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フィクションではない現実の記録─過去ではなく、未来のために観る映画『フロントライン』2026年6月公開予定
2025年6月に公開が決定した映画『フロントライン』。このニュースを目にしたとき、私は2020年初頭の記憶が一気に蘇りました。
映画『フロントライン』は世界的パンデミックを引き起こした新型コロナウイルスを題材に描くヒューマンドラマ。 集団感染が発生した豪華客船ダイヤモンド・プリンセスが横浜港に入港した時点から、乗客全員の下船が完了するまでの日々を事実に基づいて映し出す。
「家から1歩も出るな」「学校は休校」「ソーシャルディスタンス」——。
かつて、当たり前の日常が崩れ去り、世界中の人々が孤立を余儀なくされた時期がありました。感染拡大防止のため、人との接触を避けることが最善とされた日々。握手、食事、スポーツさえも制限される世界。あの時、私たちは未知のウイルスに対し、何が正解かも分からないまま恐怖と鬱々とした閉塞感に襲われて、見えない敵と闘っていたんだと思います。
映画『感染列島』(2009年)は、パンデミックを描いたフィクションでした。
妻夫木聡、檀れいら、豪華キャストで贈るパニック・ムービー。新型ウイルスの猛威で未曾有の危機にさらされる日本列島の様相を、ある救命救急医の姿を通して活写する。
当時、この映画を観たときは「もしも」の世界の話だと多くの人が思っていたでしょう。しかし、わずか10年後、フィクションが現実となりました。スクリーンの中の出来事が、私たち自身の生活を襲うことになるとは誰が想像したでしょうか。しかも、日本列島だけでなく世界中に広がったパンデミックでした。
それぞれの地と環境で、その時を迎えていたかと思います…
あの時、私は中国にいた
2020年1月、私と家族は中国・北京で暮らしていました。当時、まだ名前も定まらない「謎のウイルス」がじわじわと広がり始め、世間に不安が渦巻いていました。夫は武漢の邦人救助の企画本部の一員となりました。つまり、中国に残る必要があったのです。
https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000366.html
私は幼い子ども二人を連れて、日本への緊急避難を決断しました。
夜明け前の暗がりの中、急ぎ空港へ向かい、日本行きの飛行機に乗る。飛んでも着陸しても、常に不安が消えませんでした。残してきた夫を思い、離れる瞬間の彼の姿を見ながら、涙をこらえるのが精一杯だったことを今でも鮮明に覚えています。そして、飛行機での行き来も制限され、北京もロックダウン。あれから1年4か月、夫とはいつ終わるとも知れない離れ離れの日々を過ごしました。
国際社会の中で暮らすことのリスクと孤独、そして家族が引き裂かれる恐怖を経験しました。
戦ったのは医療従事者だけではない
私たちが体験したパンデミックは、一部の人々だけの戦いではありませんでした。感染症の専門家、物流業者、スーパーの店員、清掃員——すべての人がそれぞれの最前線で戦っていました。
特に、ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染(参考:国立感染症研究所)は、日本国内のパンデミック初期の混乱を象徴する出来事でした。感染が確認された後、乗客は隔離され、船内では限られた情報と物資の中で不安な日々を過ごしていました。
今年2025年には、その出来事から5年が経ち、横浜港では追悼の式典が行われました(参考:NHKニュース)。
なぜ今、映画『フロントライン』を観るべきなのか
この映画は、まさに私たちが生きた「パンデミックの最前線」を描く作品です。小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、窪塚洋介という豪華キャストが出演し、未知のウイルスに立ち向かった人々の奮闘を描いています(参考:ワーナー・ブラザース公式)。
フィクションであった『感染列島』と異なり、『フロントライン』はノンフィクションに基づいた作品です。私たちが実際に体験した現実の記録。これは単なる映画ではなく、私たち自身の記憶を再確認し、次のパンデミックに備えるための「学び」でもあると思うのです。
5年もすると、そんなこともあったよねくらいの感覚になってくる。しかし、新しいウイルスの出現は決して「もしも」の話ではなく、「またいつどこで」起こるか分からない現実の問題です。人口増加がまだ続く地球では起こりうる。パンデミックは終わったのではなく、私たちが対応を学び、備えることができる時間を得ただけなのかもしれません。
だからこそ、この映画を観る意味があるのではないでしょうか。
私自身も、あの経験を振り返るために『フロントライン』を観ようと思います。まだ映画を観てもいないのでレビューではありません。
映画の公開を知って渦巻いた思いを綴ったまでです。
私だけが大変だったなんて思っていません。少なからず多くの人がそれぞれに経験したことだからこそ思うのです。
2021年にリリースされたこちらも合わせてみると、日本人目線だけではないリアルが見えてくるかもしれません。
クルーズ船集団感染から1年。当時の知られざる船内の様子を記録したHBOドキュメンタリー映画『ラスト・クルーズ』が日本初上陸。U-NEXTにて緊急配信決定
https://www.unext.co.jp/press-room/the-last-cruise-announce-2021-04-27
そして、改めて心の底から亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。他人事ではない。胸が締め付けられます。