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必殺!ジョン・ライドンの第一声

1983年 日本 東京 ニューオータニ

セックス・ピストルズを経てPILとして初来日したジョン・ライドン(ジョニー・ロットン)の単独ロング・インタヴュー2時間半全1万5千字。ポップの原点と矛盾を今に晒すとどうなるのか?


「日本人は蟻だ」と言われ、「そうかもな」と納得させられ、その後我々と英国はどうなっていったか。直球の予言と鋭利な批評。ジョン・ライドンとはどんな人物であるのか。現地メディアも解き明かせなかったオネスティーで語る、資料として使っていただきたい取材記録です。
 逮捕歴、アイルランド、セックス・ピストルズ、カソリックの生い立ち、黒人音楽への憧憬と批判、マルコムからの嫌がらせ、パンクとクラッシュ否定、自分の日常、確かな音楽観。詐欺師はだれだったか。

インタヴュー=スティーブ・ハリス+増井修
写真=斎藤陽一

今読み返すとジョンライドンは嫌な奴では全く無いことに驚く。自分の中では最初に「めんどくさいな!」と言われたことが強く記憶に残っていて、こうまでフラットに語っていたのは残酷な発見だった。また、音楽批評が優れていて、頭の回転の速さと相まってかなり興奮する。
ただしPILは、その名の通り、パブリック・イメージ・リミテッドなどと、もろにピストルズ後遺症からの脱却を主眼としていて、どうにも面白くない音だった。最近の英国制作の「パブリックイメージ・イズ・ロットン」なるドキュメントを見ても、往時の関係者が語る作法は陰謀論めいていて未だ違和感がある。
それでもやはり、ジョン・ライドンというのは、歴史に残るべくして残った潔い人物ではあった。

イギリスでも最初の頃は客が怖がって逃げていた



●今回のメンバーを決定するまでのいきさつを教えて下さい。
ーニューヨークで2週間くらいかけて集めたんだ。
●名前を教えて下さい。
ーまたかよ。後で名前を書いた紙をやるよ。面白くないな。
●メンバーとの出会いについては。
ー新聞で募集したら、どいつもこいつも来てしまうからロコミで集めた。
●どういう基準で選んだのですか。
ールックスよりも才能だよ。
●ミュージシャンとしての才能ですか。
ーそうさ。
●みんなどういうバンドに入っていたのかな。
ーさあ、彼らに聞いてごらんよ。かなり幅広いらしいよ。タニヤ・タッカーのバックとかさ。
●このメンバーでずっと続けていくつもりですか。
ーとりあえずね。このツアーを終ってアメリカに帰ってレコードを完成するつもりだ。そのうちコンサートも演るかもしれない。レコードの方が重要だからね。
●他のメンバーの服装がスーツにネクタイという格好だったんだけど、そのアイディアは誰が考えたんですか。
ー(いやらしく微笑む)最近、他人がやたらと格好を気にするんで、ジャズ・バンドみたいにスーツに蝶ネクタイにすれば奇想天外だと思ったからやったんだ。
初めてやった時、客が唖然としたよ。俺を期待していて、バリー・マニロウが出てきたみたいなショックだったろう。
●でも、自分ではそういう格好しなかったですね。
ーそういうのを着るわけないだろ。
●どうしてですか。
ー自分の体型になかなか合うのがなくてさ。(笑)最近、ちょっと太っちゃって。
●PILのレコードでのアレンジとステージでのアレンジが全然違ったんだけど、そういう風に変化させた意図というのはなんでしょう。
ーライヴで曲を演るというのは、レコードに入っている曲をいかに改善するかというのが目的だから、レコード通りに演ってもしょうがないんだ。
●じゃ、いつもステージはレコードよりもハデに演ってるってわけなのかな。
ーハデというよりも、ゆったりしている。いくらでもレコード通りに演奏できるけれども、それを期待して来るくらいなら、レコードを買う方がましだ。
●それはそうかもしれないけど、今回はもっとコマーシャルな感じがするんですよね、その辺の意図は?例えば、このあいだのパリのライヴはこんなにコマーシャルではなかったような気がするんですが。
ーよく意味が解らないな。今まで演ってきたものも総てコマーシャルだと思うけどな。
●ずっと、そういう意図があったってわけ?
ーその意図というのは、レコードを作って、なるべく多くの人に売るってことなんだ。それが、PILの商売なんだ。
カルトだとか芸術だけの芸術だとか、そんなものはナンセンスだ。伝えたいメッセージが伝わればいいんだよ。
●じゃ、今回だけ方針を変えたり、変革があったわけではないのですね。
ーもちろん、それはない。
●「ラヴ・ソング」という曲の中でもコマーシャル路線でいくんだということを歌っているんですけれども、どうなんでしょう。
ー確かにそうだけれども、その裏の意味もあるんだ。
●というと?
ー歌詩カードを自分で読みなさい。いや、それよりも自分でレコードを買え。
●じゃ、一連の解釈は誤りなんだ。
ーそうさ。もっと深い意味があるはずだよ。僕が書く歌詩というのは全部そうなんだ。だから時間をかけて書いているんだ。本だって表紙だけで判断することはできないだろ。
●日本公演を録って、ライヴ・アルバムを出すっていう話しがあるらしいけど。
ーそう。7月1日のコンサートを録って、スタジオに持って行って、ライヴ・アルバムを作るつもりだ。その日のコンサートはビデオも録るんだ。
●そのライヴ・アルバムというのは、今度のスタジオ・アルバムの前に出すんですか。それとも後に?
ーそれはまだ未定だ。スケジュールが決まっているらしいんだけど、なにせ僕はスケジュールの嫌いな人間なんでね。早朝こういう時間に起きなくちゃいけないとかね。
●日本公演をライヴ・アルバムにするというのは?
ーライヴ・アルバムを作りたかったけれども、ここ数ヶ月の間はライヴを演る予定はないから、日本公演を演るついでにレコードもって考えた。アメリカで一番最後に演ったロス・アンゼルス公演も録ったんだけど、やはり客の反応が違うんだ。後で比較するのが楽しみだね。
●日本人の客はあなたに対してどう対応してよいのか解らないといった感じでしたね。
ー確かにそうだ。でも、そのうちに慣れてくるんじゃないかな。
●どうしてだったのでしょう。
ーさあ、なぜだろうな。自分がひたすら怪しげに観察されてるという感じだった。
●そういうのは初めてなのかな。
ーいや、イギリスでもピストルズの初期の頃は、そういう感じだった。僕が客の中に飛び込むと、客が怖がって逃げていた。けど、大阪のコンサートは客が盛り上がりまくって、面白かった。東京の客は自分達がお上品だと格好つけてるからかもしれない。
●ピストルズのジョン・ライドン、PILのジョン・ライドンとどちらに対応していいかとまどってたんじゃないかな。
ーだから、両面を出したんだ。ピストルズの曲を演ったりしてね。だけど、東京でそれを演っても、客は解らなかったみたいだね。やはり、PILのファンだけが来ていたのかな。東京以外じゃピストルズの歌が結構うけたからな。
●ピストルズのジョン・ライドンをもっと出したらうけるっていう考えがあったわけ。
ーいや、別にそういうわけじゃない。ただなんとなく、その場の雰囲気とフィットするだろうと思って。それから自分の作品だから、僕がいつどこでそれを演ろうと勝手なんだ。ただし、アメリカじゃ演らない。
●どうして?
ーアメリカの客はピストルズの曲を要求するから演らないのさ。
●逆に日本では期待されなかったから、演ってやろうと思ったわけですか。(笑)
ーその通り。(笑)言われる通りに演るもんか!
●でも本当は日本人の客はピストルズのナンバーを期待していると思うんだけれども。
ーでも、それがこっちに伝わってこないからいいんだ。
●今、ピストルズのナンバーを演るのはイヤじゃないのですか。
ーイヤじゃない。ただ、演れって言われたら演らないだけの話しだ。昔からそういうひねくれ者だから、学校はクビになるし、投獄されるし……でも絶対に言われる通りにはしない。

17歳無職、やりたいこともなかった



●あなたにとってセックス・ピストルズとはなんだったのですか。
ー僕だ。僕だけだ。(笑)いや、そんなことはない。セックス・ピストルズはイギリス以外で多くの人にうけ始めた頃はもう存在してはいなかった。ひどく誤解されたハンドで、パンドそのものよりも、マネージャーのナンセンスの方が注目を浴びた。
●マネージャーのナンセンスっていうのは?
ーマネージャーには先見の明があっただけなんだ。奴は他にはなんにもやらなかった。セックス・ピストルズにはなんのこんたんもなかったし、詐欺もやっちゃいない。ただプレスが何を書こうと、こちらが一切否定しなかった。それがロックン・ロールの詐欺師だと呼ばれた原因なのさ。それでTVに出て、司会者が無礼な野郎だったから、ののしったわけで、最初からそうやってあばれるこんたんじゃなかった。
●「大いなるロックン・ロールの詐欺師」の由来というのはなんですか。
ーそれはピストルズが解散したずっと後、マルコムが言った寝言なのさ。
●じゃ、マルコムひとりでそれを考えだしたんだ。
ーそうさ、鋭い奴なんだよ。
●ピストルズというのはあなたにとってプロ・ミュージシャンとしての最初の経験だったのですか。
ーマルコム・マクラレンというプロの詐欺師との初めての経験だったのさ。
●それ以前はミュージシャンはやっていなかったのですか。
ーやっていなかった。
●でも、ピストルズの曲を作ったのはあなたなんでしょ。
ーそうだよ。
●だけど、あなたは音楽に関する知識というのはなかったわけでしょ。
ースリー・コードのナンバーの場合は知識もへったくれもないよ。誰でも出来ることさ。ただ僕の詩が異色だったから良かったんだ。
●別に子供の頃からミュージシャンになろうとしたわけじゃないんですか。
ー全然。ただ、ラッキーだった。クラッシュのマネーシャーのバーニー・ロースが僕をスカウトしたんだ。ピンク・フロイドが嫌いだ、と書いたTシャツを着てたからね。バーニーが、あいつならヴォーカルをやれそうだって……当時そういうTシャツを着ることはとんでもないことだったらしいから、印象に残ったんだろうね。でも実際にピンク・フロイドを嫌ってたから、僕にとっては当然だったな。
●その時の仕事は何をやってたんですか。
ー無職。
●年齢は?
ー17歳くらい。
●どういう仕事をしたかったわけ?
ーそれがなかった。だからラッキーだったし、今でも仕事がなかったことに感謝してるよ。あれからレコードを作るという商売をやってきて、僕にとってはこれ以上の楽しみはない。
●まだ、バーニー・ローズと友好的な関係にあるのかな?
ーそうだよ。
●その前は何をやってたの?
ー下水処理場でネズミを捕える仕事をやっていた。その前はクツ屋の店員だった。
●じゃ、学校を中退したのは?
ー中退したんじゃなくて、退学させられたんだ。14歳くらいの時だった。二度と戻らなかったよ。大学は1年間通ってた。退学する前に大学の入試をパスするのは無理だと言われたけど、受けてみたら受かったんだ。奴らがいかに間違っているかをやってみせたかったのさ。
●それは全部ロンドンで?
ーうん、そう。
●実家にいたわけだ。
ーそう。ただ15歳の時に実家から追い出された。
●じゃ、15歳の時から自立しているわけですね。
ーイギリスじゃ珍しい話しでもなんでもないよ。親が自分の格好を気に食わないと、そうかじゃ出ていっちゃおうと自然に巣立ちするものさ。実家にいたら自立できっこないよ。やっぱり最初はひとりでやっていかないと。
●兄弟も同じだったのかな。
ーいや、兄弟は出ていかなかった。だから今だに駄目なんだ。僕が出ていくって言うまで、親父は僕と口をきいた事がなかった。だけど、さすがにあの時は出て行くのを喜んだわけじゃなくて、僕が出て行くっていう意志を喜んでくれた。
●例えば13歳の時は24歳の自分をどうイメージしていたのかな?
ー全く想像がつかなかった。これから10年後も解らないしね。そういう風に自分の将来を決める人生なんて送ってない。それは間違いだ。
●どういう希望があるんですか。
ー自分のやりたいことをやって、それを楽しみたい。他人に害を加えないくらいにね。あとは文明を少しでも進めることくらいだ。(笑)

ニューヨーク以外では逮捕される!


●セックス・ピストルズを演ってる時、PILの音楽あるいはスタイルを演るというのは予感できましたか。
ーただ解っていたのはピストルズというのはあまりにも演ることが限られていたということだ。
●ピストルズの解散からPILの結成まではどのくらいかかったのですか?
ー3ヶ月。
●その間に、次は何をやるのかというのは決まっていましたか。
ーPILの曲の中でピストルズの頃、書いたのがたくさんある。ただピストルズの連中には理解できなかったのさ。彼らが求めていたのは従来の形式を重んじた曲だけだ。ところが、僕にとっての音楽というのは実験しながら楽しむものなのだ。
●自分ひとりでPILのメンバーを集めたのですか?
ーそう。
●自分が作曲したものを演奏できるかを基準にして?
ーできると確言してたよ。あの時はまだベーシストがそれほどベースを弾けなかった。ギタリストだって僕がピストルズを解散させた理由と同じ理由でクラッシュを脱退した奴だった。様々な背景から出てきた者同志だったけれども、何か共通した意識があったから、僕らは上手くいった。PILというのは今でも、それぞれのメンバーよりもバンド全体が重要で、とんな障害でも乗り越えて不可能と言われることを可能にすることがバンドの信条なんだ。
●今まで脱退したメンバーは自ら脱けようという考えがあっての事で、別にクビになったわけじゃないのですね。
ーそうだよ。どんな組織でも人が入って来たり、出て行ったりするものだ。しかしだからと言って、組織がなくなるってことはない。
●それじゃ、他のメンバーはPILという名前をなぜ受け継がないのですか。
ー僕のものだからさ。
●ピストルズを演ってる時はつねに欲求不満がつきまとっていたんだ。
ーそう。僕は少しでもレベル・アップをしたかったんだけど、他の連中は理解しようともしてくれなかった。リハーサルもしてくれないし、ツアーの時だって僕よりいいホテルにとまりやがって……嫌になったよ。
●もし、マルコム・マクラレンと出会わなかったらあなたの音楽的才能は開花しなかったと思いますか?
ーいや、バーニー・ローズだよ。
●よかったらマルコム・マクラレンについてコメントをしてください。
ーひじょうに頭がいい奴なんだけれども、ただそのワガママな性格とどん欲で何もかもブチ壊しにしてしまうところは残念に思う。それから他の者が挙げた業績を自分の物にしてしまう。それが罪悪だ。僕はマルコムと5年間法廷で闘ってきたけど、マルコムはどうしようもない奴だ。最初は奴が「ジョニー・ロットン」という芸名が自分の所有物だと主張した。
その次はピストルズの曲は全部自分で書いたと主張したんだ。僕は今まで勝ってきたし、これから何かあればまた勝つと思うけれども、イギリスの司法制度というのは少しおかしいところがあって、当然のことでも裁判で実証しなければならない。版権には自分の名前はないくせに、今だに「アナーキー・イン・ザ・UK」は自分の曲だとぬかしているよ。

●じゃ、今度はジョー・ストラマーを寸評してください。
ーいい奴なんだけど、自分の人生をあまりにも本気にしすぎている。それに僕はクラッシュの音楽はあまり好きじゃないから、僕が彼を嫌ってると間違って奴は思っている。別に彼自身を嫌ってるわけじゃないと僕は説明しようとしたんだけど、彼のエゴは僕のクラッシュの音楽に対する嫌悪感を許せないんじゃないのかな。まあ、あいつは勝手にやりゃいいんだよ。昔から、そう、あいつがカントリー&ウエスタンを演ってた頃から知ってたけど、101ERSというバンドであいつはカウ・ボーイみたいな格好をしててね。ひどいもんだったよ。クラッシュほどひどくはないけどさ。
●ポール・ウェラーについては?
ーあまり良く知らない。ただ知ってるのは、ひじょうにもの静かな男だということだけだ。
●その他の同期生については?
ーうん、まあそうだね、キャプテン・センシブルなんてのは、あいかわらず頭がおかしいんだ。奴は完璧に頭が狂ってて、ほんとの気狂いなんだよ。

 黒人音楽の最大の欠点は歌詞が軽薄


●今はニュー・ヨークにあなたは住んでいるんでしょ。
ーそう、そこに居なくちゃ。
●なんか最近、イギリスのミュージシャンがニュー・ヨークに移るというパターンが顕著になってきましたね。
ーうん、でも僕が引越した当時はあまりいなかった。だいたいアメリカに行くとなるとロス・アンゼルスに真先に行ったからな。
●じゃ、何故ニュー・ヨークに?
ーイギリスじゃ警察にいじめられっぱなしだったから。だいたい3週間に1回は投獄されていたからな。
●何故そんなに?
ーいろんな容疑で……例えば麻薬を常習した容疑だとか、銃砲を不当に所持したとか、家出少年をかくまったとか、IRAのため爆弾を仕掛けたとか。一番ひどい時は午前4時に爆弾を探しに警察が家に来て、床とか壁のレンガをバラバラにしやがった。それから1週間後近所に住んでる奴が、首をつって自殺して、それで警察が僕を容疑者として逮捕したんだ。たまんなかったぜ。一番最後はメースを持っていたから捕ってしまって、結局、執行猶予の判決を受けたんだ。
●疑われたのには根拠があったのですか。
ー根拠は全くない。
●じゃ、どうしてそんなに疑われたのですか。
ーたまたま近くに麻薬取締官の訓練所があったんだ。近所に元ツェッペリンのローディーが住んでいて、奴らの家もひんぱんに手入れされていたんだけれども特に僕に対して悪意を抱いていたみたいだ。
●他の国へ引越せば良かったのではないですか。
ーアイルランドに移ってみた。ところが国境を渡って45分以内に暴行の疑いで捕って、また投獄されてしまった。それから、ヨーロッパは、やはり自分に合わないと思って、ニュー・ヨークに移ったんだ。
●ニュー・ヨークに来てからそういうイヤがらせはなくなったのですか。
ーなくなった。
●ジョー・ジャクソンやアンディ・サマーズ等がニュー・ヨークに移って来ているみたいだけど、何がそんなに魅力的なのですか。
ーイギリスでは商売を経営することがどんなに難しいことか知らないだろう。ほとんど不可能に近いんだ。例えば、電話が故障すると、直るまで1ヶ月はかかる。電話の新規契約にしても3ヶ月かかるんだ。ニュー・ヨークは朝、申し込むとその日の夜には電話が入る。迅速なサービスがなによりだ。
●でも、ニュー・ヨーカーというのはひじょうに無礼なんだけど、その辺は大丈夫なのかな?
ーそんなことはない。確かに性格はきつくて、僕みたいなコックニーに似ているんだけど、住みごこちはいい。
●アメリカのミュージシャンであなたと同じ資質を持っている人はいますか。
ー同じ資質というか、好むのはラップた。昔から黒人音楽は好きなんだが、黒人音楽の最大の欠点である軽薄な詩、たわいのないラヴ・ソングというのは、いただけなかった。しかし、ラップの詩は充実していて、ちゃんとしたメッセージがある。
●どういうメッセージですか?
ー現実の苦しさ、都会に住む苦しさ……
●都会に住むのが苦しいのなら、何故、都会に残るのですか。
ー文句を言うということは、良くなることを確信しているからだ。無視していたら何も良くなりはしない。そういう心情で今まで生きてきた。

日本人が世界を制するんじゃないかと思っている


●政治的なメッセージを歌の中に折り込むということは、有効だと思いますか。
ー有効ではない。「サンディニスタ」とか自分達の全く知らない第三世界についてどうこう言うのは駄目なんだ。政治に挑戦するのなら、せいぜい自分達が精通していることだけに絞ってもらいたい。
クラッシュがアイルランドのベルファストに行った時、悲惨な誤ちをしてしまった。カトリックとプロテスタントが対立している中で、「プロテスタントを追い出せ!」といい加減なことを言ったんだ。
なんなんだ、これは。僕だってカトリックだけど、両方の言い分を認めるべきだし、それにプロテスタントは400年前からアイルランドに来ているわけだから、彼らだって立派なアイルランド人ではないか。
あんなところで、何もよそ者が来て、事情も知らないくせにいい加減な解決策を持ち出すことはナンセンスだ。

●では、そういう誤ちを除いて考えた場合は?
ーいや、あまりにもそういう誤ちが多いから。彼らが政治に触れるたびに、結局、彼らは批判の美学ばかりにとらわれて、内容には関心を向けていない。それが気に食わないのだ。
●現実変革を有効に訴えているバンドはないでしょうか。
ーボブ・マーレィがレゲエを国際的なものにしたということで、有効だったと思う。それから、グランドマスター・フラッシュが「ザ・メッセージ」という曲で黒人のストリート・ファンクをひじょうに幅の広い層に紹介した。
●もうちょっと社会的に見た場合はどうなのかな?
ークラッシュは、イギリス人にとって黒人にとってのレゲエみたいになるのが目的なんだ。ところが、でたらめにレゲエそのものとか、パンクとか、ロカビリーとか、ジャズをまねてもしょうがない。
自分達特有の文化的基盤がないんだ。あちこちからパクるばかりで、自ら何も与えることができないような泥棒猫なんだよ。

●随分ときびしいですね。
ー僕は本気だ。
●ボブ・マーレィとかグランドマスター・フラッシュとは具体的にどう違うのですか。
ー彼らは歌っていることに心がある。ナンセンスはない。
考えてみろよ、例えばボブ・マーレィがキッスみたいな音楽や格好をするとゾッとするだろう?僕にとってはクラッシュがそう見えるんだ。

●黒人の音楽しか取り上げてないんだけど、黒人音楽にしかハートがないのかな?
ー白人文化に誇りを持っている白人はあまりにも少ない。僕は黒人音楽を尊敬している白人なんだけど、でも作りたいのは白人音楽なんだ。黒人に尊敬されるにはそういう方法しかないだろう。
●そう言えば、最近、カルチャー・クラブがブラック・チャートに入っていますよね?そういうのをどう思いますか。
ーパクリ屋だぜ、あれは。ボーイ・ジョージなんてしょうがない奴だし。全くアホらしい。奴はラスタファリアンの女になって、子供でも産みたいんじゃないのか。(笑)
でも、さっきの話しに戻るけど、グランドマスター・フラッシュの「ザ・メッセージ」とか、「ホイルズ・オブ・スチール」みたいなスクラッチ・ヴァージョンには強烈さがある。それをマルコムが演ると軟弱なものになってしまうんだ。

●どうして?
ー「ヴァッファロー・ギャルズ」の詩を聴いてみろよ!「ヴァッファロー・ギャル、回ってよ、回ってよ」なんて関係ないじゃないか。おまけに、その詩は自分で書いたんじゃなくて、それは昔のスクウェア・ダンスのナンバーなんだ。
●話しは飛ぶけど、プロモーション・ビデオを作る計画はないのですか?
ー今回のコンサートを録ってみて、うまくいけば売り込むつもりだ。
●アメリカでヒットしそうな曲はないのかな?
ー全曲そうなるべきだと思う。
●でも現実的に考えてヒットになる曲はないのかな?
ー予想できないな。
●ヒットするように願ってはいるんですか?
ーそうだね。ヒットすればそれだけ多くの人が僕のメッセージに耳を傾けようとしている証拠にはなるからね。
●映画もやったそうで。
ー映画のプロセスを見たいと思って、イタリアで映画に出演した。ハービー・カエテルが主演したんだけど、うまい役者だ。驚いてしまったよ。
●出演が決ったいきさつを教えてください。
ー制作側が僕にサウンド・トラックを依頼したんだけど、僕は大量殺人鬼の役にほれこんで、オーディションまで受けたんだ。制作側はヨーロッパ系のミュージシャンを募集していたらしい。結局、僕はデヴィッド・ボウイ、スティング、スティーヴ・ストレンジに勝って、その役をやらせてもらった。向こうはロック・スターを探したわけだけれども、僕はそのロック・スターの気取ったイメージから離れるように演じた。うまくやったつもりでいるし、映画も観たけど立派なものだった。デヴィッド・ボウイみたいなうぬぼれやポーズを捨てて、演技力だけで勝負しようとした。
●あなたが監督で映画を録るとします。使う役者は俳優ジョン・ライドンです。それであなたはどういう脚本を書きますか。
ー解らない。役者はその役に対応するのが演技なのだ。その辺のことにしか興味はないね。脚本を書くことに興味はあまりないし、それに、はるかにうまいプロの脚本家もいるからね。もともと役者をやったのはね、たまたま音楽がつまらなくなったからなんだ。だけど少し映画の仕事をやったら、なんだかスタジオに戻りたくなった。やっぱり自分にはそういった道しかないと思った。
●ではいつまでもミュージシャンをやる意志があるってことなのかな?
ーうん、こういう仕事は楽しいし、ずっとやっていたいな。自分がもう少し、勤勉だったらよかったんだけどね。
●今までミュージシャンをやめようと思ったことはありますか?
ーある。だけど、2週間ぐらいたつとまた気が変わる。アイディアを出しつくして、限界を感じた時にやめようと思うんだ。まあ、ある程度、難しさはあるけれども、これほど楽な仕事はない。
●それでやめないわけだ?
ーその通りさ。肉体労働でもないし、9時から5時までの仕事じゃないし、自分の求めている自由を充分楽しむことができるんだ。
スタジオに入って、プレッシャーがかかってきて、やめようと思ったこともあるけどね。

●音楽業界の構造に嫌気がさしてやめようと思ったことはないのですか?
ーレコード会社が自分達の言う通りになるようにプレッシャーをかけて、常に坂を上っているみたいで大変なんだ。でも、またその戦いが好きなんだ。客の場合にも熱烈に燃え上がる客よりもシラケている客の方が僕は楽しめる。
●大変な読者家だと聞いたんですが、今何を読んでますか?
ーライシャワーの「ザ・ジャパニーズ」を読んでいる。一応、日本人について書かれているけれども、少し入門的すぎる気がする。
●今までで気に入った映画を教えてください。
ーピーター・オトゥールとキャサリン・ヘプバーンが主演した「冬のライオン」、あとは「ブレード・ランナー」も気に入った。未来のロス・アンゼルスの描写が見事だった。「E.T」は駄目だ。あとは「ジョーズ」、それからイギリスの喜劇で「バアルゼブブ」。
●あなたの子供の頃のヒーローは、どういうバンドでしたか?
ーアリス・クーパーのステージが面白おかしくて良かったね。
●その他にヒーローはいなかったですか?
ー全然。僕は音楽をそういう風にあつかってはいない。レコードを買うのはそのレコードが好きだからだ。それだけだ。
レコードしかなく、イメージとかそういうものは僕にとっては存在しないんだ。これは常識だ。黒人音楽だって、誰が何を弾いて、何を歌っているのか解らないだろう?

●昔、ボーイ・ジョージが部屋に閉じこもって、テニス・ラケットを持って、マーク・ボランのまねをしていたというけれども、そういう時期はありませんでしたか。
ーそれは馬鹿馬鹿しいよ。マーク・ボランは昔好きだったけど……初期のボウイも良かった。今のボウイはどうだか知らないけど……
●以前の発言で、日本人を蟻だと言ったことがあるんですけど、今回の滞在において、その認識は深まりましたか?それとも改善されましたが?
ー深まった。というか、勤勉な日本人の生の姿を見て、こいつらが世界を制覇するんじゃないのかっていう印象を受けている。みんなが自分よりも国全体のために働いているみたいで、実に素晴らしいのだけど……それから無理なく外からの影響を取り入れることはまたひとつの強みと言えるだろう。下火のイギリスは昔から外からのものを嫌悪してきた。だから、イギリスは大いに日本を見習って欲しいんだ。
●東京の第一印象は?
ーとにかく広い。この街の中心は一体どこなんだ?
●それがまたバラバラなんですよ。
ーとにかく広いという印象しか今のところはない。
●日本のテレビは観ましたか?
ー観た。よく解んないけどCMがアメリカのCMよりひどくて、僕にとってひじょうに異様な感じがする。音楽番組がまた異様なもので、司会者のとなりにかならず若い女のコがいて、ハイハイ(日本語で)とうなずく役をやっている。それから、普通の昼メロが時代劇になってて、登場人物が和服を着ているのを見て、面白かった。
●「敵」という言葉から連想するものは?
ーイギリスの音楽専門誌でNMEというのがあるけど……(笑)いや、それはジョークだけど、「アナーキー・イン・ザ・UK」の中で、ENEMYに聞こえる単語があるんだけど、実はそれはNMEを歌っているんだ。余談なんだけどね。
●でも、NMEには凄くいい記事が載ってるよ。
ーそれは時々載るさ。だけどイギリスのジャーナリズム全体の問題としては、無知な奴が多すぎるってことさ。例えば良くコンサートを批判する場合は音楽そのものを全く無視して、ミュージシャンの服だとか客の質を見て批評している。
●NMEが一番ひどいの?
ーいや、一番いいんじゃないの。その詩に使ったのは、たまたま彼らが僕らにインタビューしたからだ。
●そういうイギリスの記者の悪意によって、あなたは被害をこうむったということはありますか。
ー奴らは僕にはかなわないよ。一度、やさしいって言われたことがあったけど、それがかなりきつかったね。(笑)
●あなたにとって怖いものとはなんですか?
ー核戦争だ。あのジジイ共は俺達をぶっ飛ばしてしまうぜ!僕は長生きしたい。長生きしたいから怖いんだ。これだけ、人生を楽しんでいるからね。








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