クララは泣きながら言った「この曲を天国に持って帰りたい!」ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番『雨の歌』
ゴールデンウィークの初日はいかがお過ごしでしょうか。
仕事の疲れを取るためにゆっくりのんびりという方も多いかもしれません。
さて、今回紹介する曲は
『ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」』
です。
数あるヴァイオリン・ソナタの中でも、最も美しく切ない曲だと僕は思います。
この曲の第1楽章を聴くと、いつも胸が張り裂けそうになります。
これほど、愛する人を思いやる気持ちと、叶わぬ恋の切なさが、圧倒的美しさとなって迫ってくるヴァイオリン・ソナタはほかにあるでしょうか。
この曲は1979年の秋頃、ブラームスが46歳のときに、オーストリアのヴェルター湖畔で作曲されました。
この年、クララ・シューマンには悲しい出来事が起きます。
それは、末っ子のフェリックスが病気で亡くなります。
名付け親は、ブラームスということでしたから、彼も大きく落胆したといいます。
フェリックスは、亡き父のロベルト・シューマンによく似ていて、クララもとても可愛がっていたそうで、深い悲しみにくれるクララを慰めるために、ブラームスはこの曲を作りました。
第2楽章は、フェリックスの病状を心配して、ブラームスがクララに送った手紙のうらに、書かれていた思い出のメロディが使われています。
第3楽章は、以前、クララがブラームスに紹介した詩人、クラウス・グロートの詩に、彼が曲をつけて、クララの誕生日にプレゼントした曲の旋律が使われています。
その曲が「雨の歌」というタイトルから、この曲も雨の歌と呼ばれるようになったようです。
この曲は不安げな旋律から始まります。雨雲に覆われた空から、しとしとと降り注ぐ雨の音をピアノが表現しています。
しばらくすると、フェリックスを思わせる第2楽章のメロディがはいります。その高まりは急に消え、再び悲しげな雨の音にもどりますが、最後は、雲の隙間から光が射し、雨に濡れた世界を輝かせて終わります。
この曲をはじめて聴いたクララは、走って家を飛び出して、庭先で泣き崩れながら
「この曲を天国に持って帰りたい」
といったそうです。
その後、ブラームスとクララは結ばれることなく、プラトニックの関係を続けます。
1896年、クララが亡くなってから彼女を偲ぶ会で、ブラームスはピアノでこの曲を弾いたそうですが、途中でうずくまってしまい演奏ができなくなってしまい、そのまま会場をあとにしたといいます。
翌年、クララの後を追うようにブラームスも亡くなります。
演奏は、不動の名演といわれているのが、シェリング(vn)ルービシュタイン(p)の1960がおすすめです。情感あふれる美しいシェリングのヴァイオリンと胸が張り裂けそうになるルービシュタインのピアノ、二人の巨匠の王道の名演です。
はじめて聴き込むのにいいと思います。
次に紹介したいのは、僕が一番よく聴く演奏ですが、クレーメル(vn)アファナシエフ(p)1987です。鬼才同士の奇跡の演奏だと思います。ただ、通常の演奏とはちょっと違います。まず、テンポがかなりゆっくりしています。クレーメルのヴァイオリンもビブラートと抑えて、弱音を大切にするのかかすれています。それがとても、ブラームスの気持ちを現しています。アファナシエフは、個人的に大好きなピアニストの一人ですが、一音一音に心を込めて紡ぎ出していきます。不器用な男が作り出す演奏は、一番ブラームスの心情に近いのではないかと思います。
もう一枚、女性のヴァイオリニストから、ムター(vn)オーキス(p)2009もの気品がありながらも激しい演奏もあげときます。
ぜひ、聴き比べてみてください。
シェリング(vn)ルービシュタイン(p)の1960
クレーメル(vn)アファナシエフ(p)1987
ムター(vn)オーキス(p)2009
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