注ぎたくても、どこかで成果を求めてしまい葛藤する私は、ここから2ヶ月かけて、しっぽに、いろいろなことを教えてもらうのでした。

⑨へつづく

我が家の猫たちとのエピソードはこちらに。

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