51日目 片松葉
黒糖バターロール、ハムソテー、マカロニサラダ、牛乳。今日の朝食だ。食事の後は薬を飲んでいる。痛み止めの薬と胃薬の2種類服用しているが、実際、どこの痛みを止めているのかよくわかっていない。薬をやめてみないとわからない。痛みが出てリハビリに支障がでないように、とりあえず飲んでいる、といったところか。卒業できるなら、したいところ。
だいたい歯磨きをしている時に整形外科の担当の先生がやってくる。「いつも歯磨き中すみません」とちょっと申し訳なさそうにするが、先生は忙しいのだ。いつだってウェルカムだ。
骨盤を固定している金属の棒、これを接続してがっちり固定している金具をゆるめた。金属の棒と骨盤に直結しているので、振動はもろに骨盤まで届く。ドライバーでギリ・・・ギリ・・とすこしゆるめたところで、様子をみるといって手をとめた。
左足1/3荷重制限が更新され、2/3まで許可が得られた。この判断に私もPTさんも少し驚いた。1/3のあとは1/2、つまり体重の半分まで足に力をかけていい、という指示がくるものだと思っていたのだ。人が両足で均等に立った状態は、片足にそれぞれ体重が1/2かかっていることを表す。2/3許可ということは、それよりも体重をかけていいことになる。飛び級みたいな感覚だ。歩行訓練が、より進めやすくなると思うと嬉しい。
右足全荷重、左足2/3荷重の歩き方の練習をした。右手に松葉杖一本という身軽さで歩くことができる。2/3というと、だいたい30㎏。左足は筋肉がなくて頼りない。関節に力をいれない生活を50日近く続けていたので、関節に痛みがでないか心配で、おそるおそる歩く。折れた骨盤は骨はついてきたたものの、まわりの筋肉が弱っている。疲れやすい。
最近、左骨盤が痛む。気にしないようにしていたけれど、無視していても仕方がない。痛いことを伝えて、歩行訓練が中止になる方が怖い。でも正直に言わないでいて、あとでとりかえしのつかないことになるはもっと怖い。葛藤。PTさんに相談してみることにした。座りっぱなしの体勢は実は骨盤によくない、とのことだ。座るか寝るかの2択の期間がが長かったので、仕方がない。悪化するようならまた言ってください、とPTさんは言ってくれた。
作業療法リハビリでは左手首がすこしずつ可動範囲が大きくなっているのを実感した。右手をつかって左手首をまげていく方法で訓練をして4日がたつ。15°だった角度が20°までになった。毎日微々たる変化だが、継続は力だ。
言語聴覚療法リハビリでは、「ハノイの塔」7段。前回は調子悪く、15分もかかってしまったが、今日は7分48秒。つぎはもっとタイムを縮めたい。
ひととおり予定を済ました後、自主的に歩行訓練をした。病棟のナースステーション周りが私のリハビリコースだ。松葉杖一本で歩く姿をみて、すれ違う看護師さんや介護スタッフさんが声をかけてくれる。「お!とうとう!」「え、すごーい!」「よかったね、がんばれがんばれ」寝たきりの状態で何にもできなかった私をよく知っている皆さんだ。ここまで回復できてるのは、あなた方のおかげです。ほんとうにありがとうございます。
今日は、救急の担当医師であるA先生が家族に状況説明をする日だ。夫が立ち会ってくれた。創外固定をはずしたあと、家に帰るか、リハビリ病院に転院するか、検討することになった。左手が不自由なので、まだ一人で生活はできない。夫には仕事がある。このまま家に帰るのが心配であれば、転院・・・。しかしひとつ案があった。実家に帰るのだ。実家であれば、両親が時間差で仕事をしているので、一人の時間が少なくてすむ。
「退院」のことばが出てきたことで、うれしい気持ちと、管理されない不安とが入り混じる。もとの世界に帰るだけなのに。まぁ、退院の時期は未だに決まってはいない。創外固定はゆるめはじめたばかりだ。完全にとれてからの歩行訓練の経過を見て、検討していくことになるだろう。
夜、この前とは違う友人がお見舞にきてくれた。夫との共通の友人で、結婚式では夫の友人スピーチをしてくれた、親しい友人だ。「生きててよかったね」と言ってくれた。本当にそう思うよ。そんな彼もつい最近事故にあってリハビリをしているという。交通事故で、相手に逃げられそうになったところを追いかけたとかなんとか、なかなか大変な思いをしたようだ。
いつ なにがおきるか わからない。
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