〜謎の皮膚病、あるいはお医者さんという人たち〜③ 重鎮が来た!
落ち着き払ったその重鎮は、またも電子顕微鏡のごときを試行したのち、私の目を覗き込んでこう言った。
「この症状が出る前に海外で性風俗を体験していますか?」
「ないです」
「聞きにくいことですが同性としてお聞きします」
「そうですか。でもありません」
どうやら新種の性病を疑われているらしい。私は性に対する探求心は旺盛だが、実際には弱い方で、殊にお金などが絡むと萎えてしまうのだが、それを800字程度で説明したらいいのだろうか?というか顕微鏡でも病原体が無いのに、質問の医学的趣旨の見当がつかない。
結局、最高強度のステロイド軟膏を出されて、今度は3週間後に再受診することになった。えー、3週間もこれでしのげって無理でしょう?と思ったのだが、なにしろ重鎮なので仕方ねーかと諦めた。
そうして3週間後にもっと悪化したか、平行線か、少なくとも改善には向かっていないという状態で救いを求めて行ったら重鎮はこう言った。
「おお、良くなってるじゃないか!いいよキミ、これはいい」
「あのお、先生、(これは文章上達法とかじゃないですからそんな褒め方は止めてください)自分としては変わらずに苦しいんですが」
すると重鎮は、
「この薬はね、最高の強度なんだよ?これを塗り続けていたら今は君の年齢ならまだ支障の出る寸前だが、やがて皮膚が割れて、大変なことになる。そもそもキミはどうやってこの薬を塗っているんだ?軟膏チューブの塗り口の金属片をそのまま皮膚に当てていたらその刺激で治るものも治らないんだよ!」
私はチューブの出口の金属をそのまま押し当てるなど、痛くて出来るはずもないからそのようなことはやっていないと言おうとしたが、この医者はつまり私が治らないことに腹を立てており、自分の無能さを私に転嫁するただのアホなのだった。
私はその重鎮を訴えるとか、世間に知らしめるとか、夢想こそしたものの、この痛みは治らないとの諦念と絶望の前にその医者のごとき人物の前から立ち去った。(続く)