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父の人生を変えた『一日』その53 ~商機~

その53 ~商機~
 大阪のお客様でニチメン、日商、三井物産、丸紅、住友商事が販売している優秀な木材屋があった。大阪の出張の時にそのお客様の社長を訪ねた。
「お前がトーメンのライオンか?」
ぶしつけな社長だと思った。仕入先はなんぼでもあるのでトーメンは必要ないとまで言い切った社長であった。私の名刺を無造作にしまってしまった。ムカッとしたが商売人。何か御用がありましたらまた、何かチャンスがありましたらと言って別れた。そして年月が流れた。アメリカのポートアンジェルスにアンダー(ハンの木)が出材した。これはトーメンのやまからでてきた材木であった。大阪の社長この材が欲しくて、欲しくてたまらなかった。そして、全ての総合商社に買い付け指示した。しかし無理であった。よそのシッパーまで私の所に買いに来た。売らなかった。必ずあの社長は私に接触してくると思っていた。案の定であった。
 頑固社長は渋々私に電話かけてきた。
「ライオン、久しぶりだな。お昼でも食べよう」
と誘ってきた。単刀直入に言い切った。
「社長、アルダーが欲しいのでしょう?あの材、岐阜の工場に収めるのでしょう?」
と言った。流石、ライオンと社長は苦笑した。過去の事を思えばここでは絶対に売らないだろうがあえて言った。
「相場は4400円ですから4000円で全量売りますよ。」社長は大喜びであった。この商売からこの会社㈱トーメンの大きな得意先になっていくには時間はかからなかった。自分でもよくあのぶしつけな社長に当時、怒らなかったなと思い出した。商売は何処で繋がるか神のみぞ知るのである。

~倅の解釈~
 「商機」、ビジネスチャンスはどこにでも転がっている。もっと大げさに言えば、成功へのチャンスはどこにでもある。尊敬するヨシダフーズの吉田会長の言葉をかれれば、
 「開かない扉をいくら叩いてもダメ。周りをよく見て開く扉を探せ」
 人間が持つ喜怒哀楽の感情をコントロールして、チャンスをじっと待つ。こんなことを商売で真剣に考えている営業マンがどれだけいるだろうか。今の日本の社会ではレールが敷かれた営業が多く、すでに「クライアント」になって頂いている得意先を訪問して、受注して、満足している部分がある。私もそうである。先代、二代目が築いたクライアント様があるからこそ。でもこれに満足しては絶対にならない。営業力が劇的に低下する。新たな商機を絶えずアンテナを張り巡らせ見出さないといけない。そのように営業マンと一緒に切磋琢磨している。これは親父の教えでもある。
 親父のエピソードはまさしくこのことである。いかなる場面でもビジネスが前進する決断をするのが営業という行為の本質。目標は受注することだが、目的は「クライアント様の信頼を獲得すること」なのである。
 見かたを変えれば、そこに人と人の摩擦、トラブルがあればあるほど、深い付き合いになる。ピンチはチャンスとなる。

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