オアシス対ブラー、その真実(2)
オアシスの何が新しかったのかというと、イジれるロックが初登場した事。以下はその端緒となっている。英国ロックは拝んだり学んだりするモノではなく、ただフツーにしていればいいとの音楽。世界は平坦になったとマンチェスター人が言った。
インタヴュー=増井修
通訳=BRYAN BURTON-LEWIS
初出=ロッキング・オン95年11月号
「オアシス対ブラー、オアシス対ブラーって、現実はもうとっくにオアシスだけになってんだ!」
負け惜しみとボンベイ・ロールと。
95・8・14事件。これが話題の聖典です。
2枚目『モーニング・グローリー』発表直後にラッド主義の典型として発したお言葉集がこれ。しかし、今考えるとオアシスというのも変なバンドだ。バンドとしてのアティテュードがあったのはここまでで、いやむしろこの作品から既にどの時代の音なのか判然としない。そしてそのことこそが00年代に入ってからもファン・ベースの代謝を保ちながら延命する要因になっている。姿変えれど心はロケンロー原理主義一本やりのプライマルや、「アンダー・ザ・ブリッジ」で確立したメロディをこれでもかと連発しまくるレッチリもまたしかり。こうした思考放棄する心の強さが、なにより商品としての安全、確実を保証し、その積み重ねが伝説を生んでいく。ただ、ここでのリアムが既に予感させるのは、ノエルの奏でるギターだけが、時として'最初から老いていた'かのような哀しみを投げかける事か。
ー 最初の話題となったらやっぱり例の"ロール・ウィズ・イット"対"カントリー・ハウス"の世紀の対決! これが8月14日に同時発売されて、何と……負けましたね。
「あのな、実際問題としちゃあ、あれは俺たちがナンバー・ワンだと考えていいと俺は思ってるぜ。俺たちはイギリスでこの1年でかなりデカくなったし、ブリット・アワードも4つももらって、どこもかしこも出ずっぱりだったし、実質節なナンバー・ワンだったはずだ。
ま、あれがどういうことだったかというとだな、俺たちはあのシングルのリリース日を前々から決めてあったんだ。ところが、連中はその日には自分たちがシングルをリリースするんだと言い出しやがって、こっちとしては上等じゃねぇかよと言ったまでの話で、嫌ならてめぇらが降りろよ、こっちがしっぽ巻いてたまるかってんだ、俺たちは俺たちでやりたいことをやるまでの話だ、連中が連中のを出すから、俺たちに出すなって言われたらよ、そんなのファック・ユー、てめぇがやめろっていうもんだろうが。俺たちは自分らのを出すから、そっちも出しゃあいいじゃねぇかよってことになって一大対決のようになったんだ。
ところがだぜ、あいつらは1ポンド安く売るっていうセコイことまでやらかしてよぉ、おまけに1枚買ったら、もう1枚はタダですよみたいなさ。俺たちはよ、俺たちがやったものをタダじゃ売らんよ。俺たちはしっかり作った曲を正当な値段で売る。そういうわけだ。はっきり言ってもうムカッ腹立つぜ、まったくよぉ。っていうのはよ、今なんかプレスの言うことってオウムのようにブラー対オアシスって繰り返すだけじゃないかよ。もういい加減にしろってんだ。現実にはもう、とっくにオアシスだけになってんだ」
ー ドワハハハハ。リアムだあ。だけどさ、"ロール・ウィズ・イット"と一緒に収録されている"ロッキン・チェア"、これはもうすばらしくいい曲なんですが、アルバムに入れないともったいないとは思いません?
「いや、だから、そこがよ、っていうか、例えばブラーとの一件にしても連中のB面曲をいてみろってんだよ。するとだな、新曲が1つだけあって、他はすべてゴミのようなライヴ・ギグ・ヴァージョンしか入ってないんだぜ。でも、"ロッキン・チェア"なんて、俺としては……"ロール・ウィズ・イット"よりいいシングル曲だと思ってるくらいでね。
いいかい、オアシスじゃな、"ロール・ウィズ・イット"っていうシングルを買ったとしても、それだけじゃ終わらねぇんだ。ちゃんとしたB面もあるわけで、"ロール・ウィズ・イット"がさほど気に入らなかったとしても"ロッキン・チェア"がある。
つまり、俺たちにはいわゆるB面っていうのはないんだよ。ひっくり返して、こっちの曲は捨て曲ってことはないんだよ。ひょっとしてA面が気に入らなかったとしても、ひっくり返しゃあA面とクオリティー的には変わらないほどの曲がまだ入ってるんだ」
ー なるほどォ。で、4曲目に入っている"リヴ・フォーエヴァー"のグラストンベリー・ライヴ、あれもすごいよね。1年前と較べるとリアムの声が「りぃい
いぶふぉおえぇぇぶぁああぁあぁああぁ~っ!」っていうすさまじいものになっているもんね。
「うん、実際、声が強くなってきているんだ。喉ってどんどん変わってくるものなんだぜ。端から聴いてる分にゃあ、ただ声が嗄れてきているだけかもしれないけど、実はどんどんよくなってきてるんだな。例えば、ビートルズのものだったら、すんげえシャウトをしたりするじゃん? これまではああいうことができなかったんだよ。例えば、"シー・ラヴズ・ユー"だったら、以前の俺には絶対にあんなふうに歌えなかったんだけど、喉がどんどん変わってきてるんだよ」
ー "モーニング・グローリー"でもそれは著しいんだけど、あのラウドなヴォーカルっていうのは、俺は威勢のいい兄ちゃんとして生き続けるんだっていう宣言のようなもん?
「うん、まさにそういうことなんだ。目覚めの一発が必要だっていうね。俺にとっても、みんなにもね。ロックンロールをやってるろくでもない人間やキッズにはね、こういう気合が入るものが一発必要なんだよ。しゃきっとせんと、気合も入らんだろうに」
ー このヴォーカルはジョン・レノンがプロテイン剤を飲んでビルド・アップしたようなスーパー・ヘビー級のものになっているわけで、これは男の子に惚れられる性質のものだと思うんだけど、どう?
「どうかな。っていうか、俺はジョン・レノンが大好きだから、あれが女だったら追っかけ回してやっちゃってただろうな、でも、ジョン・レノンてのはな、男なんだよ」
ー わかってるよ、そんなこと。じゃあ男に惚れられると嬉しい?
「どうかな。大体、そんなのが近づいてきたらはったおしてやるだけだ。俺は女が好きで、そっちの方はわりとまともだし、その気はないんだよ、まあ、変なところを握られようもんなら血を見る。かなり痛い目に遭うからな」
ー そうだろうなあ。ところで、リアムはストーン・ローゼズにも落雷のごときショックを受けて、それでバンドを始めたということなんですが、その辺の影響は音楽的にはどの辺に現れているんですか?何か全然出てないですよね。
「でも、ストーン・ローゼズに関しては俺はもう終わってるからな。っていうか、連中がすごいバンドだとはもちろん思うけど、そこまでもう考えないっていうか、俺にはもう自分のバンドがあるし、自分なりにやることがあるから」
ー じゃあ、ストーン・ローゼズから受けたその一番のショックの正体は何かといったら、どうです?
「そりゃあ音楽だよ。音楽とあの肌触りだな。これが音楽なんだと思ったよ。あの時観たギグ、あんなものはそれまで観たことがなかった。あのグルーヴ、あのオーディエンス、イアン・ブラウン、あのすべてがね。ラッドが音楽やってる、しかも聴いたことのないファンキィ・ミュージックをやってたんだ。60年代のファンキィ・グルーヴィ・ミュージックを聴かせると同時に、ハウスも聴かせてくれていたわけで、あれのおかげでやっと俺は1階の入口に辿り着いたんだよ。運中はもう飛んでいたわけで、俺はそのせいで連中を尊敬している。
だから、ブラー対オアシスなんて言われても俺としては糞食らえとしか思ってないと、そう言ってるんだよ。俺は連中なんか眼中にもねぇんだ。俺たちが相手にするとしたら、それはローゼズだよ。ただ、ローゼズの方は昔のようにもう張り合っていくつもりはないみたいだから、俺たちで存分にやらせてもらうよというね」
ー ところで話は変わりますが、この前エラスティカのジャスティーンにインタヴューしたらオアシスの話になって、そうしたら、「あの子たちにもうあなたはだまされてんのよ。あの子たちはワーキング・クラスでも何でもなくて、もろ中産階級の典型の地域出身なのにワーキング・クラスの振りをしているだけなのよ」って言われてー。
「何もわかっちゃいねぇんだよ」
ー ただね、その前にリアムと行った電話インタヴューじゃ、リアムがものすごい荒んだ地域で暮らしているっていう話をしていたもんだから、これはどっちが正しいのかと。
「じゃあ、教えてやるけど、俺は未だに母ちゃんと一緒に公営住宅に住んでんだよ。な?そう言えばもうわかるだろう?他に住んでいるのはアイリッシュのワーキング・クラスばっかりだよ。
母ちゃんは一時失業手当てだけで凌いでいたこともあったし、はっきり言って金なんて家にあった試しがなかった。で、今となったらそんな必要もないのに、母ちゃんはいつだって働くんだ。俺だってな、家に帰れば、金も入れるし、請求書も払ってやるけど、それでも母ちゃんは働くんだ。っていうのは働くのがありがたいからなんだよ。それだけじゃなくて、俺だって15歳の時から働いてんだぜ。それも、がたいの大きな連中と一緒にやる、まっとうな仕事だぜ。それで床を作るんでコンクリ打ったりするんだよ。俺は16歳の頃から60くらいのアイリッシュの親父たちと穴掘りとかやってたんだからよ。
けど、あのおかしなバカ女は、40万ポンド相当のお屋敷をアホのパパちゃんに買ってもらいやがってんだから、まったく、おめでたいよな。だから連中はクソなんだよ。あのバンドがポシャったってよ、あの女は金には困らねぇんだ。だから、あの女は何もわからねぇ!口ハで満腹になりやがって、俺は糞みてえなものを食らってそうなったってんだ。あの女、目の前に入ったものは何でも手に入るんだからよ、わかるわきゃないぜ」
ー でも、ジャスティーンが何でそんなことを言ったんだろう?
「知らねぇよ、ただのクソ馬鹿女だからたろ。クソ馬鹿なもんで曲の書き方も、ライヴのやり方も知らねぇとくる。どうせ、マンチェスターなんざ一度も見たこともねぇんだろうよ。どうせなら、目ん玉ひんむいてちゃんと郊外のクソだめみたいな町を見てこいってんだ。ロンドンのちゃらちゃらした中流向けのすてきなお家ばっかりじゃなくてよ。あのさ、あんたもよかったらいつだって俺んちに連れてってやるよ。今いるこの部屋くらいしかないんだせ」
ー いやぁね、俺はエラスティカの音楽はいいと思うんだけど、あのジャスティーンっていうのは、なんかムカつくんだよな。
「ああ、ありゃあ、ギターが大好きなただのお嬢ちゃんだよ」
ー だけど、その一方で、リアムはあるインタヴューでジャスティーンとねてみたいとか言ってたじゃん。実はやっぱり好きなんじゃないの?
「ああ。迷わず口にちんぽぶちこんでやるね。迷わずね」
ー 大馬鹿もんだな、おめーは。
「ボンベイ・ロールも迷わずぶちかましてやる」
ー 何だよ、ボンベイ・ロールって?
「パイオツでやるのよ。パイオツぐって掴んでその間にちんこ挟みこむ」
ー パイズリのことじゃねーかよお。
「おう!いつだって大歓迎だ」
ー ……あのさ、いつもそうやって言いたいことを言って臨戦体制にあるリアムが唯一、無防備な優しい気分になるのはどんな時?
「っていうか、俺は本当は誰にだって優しいよ。俺に俺のように接してくれるような人間には、俺はいつだってまともに接してるよ。でも、偉そうな奴には糞食らわしてやるだけってことだい。俺に小便ひっかけようっていうんなら、張り倒してやるまでの話だ。じゃなきゃ、俺の前から消えてもらうか。俺に優しい奴だったら俺もそいつには絶対に優しいよ。
でも、俺の前でまんこ野郎になるっていうんだったら、そいつをぐしゃぐしゃにやっちまうだけの話だ。売られた喧嘩は絶対に買うまでのこった」
ー だからァ、リアムが無防備な時っていうのはどういう時なんですか?彼女と一緒にいるような時?
「いや、誰とでもそういう風にはなるよ。そういう時は完全に無防備になるよ。ただな、彼女と一緒にいたりするとなぁ、何だかやわになってくような気がしてならんよ。だから、これまではあんまり彼女は作りたくなかったんだ。俺にはよくないだろうって思って」
ー 硬派だねえ。やわになるから彼女はいらないの?
「いや、そうじゃなくて、現に今もいるし、すごくいい子だけど、けど何かよぉ、何か女々しいじゃねえかよ。ちゃらちゃら映画観たり、ポップ・コーンをぽりぽり食ったりしてよぉ。とはいえ、俺には時折、そういうのも必要なんだろうけど。さもなきゃ、俺、爆発しちまうだけだから。だから、必要なんだろうけど。けどよ、やっぱり、手をつながれそうになったりすると、もうやめろやめろ、人前でそんなことすんじゃねぇっていう。道路くらいまともに歩けねぇのかい、ええ、俺、ラッドなんだからよぉ、人前でチューなんかすんじゃねぇっていうような」
ー (悶える)
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