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なんとも変なファンファーレ!「1Q84」で有名になったヤナーチェク、シンフォニエッタ!
タクシーのラジオは、FM放送のクラシック音楽番組を流していた。曲はヤナーチェックの「シンフォニエッタ」。渋滞に巻き込まれたタクシーの中で聴くのにうってつけの音楽とは言えないはずだ。運転手もとくに熱心にその音楽に耳を澄ませているようには見えなかった。中年の運転手は、まるで舳先に立って不吉な潮目を読む老練な漁師のように、前方に途切れなく並んだ車の列を、ただ口を閉ざして見つめていた。青豆は後部席のシートに深くもたれ、軽く目をつむって音楽を聴いていた。
ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」の冒頭部分を耳にして、これはヤナーチェックの「シンフォニエッタ」だと言い当てられる人が、世間にいったいどれくらいいるだろう。おそらく「とても少ない」と「ほとんどいない」の中間くらいではあるまいか。しかし青豆にはなぜかそれができた。
村上著 1Q84 Book1〈4月ー6月〉第1章 青豆 見かけにだまされないように より
2009年に超話題になった村上春樹さんの「1Q84」の冒頭です。
小説のはじまりはとても重要な部分です。
本を購入をするか否かを決めるときも最初の数ページ立ち読みします。
世界中で販売されている「1Q84」の物語のなかで、抜粋したはじまりの場面は、かなり多くの方が読まれたことでしょう。
この物語は主人公の青豆が、タクシーに乗っている場面からはじまりますが、はじめの一行が車内でながれている音楽の紹介です。
その曲がなんと、ヤナーチェクが作曲した「シンフォニエッタ」なんです。
世界的作家が書いた物語のはじまりの一行目に、ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」が紹介されているのです。
クラシック音楽ファンでも名前は聞いたことはあるけど、そんなにはまらなかったなという感じのマイナーな音楽家であるヤナーチェクです。
ただ、シンフォニエッタという曲は、この物語の重要な鍵になっています。
キーワードは、学生運動、連合赤軍事件などの左翼運動とチェコスロバキアのプラハの春と、愛と自由と勇気と歓喜を込めて作曲されたシンフォニエッタでしょうか。
なかなか深いものがあるなと思います。
それにしても、この小説のおかげで、ヤナーチェクのシンフォニエッタは再び、世界から注目されました。
今回、僕は、札幌で毎年夏に開催されている太平洋教育音楽フェスティバル、PMFのオープニングセレモニーで、シンフォニエッタが選曲されていたので、予習として久しぶりに聴いてみたのです。
すると不思議なもので、ヤナーチェクのシンフォニエッタの曲を意識した途端、小説「1Q84」のはじまりの場面を思い出しました。
そのくらい影響力があるんですね。
レオシュ・ヤナーチェクは、チェコの作曲家なんですが、生まれたときは、オーストラリア帝国で、亡くなったときはチェコスロバキアでした。
チェコという国は、長い歴史のなかで支配されたり独立したりくっついたりと、この辺がとても複雑です。同時代には、先輩に我が祖国で有名なスメタナ、友人にドヴォルザーク、画家のミュシャも同時代です。
ミュシャがフランスからプラハに帰ってきて、スメタナの我が祖国の演奏を聴いて、晩年の超大作「スラヴ叙事詩」を描いた気持ちはひしひしと伝わってくるんです。話がそれてしまう。
ということで、「シンフォニエッタ」がどんな曲か気になりますよね。
シンフォニエッタというのは、少交響曲という意味があるようです。
5楽章で、だいたい20分ちょっとくらいの演奏時間の曲です。
1Q84が発刊された当時もこの曲はかなり注目されました。
村上春樹ファンの多くの人が聴いたことでしょう。
そして、多くの人が「ああ、へぇ〜、こういうのね」という感想を持ったことでしょう。
ヤナーチェク自身、この曲に対してこのように言ってます。
「勝利を目指して戦う現代の自由人の、精神的な美や歓喜、勇気や決意といったもの」を表現する目論見から本作を作曲し、「チェコスロバキア陸軍」に献呈する意向を持っていた。
曲の構成は次のとおりです。
第1楽章「ファンファーレ」:アレグレット Allegretto、変ニ長調、4分の2拍子
第2楽章「城塞(シュピルベルク城)」:アンダンテ Andante、変イ短調、8分の4拍子
第3楽章「修道院(ブルノの王妃の修道院)」:モデラート Moderato、変ホ短調、2分の2拍子
第4楽章「街路(古城に至る道)」:アレグレット Allegretto、変ニ長調、4分の2拍子
第5楽章「市庁(ブルノ旧市庁舎)」:アンダンテ・コン・モート~アレグレット Andante con moto — Allegretto、変ニ長調、4分の2拍子
ヤナーチェクが住んでいたチェコのブルノの街をテーマにしています。
ブルノの街は、とても美しい街です。
シュピルベルク城です↓
チェコのブルノの街を中心に、自由と美、歓喜、勇気をあらわした曲です。
第1楽章はファンファーレから始まりますから、さぞかしスカッとした祖国愛にあふれる曲かと思うのですが、聴いてみると、なんだか、変なファンファーレなんです。
でも、シンフォニエッタを何度か繰り返し聴いて、ブルノの街に実際に行って、シュピルベルク城や修道院、古城にい至る道を歩いてみると、なるほど、この曲のとおりだと思うことでしょう。
チェコという国は、プラハもそうですが町並みが可愛く美しくです。
でも、なんともすっきりしないところもあるのです。
それでは、1Q84BOOK1第9章で青豆が自由が丘のレコード店で購入したレコード、シンフォニエッタの名盤と言われている、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏を聴いてみましょう。
いかがだったでしょうか。
クラシック音楽でもかなりマニアックな、ヤナーチェク作曲、シンフォニエッタを聴いてみました。