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つめたいゆびさき

帰り道は、風が強かった。体の芯から冷え切ってしまいそうで、今日に限ってスカートで出勤したことをちょっぴり後悔した。

一生懸命に足を動かして、体を温めながら駅まで向かう。大きな月が浮かんでいる空を見あげて、そういえば今朝も、まだ月が残っていてびっくりしたことを思い出す。

末端冷え性の私のゆびさきは、簡単にはぬくもりが戻らない。布団の中でも、冷え切ったつま先を抱え込んで、つめたさを溶かしきるまで安心して眠れない。ゆっくり、ゆっくり、毛布の暖かさと体温がつま先に移っていくのを感じながら、「ああ、これで大丈夫だ」と思って目を閉じる。

晩秋生まれなのに、寒いのは苦手だ。秋の涼しさは、軽やかにいろんなものを拭い去ってくれる風が吹いて、心地よくて好きだ。日向は暖かいし。でも、冬が深まってきて、服のすき間から冷気が入り込んでくると、命の危機を感じる。体が省エネモードに切り替わる。

実家の灯油ストーブが恋しい。ひとり暮らしの部屋では、エアコンの暖気と、あたたかい布類(毛布、もこもこ靴下、ユニクロのフリースなど)で寒さをやり過ごしている。ストーブは、ぐわーっと勢いよく部屋を暖かくしてくれる。

思えば、私は必死になって灯油ストーブの前を陣取って、本を読み、歯を磨き、長い時間あたためられてきた。あの灯油ストーブにしかない匂いも含めて、かなり好きだったんだなと自覚した。

この狭い部屋に灯油ストーブは置けないけれど、今夜はホットココアを飲んで、やさしくあたたかくなってから寝よう。今日も、おやすみなさい。

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