父の人生を変えた『一日』その24 ~商機~
その24 ~商機~
たった一言がヒントになって状況が様変わりする事もあり大きな商売に結び付く事がある物だ。奈良の天理の製材所の社長がアメリカに出張に来た。
「最近、町の中での製材所は環境問題がうるさくて大変だ。特に木材の丸太の皮が臭くて問題あり、皮について処分費用が大変だ。」と話された。
「皮・皮・皮」、ライオンは考え抜いた。そうだ、皮なしで日本に丸太を輸出すればいいのだと思った。㈱トーメン専用お港に「皮むき機」英語で言うとdebarkerデバーカーを設置する企画が成された。このリングデバーカーは一機4億円もする。とても駐在期間に償却できないとライオンは悩んだ。ところが大江支店長からカルフォニアの合板工場が倒産し皮むき機が新しいのがあり1億円で買えるという。神が我に神風を吹かしてくれたと感謝した。そしてアナコーテス港に皮むき機が設置された。其の開所式に米国トーメン社平田社長が直々に来られた。アトラクションは子供たちの―空手の演舞―であった。
更に良いことが起こった。皮の処分費用をコストで考えていたが原油が高騰し燃料として買ってくれることになった。大きな皮は庭の植木の中に次はモルモットの温床に小さい皮は病院の燃料に販売できた。皮のない丸太がアナコーテス港日本に向けに輸出される時には感激で涙が止まらなかった。
日刊木材新聞には「㈱トーメン、アナコーテスから皮むき丸太の輸出を始める」と出ていた。よくやったと自分を誉めたかった。たった一言が大きなドラマを生みお客様に喜ばれそして皮むき丸太が㈱トーメン木材部の目玉商品になったことは疑いなかった。
~倅の解釈~
まさしく商機である。小さな一言が何十億、何百億の仕事を創りだす。この丸太から取った皮はバークとして、今や西海岸ではガーデニングで愛用されるまで成長する産業となっている。自身の商売だけを伸ばすのではなく、地域を総合的に考えていた親父ならではの発想。愛するアメリカ、シアトルの経済を活性化させたい。より素晴らしい地域にしたいという思いがこのプロジェクトにはこもっている。
私は「ピンチはチャンス」という言葉が大好きである。何かのきっかけでマイナスの思考が大きくプラスに転じることは多々ある。大事なのは自身が日ごろからプラス思考の精神を持つことと違った視点から物事を見る能力。下をいつまでも向いていても何も始まらない。ヨシダソースの吉田会長もいつまでもあかない扉の前でノックしていても何も始まらない。「開くドアを探せ」と。
この大プロジェクトの開所式で私は小学生として空手の演武をした。父の晴れ舞台。小さいながらにも親父にとって大事な開所式だということは目を見ればわかる。私の演武にも力が入った。もしかしたら、これが親父と初めて一緒の商売に触れた瞬間だったのかもしれない。