【遊戯王OCG】歴代デッキビルドパック最強・最弱を決めよう!【25,000字超】
1.はじめに
こんにちは、なごにゃんです。
今回はいつものデッキ紹介とは趣向を変えた、パックについての評論をお送りします。
タイトル通り、25,000文字超の長文記事になりますので、お時間のある際にご覧いただくか、目次を活用して少しずつ読み進めていただけますと幸いです。
遊戯王OCGには、「デッキビルドパック」という販売形態があります。
ざっくり紹介すると、おおむね半年に1度のペースで発売される「3つのテーマに絞った小規模ブースター」であり、これ単体で良質な”デッキ”を”ビルド”できるコンセプトの人気商品です。
第10期(2017年)からスタートしたこの施策は、執筆時点の第12期(2024年)で既に7年目(14弾目)を迎えており、いつの間にかOCGの主力商品として定着しています。前身と思われる「ブースターSP」からカウントするとゆうに10年目(20弾目)であり、開発側もこの形態を成功とみなしていることが伝わってきます。
上の説明だけでも十分とは思いますが、「デッキビルドパック」が人気な理由をあえて言語化すると以下のようになります。
収録カードの一貫性があり、3テーマのカード+シナジーのある再録カードに絞られているため、不要なカードが出にくい。
定価2,000円台の小規模ブースターであるため、複数購入しやすい。
テーマの完成度が全体的に高い(※例外あり)。最初から環境クラスの場合もあるし、レギュラーパックで質の高い強化がもらえることがほとんどなので、それを見込んで先行投資する価値もある。
乱暴にまとめれば、非常に”丸い”パックです。
特にレギュラーパックにおける良質強化が半ば約束されていることは大きく、弱かったパックが3テーマとも環境クラスに躍進した例もあり、長期的に見ればどの弾を買っても損をしにくい商品と言えます。
……しかし、それでもなお、パックの人気には露骨な格差が生まれがちです。
上記の通り、長い目で見れば待遇が平準化されていくのですが、強化を待てるユーザーばかりではありません。1〜2年ならまだしも、【天気】が5年放置された例もあり、焦らされすぎて萎えてしまった人も多かったのではないでしょうか。
(※ その反省なのか、最近のテーマは直近のレギュラーパックと連動することが多くなり、強化までの間隔がかなり短くなっています。)
また、強化の質・回数にもある程度ばらつきがあり、「せっかくレギュラー強化をもらったのに質がよくないor枚数が少ないので弱いままだった」テーマもそれなりにあるわけで、一概に「放っておけばみんな強くなる優良パック」というわけではありません。大局的にはその傾向がある、というのは確かですけどね……。
この記事では、そんな「デッキビルドパック」の歴史を振り返るとともに、エンタメ的な「最強王・最弱王」、要は「ぶっちゃけどれが一番強くて、どれが一番弱いのか」を考察していきたいと思います。
(この記事の執筆時点で発売されていない「クロスオーバー・ブレイカーズ」は除きます。)
もっとも、2024年現在の基準で評価すると「新しいテーマは古いテーマより強い」「優良強化をもらったテーマはそうでないテーマより強い」のが当たり前になってしまい、パック間の強弱を比較する趣旨とややズレてしまうので、以下のような形式を取りたいと思います。
各収録テーマの、「発売直後の強さ」と「レギュラー強化が出そろった後の強さ」をそれぞれ評価する。
各収録テーマの評価を総合し、パックの評価も行う。
メタゲームにおける「強さ」を最大の評価基準とし、「人気」や「認知度」、「メディアミックスにおける露出度」などは原則考慮しない。(※解説文中で触れることはあり、「強さ」が同等と判断した場合のパック間の優劣判定に用いることはある。)
評価はS~Dの5段階とする。
強化後に評価が下がることはないものとする。(長期的に強化を得ている【閃刀姫】のようなテーマが、その時々の環境における評価を反映してしまうと趣旨からズレるため。)
テーマの評価基準は、メタゲーム上で経験した最高Tierに基づき、
S……Tier1〜2/規制経験あり(支配的な地位を築いた)
A……Tier1〜2/規制経験なし(上位入賞常連だった)
B……Tier3〜4(時折上位入賞が見られた)
C……Tier外/地雷(まれに入賞することがあった)
D……Tier外/環境外(メタゲームで一切見られなかった)
とし、パックの評価基準は、
S……最強候補(Aの中でも程度が甚だしいもの)
A……神パック(環境に大きな影響を与えた)
B……良パック(環境に一定の影響を与えた)
C……塩パック(環境にほとんど影響がなかった)
D……最弱候補(Cの中でも程度が甚だしいもの)
とします。
下位になるほど基準が曖昧となってしまいますが、そこは「独断と偏見」ということでご容赦ください。
それでは早速、歴代デッキビルドパックをひとつずつ振り返っていきましょう!
2.歴代デッキビルドパックを振り返る
2-1.スピリット・ウォリアーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【影六武衆】【天気】【魔弾】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
D(最弱候補)です。
記念すべき最初の弾なのにこれです。正直、この時点では7年も続く人気商品になるとは思っていませんでした。
この時期は新マスタールール(2017年)適用開始直後、いわゆるリンクショック真っ只中で遊戯王全体が盛り下がっていました。その中で、「3テーマ中2テーマが馴染みのない位置要素を参照する」ことを肯定的に捉えられた人は少ないのではないでしょうか。
最初の弾なのに尖りすぎています。
単純に各テーマの完成度も低く、とりわけ目玉テーマ【天気】のガッカリ報告は各所で聞かれました。
美麗なイラストの《アルシエル》に惹かれて組んだのに、出せない。
とってつけたような位置要素が複雑で爽快感がない。
眠くなるようなパーミッションが人を選ぶ。
女の子テーマと聞いて組んだのに、男女混合だしオッサンが目立つ。
この問題は、5年後(!)の強化《天気予報》《月天気アルシエル》により一応の解決を見せますが、根本的なテーマギミックが特殊すぎる・回りくどすぎることからメタゲームへの進出には至りませんでした。
また、【影六武衆】も、率直に言って【六武衆】ブランドに泥を塗る存在でした。「バニラでもいいからリンクモンスターくれ」と喘いでいた【六武衆】使いに「実質リンク3・ただしマーカーなし」の《リハン》を渡したのは神経を逆撫でする行為にほかなりません。
全員が採用圏外という訳ではなく、《キザル》《フウマ》は後年再評価されることになるのですが、それにしても《リハン》(と《忍の六武》)が残した悪評はなかなか覆せるものではなかったと記憶しています。
なお、2024年現在主流となっている【原石六武衆】に影六武衆の姿はありません。南無。
唯一の救いとして、【魔弾】はこの時点で前評判より強く、翌年には《魔弾の射手 マックス》が話題を呼ぶなど、この中では比較的優遇されたテーマです。2024年現在では【デモンスミス】との親和性からチラホラ入賞も見せており、このパックが最弱王を回避できるかは【魔弾】の評価にかかっていそうです。
2-2.ダーク・セイヴァーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【閃刀姫】【空牙団】【ヴァンパイア】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
A(神パック)です。
2弾目にして初の環境テーマ【閃刀姫】の登場です。A・Bどちらとするか悩みましたが、【閃刀姫】の存在だけで甘めに判定しています。それほどまでにこのテーマのインパクトは大きく、以降年単位で環境に影響を及ぼしました。
主要なカードのほとんどがこの弾で揃い、後年のテーマにありがちな「レギュラーで強化されることを見越した歯抜け感」が全くなかったことも見逃せません。
それでいて強すぎるということもなく、【閃刀姫】環境のゲーム体験は概ね良好で、前弾のデザイナークビにした? と勘ぐってしまうレベルで完成度が跳ね上がった弾です。
もっとも、【閃刀姫】の一人舞台だった感は否めず、【ヴァンパイア】と【空牙団】は露骨にハズレ扱いされていました。
実のところ【ヴァンパイア】は「コントロール奪取」という一貫したテーマ性のある良テーマで、汎用エクシーズの《シェリダン》を輩出していることも含めて決して弱くはないのですが、比較対象が強烈すぎたので仕方ありません。
また、この時点の【空牙団】は貧弱で、これはネタにされても仕方なかったと記憶しています。(リンクスで強かったことから異世界転生になぞらえてバカにされていました……)
ただ、直後に《フォルゴ》を手にして一応展開系デッキとして機能するようになり、その後も(かなり間を置いたものの)《ドナ》や《レクス》により足回りが改善されるなど、決して不遇とは言えないテーマです。
2-3.ヒドゥン・サモナーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【ネフティス】【プランキッズ】【魔妖】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
B(良パック)です。
……なのですが、発売直後に限ればぶっちぎりの最弱です。
はっきり言って、当初のこのパックは「ダーク・セイヴァーズで持ち直したブランドにキズをつけるもの」でした。
誰が言ったか、「ヒドイ・サモナーズ」の蔑称が広まるほどにはヒドイパックで、私は発売3か月後に【プランキッズ】を組むため箱買いしましたが1パック50円まで値崩れしていました。
(その結果、2年後の大幅なテコ入れにより「ヒドクナイ・サモナーズ」と呼べる程度にまで改善されましたが……。後述します。)
何がそんなにヒドかったのかというと、シンプルに入ってるカードが全部弱かったためです。
まず目玉とおぼしき【魔妖】ですが、百鬼夜行を模した連続階段シンクロが持ち味ながら、これがフレーバー以上の意味を持ちません。いたずらにエクストラを消費してバニラを立たせるだけの欠陥ギミックで、《妲己》の出し入れが絵面的に面白いくらいしか見どころがありません。
後年の強化により得たのも「階段シンクロ(リンク)の延長・リソースの拡充」方面で、《逢華妖麗譚-魔妖不知火語》を除いてまともな妨害がもらえなかったためメタゲームに進出することはありませんでした。
その《魔妖不知火語》も安定して構えられるわけではなく、ぶっちゃけ《ロールバック》でコピーされた回数の方が多そうです。
続いて【ネフティス】ですが、本当に、コレだけで記事がひとつ書けるくらい弱かったです。テーマの完成度だけで言えばぶっちぎりの最下位、理解度が皆無と言える代物で、デッキとして成り立ってませんでした。
【ネフティス】はあの《ネフティスの鳳凰神》を信仰する団体ながら、「儀式×リンク」という接点のないギミックを用い、切り札も「儀式3体で出すとフルパワーになる」という不穏な代物でした。
とはいえ情報公開当初はまだデザイナーを信用していて、「宗教団体だから儀式テーマなのか!なるほど!」と言ってみたり、「《影霊衣の万華鏡》みたいな儀式魔法で低レベル儀式をばら撒くのかな?」「リリースの代わりにモンスターを破壊するのかな?」とか妄想したものです。結果としてお出しされたものが、「ふつうの儀式魔法でふつうの儀式モンスターを3回出してね」というカード群でひっくり返りましたが……。
結果、2年後には《ネフティスの繋ぎ手》というルール無視の強化をもらうことになり、以降は「無限巨神鳥」や【スプライト】との接点を見出すなどかなりマシな状態になりました。しかしあまりに元が弱すぎる、そもそもデザイナーの意図が破綻している、相変わらず《焔凰神》が無価値という事実は拭いきれず、強化された今もなお良い印象はないテーマです。
なお、【プランキッズ】は、この中では「元から比較的マシだった」テーマです。
「3枚初動」(※ 下級2枚+《融合》or《プランク》or《大暴走》)という類を見ない重さが足を引っ張っていましたが、それを前提で調整されていた節もあり、《増殖するG》のない海外環境ではそこそこメジャーだったとも聞きます。「不安定だが爆発力のあるテーマ」として、当時基準ではそこそこの完成度だったと言えるでしょう。
もっとも、後年の強化で【プランキッズ】がもらったのは、そんな前提をぶっ壊すリンク1の《ミュー》だったわけですが……。
後天的ながら、ビルドパックが環境テーマを輩出した2例目は【プランキッズ】と相成りました。そこにはもはや必死こいてカードを3枚かき集めるヤンチャ坊主の姿はなく、淡々と1枚初動で《ハウスバトラー》2発を構える公務員となった新生【プランキッズ】がいました。
強化前を知る身としては、「強くなってよかったね」というより「誰だお前?」という感想が先に出たものです。
今回の評価は「強ければ正義」なので多くは語りませんが、【ネフティス】といい【プランキッズ】といい、こうした「後年強化の身も蓋もなさ」もこのパックの特徴かもしれません。禁じ手に近いヤケクソでなんとか評価を持ち直した、というところです。
2-4.インフィニティ・チェイサーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【ウィッチクラフト】【無限起動】【呪眼】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
D(最弱候補)です。
人気テーマ【ウィッチクラフト】を輩出し、キャンペーンパックで《閃刀姫-レイ》の20thレアが手に入ったという商業的背景もあってか不思議と悪評を聞きませんが、どのテーマも強化込みで環境に届くことはなかったため、最弱候補と断じてよいでしょう。
まず目玉の【ウィッチクラフト】ですが、シンプルにデッキの構造が弱いです。ワンアクションで《ヴェール》か《ハイネ》を設置できること自体は当時基準で悪くないのですが、どのデッキにも入っている《灰流うらら》《墓穴の指名者》が直撃して更地になり、二の矢も用意できないのはいただけません。
また、コストで捨てた魔法が帰ってきてリソースになることは面白いのですが、冷静に考えるとマイナスがゼロになっているだけで大きな評価点とは呼べず、またこの共通効果を考慮してかどの魔法も弱めにデザインされていたのが足を引っ張りました。
《アルル》《ジェニー》などレギュラー強化の質はよく、《バイスマスター》の登場により【烙印】混成の道が開けるなど細々と強化されてはいるものの、根本的な弱みが改善されることはなくメタゲームへの進出は叶いませんでした。
【無限起動】は、弱くはないのですがひたすらに地味でした。
優良カードの《ハーヴェスター》《ロックアンカー》《スクレイパー》辺りをこの時点で擁しており、レギュラー強化も《超重機回送》《ブルータルドーザー》と優秀だったのですが、エンジンばかりが整っていてどんな盤面を目指すテーマなのか全くわかりませんでした。当時は層の薄かった「地属性・機械族」で縛っていたために工夫の幅がなく、《レギュラス》が来るまでは1妨害を作ることすらままならなかった記憶があります。
後に【古代の機械】【マシンナーズ】の強化を受けて【地機械GS】の中核テーマに抜擢されるのですが、これもカジュアルデッキの部類で、現在ではテーマ単独で戦える【超重武者】の強化により種族GSにおける役目も終えています。
おそらく現在もっとも遭遇する可能性のある無限起動カードは【十二獣】【ヌメロン】の《メガトンゲイル》かと思いますが、これもどちらかと言えばマスターデュエルの話で、紙の遊戯王では需要をなくして久しい1枚です。(※ ちなみ当初はリンクショック真っ只中だったので、召喚条件の厳しい《メガトンゲイル》はネタ扱いでした)
最後に【呪眼】ですが、この中ではもっとも可能性を見せたテーマです。全体的なカードパワーの低さ、出させる気のない《ザラキエル》の存在から評判は芳しくありませんでしたが、いざ発売されると「《サリエル》が意外と堅くて抜けない」「専用魔法罠も言うほど弱くない」ということで下馬評を覆します。その後も良質な強化により細々と弱点を克服し、後年の《災誕の呪眼》を獲得してから少しの間はトーナメントに持ち込む人の姿も見られました。
一方で、ここまで強化しても環境にまったく定着しなかったのが事実で、根本的にデッキの構造がカジュアルレベルであることは確かです。
いわゆる先行番長ならばわざわざこのデッキでやる必要がなく、テーマカードを一定数積まなければならない性質上自由枠を確保しにくいのも見過ごせません。
2-5.ミスティック・ファイターズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【ドラゴンメイド】【斬機】【ジェネレイド】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
A(神パック)です。
ただ、どのテーマも最初から強かったわけではなく、当初は一部の斬機が【コード・トーカー】の強化パーツとなるか、《王の舞台》+《氷の王 ニードヘッグ》が何らかの出張パーツになるかどうかといった評価に留まっていました。目玉の【ドラゴンメイド】に関しては、身も蓋もありませんが「かわいいけど弱い」テーマでした。《ティルル》と《お心づくし》は最初から2000円コースでしたけどね。
このパックの評価が覆ったのは各テーマの強化後です。
どのテーマも粒ぞろいの強化をもらっており、むしろレギュラー強化があることを前提にした設計だったように思えます。
【ドラゴンメイド】
《お片付け》、《チェイム》、《シュトラール》
【斬機】
《ダランベルシアン》、《ダイア》、《サーキュラー》(制限カード)
【ジェネレイド】
《ウートガルザ》、《ハール》、《ヴァラ》、《レイヴァーテイン》
見事に主要カードばかりが揃っていて驚嘆します。
元号が変わって初のデッキビルドパックでしたが、「ビルドは初出が弱くてもレギュラーで良質強化がもらえる」という令和の常識を作り上げた、歴史の転換点となったパックかもしれません。
ちなみに、今となっては【ドラゴンメイド】のA判定に違和感がある人が多いと思うので補足しますが、《シュトラール》獲得後の2020年~2021年初頭における【ドラゴンメイド】は環境テーマでした。それが少し見ないうちに「ちょっと強いファンデッキ」にまで転落しているとは、ここ数年のインフレの激しさが伺い知れます。《チェイム》のドラゴン態にかかる期待が年々重くなっていますね……。
総じて、このパック単独での完結性には欠け、あくまで後年の強化で花開くテーマが中心だったものの、優良株ばかりが揃っていた名パックと言えます。一時は品薄になり、《ティルル》が箱の定価を超えていたというのも今となっては笑い話です。
2-6.シークレット・スレイヤーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【エルドリッチ】【アダマシア】【六花】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
S(最強候補)です。
あの【エルドリッチ】と【アダマシア】の初出です。発売当初に限れば非常に弱かった【六花】が足を引っ張るものの、まず間違いなく最強候補の一角と言っていいでしょう。
この2つに関しては、「初出の時点であまりに強すぎてレギュラー強化が打ち切られた」という逸話でも知られます。真偽のほどは不明ですが、確かに直後に渡された謎の塩カードを最後に強化が途絶えており、開発側も「こいつらに強化は不要」と判断したのかもしれません。その点でも極めて異質なパックです。
なお、この時点での【六花】は相当弱かったのですが、後年手にした《ストレナエ》《しらひめ》《来々》という極めて的確な強化によりB判定にまで返り咲いています。マスターデュエル向けですが、【六花】については個別の解説記事を用意しているのでご興味があればそちらもご覧ください。(宣伝)
……各テーマの強さについてはあまり語ることがないので、ちょっとした昔話をします。
このパックは、目玉テーマ(女の子テーマ)が飛び抜けて弱く、ほかの2つが飛び抜けて強いという過去類を見ないバランスだったので、カードショップも値付けに苦労していた印象があります。
具体的には、いつものように女の子テーマのサーチカードである《六花絢爛》が初動1500円〜2000円をつけたのですが、弱すぎて誰も買わず、代わりに400円とかで積まれていた《エルドリッチ》が好調に売れていました。
私はほぼ毎日、当時の職場のそばにあったカードショップを覗いていたのですが、日に日に100円ずつ値段が落ちていく《絢爛》と、補充されるたびに値上がる《エルドリッチ》の対比が印象的でした。
500円まで落ちたタイミングでかわいそうになって購入した《絢爛》には、幾重にも値札が上張りされて盛り上がっていたのを覚えています。興味本位で1枚ずつ剥がして元の値段を探ったのですが、なぜかとてもいけないことをしている気分でした。(ちなみに1800円でした。売れるわけないだろ!)
2-7.ジェネシス・インパクターズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【マギストス】【イビルツイン】【ドライトロン】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
A(神パック)です。
あの【イビルツイン】【ドライトロン】の初出です。
この時の【イビルツイン】には《トラブルサン》《トラブル・サニー》もコスプレ下級も存在しないので弱かったですが、それらを手にしてミッドレンジとして大成するのは史実の通りです。また、【スプライト】と合流してからはTier1にまで上り詰めた実績もあり、目玉テーマの面目躍如と言えるでしょう。
さらに、かの【ドライトロン】は、《ファフμβ》こそ存在しませんでしたが最初からほぼフルパワーでした。《弁天》が再録されていたことも特筆すべき事項でしょう。後に(主にマスターデュエルで)大暴れすることになる【ドライトロン宣告者】はデザイナーの想定内だった、というのは驚嘆に値する事実です。
何かと話題になったテーマということもあり、これについては多くを語る必要はないでしょう。
ここまでの評価に鑑みるとS判定を与えてもよさそうなのですが、やや足を引っ張るのが【マギストス】の存在です。このテーマ、弱くはないのですが、何かと取っ散らかっていてデザイナーが扱いきれていません。
S・X・融合・リンクの全てを活用し、さらにそれらのモンスターを装備魔法化して戦うというごちゃごちゃしたコンセプトです。ただし【DD】や【イグニスター】のように「複数種のエクストラモンスターを一挙に並べる展開力」は与えられず、「1ターンに1〜2体ずつ出してね」というデザインがなされていました。この時点で既に出力不足の匂いがしており、嫌な予感はおおむね的中します。
《アルテミス》《ゾロア》のように汎用性の高い良カードは多く、「《ゾロア》軸でリソースを稼ぎながら戦うメタビート」は一定の使用者を獲得したのですが、デザイナーが想定していたであろう「オールスターで戦う展開系【マギストス】」は不成立に終わったという経緯があります。
……以上の理由からS(最強候補)判定は避けたものの、カードの相場の話で言えば相当なアド箱だったことを追記しておきます。
【イビルツイン】【ドライトロン】の主要カードは言うに及ばず、再録までに時間のかかった《アルテミス》は一時1500円〜2000円まで高騰していました。下手にシングルで買い揃えるよりパックを開けた方がお得と思えた時期もあり、買い漁った人も多いのではないでしょうか。
2-8.エンシェント・ガーディアンズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【ドレミコード】【ベアルクティ】【溟界】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
D(最弱候補)です。
ひさびさにかなりヤバいパックが出てしまいました。
3テーマがどれも弱く、強パック続きに期待していた多くのデュエリストに水をぶっかける形となりました。「最近のテーマはすぐ強化されるから~」と楽観的に捉えていた人(※筆者)も多かったのですが、強化を受けてなおパッとしなかったという点で並の塩パックとは一線を画します。
このパックに関しては被害者の会代表として思うところが多く、記述が長くなります。
ご容赦ください。
まず目玉テーマの【ドレミコード】は、
P召喚を妨害されない共通P効果
音階を模したバラバラなスケール
スケールの奇数・偶数を参照するギミック
の3つが特徴のペンデュラムテーマですが、この3つすべてが足を引っ張る奇跡的な出来の悪さで成り立っています。
まず共通P効果ですが、はっきり言ってインクの染みです。
耐性付与はあって損する効果ではないのですが、「P召喚時にしか機能しない」ことから初動の誘発ケアにはならず、役立つシチュエーションが極めて限定されます。
何よりこれ以外のP効果を持たせてもらえないことが問題で、せめて1体くらい《Emモンキーボード》《智天の神星龍》の互換でもいれば違ったはずです。「永続魔法のように振る舞ってデザイン空間を広げることができる」Pモンスターの利点を半分殺しています。早い話が、「その余白にもっと書くことあっただろ」と言わざるを得ません。
まさか令和に「かわいいダイナミスト」が刷られるとは思っていませんでした。
続いて「音階スケール」ですが、前提として、「スケールがバラバラ」というのはデメリットでしかありません。
「上スケ」「下スケ」と表現されるように、実質的には1か8であることが良いとされますが、【ドレミコード】のスケールは個性付けの一環として1〜8に分散しています。この時点で無理があります。要は、テーマカードを重ねるだけではペンデュラム召喚すら安定しない縛りを個性と言い張っているのです。
音階のScaleとPスケールを掛けたかったのはわかりますが、あまりにその発想先行すぎてゲームに落とし込めていません。
最後に、やたらテキストに登場する「Pスケールの奇数・偶数」はそもそも元ネタ的にも何を指しているのかよくわかりません。音楽に造詣がないのであまり突っ込んだ話はできませんが、1段飛ばしの音階同士で括ることに何か意味があるのでしょうか?
「ドレミコードモンスター」でひと括りにサポートすればいいものを、「奇数の場合はウンタラカンタラ~、偶数の場合はウンタラカンタラ~」と無理やり条件を増やしてテキストを引き延ばしているようにしか見えません。
以上の理由から、【ドレミコード】は相当弱いテーマに分類されるのですが、腐っても「縛りのないPテーマ」であることが事情を複雑にしています。
要は《エレクトラム》+《アストログラフ》や《軌跡の魔術師》を活用すればそれなりに展開できてしまうので、他のPテーマと混ぜて一応戦うことはできるのがまた何とも言えないのです。【覇王ドレミコード】などで検索すればその手のデッキがいくらかヒットするかと思います。
あえて言葉にするのもビルダーの皆さまに失礼ですが、【覇王ドレミコード】は【覇王】の劣化です。入れなくてもいいドレミコードを入れて自由枠を狭めているだけで、それで勝てたとしても【ドレミコード】が強かったことにはなりません。
自身のスケールがメチャクチャなこともあって、何らかのPテーマに寄生しなければ成り立たないのに、寄生先は特にドレミコードを求めていないのがこのテーマの悲哀です。
こうした声を聞きつけたのか、後年もたらされた強化はテーマ専用の制圧モンスターである《グランドレミコード・クーリア》でした。その方向性自体は決して悪くないのですが、これを出すために他のPテーマを経由しなければいけない安定性のなさは据え置きで、根本的には何も変わっていません。最終盤面にドレミコードが1体もいない! という事態を回避できるようになっただけマシだとは思いますが、この期に及んで奇数・偶数を諦めていないことにため息がでたプレイヤーも少なくないと思います。
困ったことに、【ドレミコード】だけではなく【ベアルクティ】も相当弱いテーマであることがこのパックの評価を徹底的に下げます。
さきほど、「【ドレミコード】は音階スケールの発想先行で作られていて練り込みが足りない」という話をしましたが、【ベアルクティ】もおおむね同類です。「引き算シンクロ」「初のレベル1シンクロ」というインパクトありきで作られており、実際のゲーム体験は二の次にされている節があります。
ご存知ない方のためにざっくり説明すると、
チューナーと非チューナーのレベルの差で疑似シンクロ召喚する。(引き算シンクロ)
メインデッキのモンスターはレベル8チューナーとレベル7非チューナーで構成されていて、いずれも手札のレベル7以上のモンスターをリリースしてフリーチェーンで手札から特殊召喚できる効果を持っている。
特殊召喚時に、非チューナーは何らかのカード回収を、チューナーは何らかの盤面干渉を行うことができる。(※例外あり)
のが【ベアルクティ】の特徴です。
引き算シンクロは面白そうに映るかもしれませんが、不穏なのはメインにコストを要求する最上級モンスターしかいないことです。非チューナー側にカード回収がついているとはいえ、基本的には回せば回すほどカードが減っていく作りです。
その手札コストも何でもいいわけではなく、最上級モンスターを要求します。テーマ内に「墓地から特殊召喚できるモンスター」や「リリースされると得をするモンスター」もいないので、このコストは純損失でしかありません。前弾の【ドライトロン】が似たギミックながら墓地から特殊召喚できたことを考えると、明らかに査定が厳しすぎます。
テーマ内のカードだけでは到底損失を抑えきれませんし、後年の【ピュアリィ】のように《暗黒界の狩人ブラウ》《シャドール・ビースト》《ヴォルカニック・バレット》などで補うこともできません。
なので、初期には《森の聖獣 カルピポニカ》+《森の聖獣 アルパカリブ》という珍妙なカードにまで声がかかるなど、令和とは思えない設計の不親切さが話題になりました。
なぜ【ドライトロン】と比べギミックが劣化しているのか真剣に考えると、おそらく特殊召喚がフリーチェーンで行えること、とりわけ相手ターンにチューナーを特殊召喚することで後攻0ターン妨害ができることを重く見たのだと思われます。
ですが、ハッキリ言ってビビりすぎです。
ただでさえこの3体には「他のベアルクティモンスターが存在する時」という条件がついており、後攻0ターン妨害に寄与するためにはチューナー+コスト+《ミクポーラ》or《ミクタナス》のような都合のいい3枚持ちをしていなければいけません。その上で事実上の妨害にカウントできるのは遅効性《月の書》の《メガタナス》くらいのもので、汎用手札誘発の方が何倍も強いです。
……逆に言えば、これが弱すぎたからこそ後世の《ハゥフニス》《ティアクシャ》《キリン》らのデザインに繋がったわけで、そういう意味では資料的に貴重なカードかもしれません。
さらに、これらの障壁を乗り越えて行われる「引き算シンクロ」がぜんぜん強くないのも問題でした。
まず「8-7=1」でこの《ポラリィ》を繰り出すわけですが、彼が持ってきてくれる《ビッグディッパー》のテキストは以下の通りです。
なるほど、このデッキの目指すところは「8-1=7」の大型シンクロで、《ポラリィ》も中継点に過ぎません。
《ポラリィ》の②の効果のコストを肩代わり、8チューナーを蘇生して展開をサポートしよう、というデザインなのは理解できます。
(……なぜ肩代わりにターン1制限がついているのでしょうか? そもそも《ポラリィ》を出す前に最初から張らせてくれませんか?)
そして繰り出される「8-1=7」の大型シンクロが以下の2体です。
パッと見、レベル7シンクロモンスターとして見ると結構強そうに見えてしまうのが曲者なのですが、騙されてはいけません。真っ当にこれらを出すためには「8-(8-7)=7」が要求され、つごう3体のモンスター(と手札コスト)が必要になるのです。言ってしまえばこれらはレベル23相当のシンクロモンスターです。明らかに消費に見合った強さではありません。制圧持ちの《セプテン=トリオン》はまだしも《グラン=シャリオ》の方、何が悲しくて2021年にデカい《剣闘獣ガイザレス》を目指さなければいけないのでしょうか?(※ 《ガイザレス》の方が強い、というところまで含めて笑い話です。)
ただ、そんな【ベアルクティ】にも救いはあって、それはレギュラーパックの強化がかなり良質だった点です。
特に上の《ラディエーション》は有名なカードで、「【ベアルクティ】の7枚ドローするやつ」と言えば聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。実際は真っ当なリソース源というより「損失を抑えてくれるカード」だったのですが、それでもかなり理解度の高い強化だったと言えます。
さらに、合体事故と【ドライトロン】から煙たがられた《天極輝艦-熊斗竜巧》も、【ベアルクティ】目線ではまずまずありがたい強化でした。
また、コスト肩代わりを利用して7シンクロを複数並べられる《ポーラ=スター》も有益なカードでしたし、
極めつけに、「コストが必要」という特性をガン無視して自己特殊召喚+《ラディエーション》サーチができる《天極輝士-熊斗竜巧α》が登場したのには笑ってしまいました。
しかし、それでもなお【ベアルクティ】のD判定(Tier外/環境外)が覆らないのは、率直に言って元が弱すぎるからに他なりません。言ってしまえばこれらは「マイナスをゼロにするカード」であって、強化を受けてようやくスタート地点に立ったような格好です。
冒頭の繰り返しになりますが、「引き算シンクロ」という発想ありきで作られてしまった感は否めず、このパック特有の「練り込み不足」を如実に表す不遇のテーマとなっています。
最後に【溟界】の話ですが、この3テーマの中ではいちばん可能性に満ちています。層の薄かった爬虫類族に《ヌル》という明確な1枚初動をもたらしたこと、持て余していたパワーカード《スネーク・レイン》を有効活用できるようにした墓地利用テーマということでそれなりに話題になりました。
【爬虫類GS】成立の契機になり、後の【蕾禍】の基盤となるのもこのテーマです。レギュラー強化の質もおおむね良好で、特に《黎溟界闢》は様々な展開の起点になるパワーカードとして好意的に受け入れられました。
一方で、【溟界】というテーマ単位で見ると、《スネーク・レイン》を恐れたような妙なデフレ調整が入ってしまっています。多くのモンスターが自己再生を備えているのですが、そのコストがヤケに重かったり、相手にもアドバンテージを与えてしまう「なんで?」と言いたくなるようなデメリットがついているものも散見されます。
《ヌル》が強いから【溟界】が強いというのは、《導師》が強いから【サブテラー】が強いと言っているようなものです。決して間違いではないのですが、テーマ単位で見ると不要なカードの方が多く、一部のパワーカードだけが当初の意図を離れて評価されているような状態と言えます。
また、【爬虫類GS】もまだまだ発展途上のデッキであり、これを評価対象に含めてもC(Tier外/地雷)より上の判定を与えるのは厳しいでしょう。
現状の強さ・将来性ともに3テーマの中では1番ですが、あくまでパック内での相対評価であることは留意すべきです。
余談ですが、このパックは投げ売りされているところをあまり見ません。単純にあまり剥かれておらず、それほど再版もされていない印象があります。もし今後【爬虫類GS】が環境入りするようなことがあれば、2000円になった《ヌル》を求めてこのパックを血眼で探す人の姿を見られるかもしれません。その頃には再録されてそうですけどね。
2-9.グランド・クリエイターズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【勇者】【エクソシスター】【P.U.N.K.】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
S(最強候補)です。
あの【勇者】を生み出したパックです。脇を固めるメンツも【エクソシスター】【P.U.N.K.】と手堅く、最強候補の一角であることに疑いの余地はないでしょう。
もはや笑い話ですが、発売前の【勇者】は酷評されていました。
当時は《アラメシアの儀》+《聖殿の水遣い》+《流離のグリフォンライダー》+《運命の旅路》+《騎竜ドラコバック》を既存テーマに出張する発想がなく、カードパワーの低い純構築を想定して「アラメシアのサーチが少ない」「トークンを除去されたら終わり」とする見方が大半だったように思います。中にはこの出張セットに言及している人もいましたが、「枠を取りすぎ」「勇者のために通常召喚の初動を諦めるのは構築を歪めすぎ」と叩かれていました。
実際はむしろ、「勇者採用はマナー」「勇者の仲間になれないデッキは時代遅れ」という価値観を定着させ、環境を歪めに歪めたわけですが……。
【エクソシスター】は、この時点では弱かったのですが、《マニフィカ》《マルファ》《リタニア》という的確な強化を得て、あの【スプライト】【ティアラメンツ】環境で花開くという輝かしい経歴を辿りました。
……なお、このテーマには私的に思うところがある(下記記事)のですが、客観的に見て一時Tier1~2クラスだったのは事実で、今回の基準に照らせばA判定(Tier1〜2/規制経験なし)まで伸びたことに疑いの余地はないでしょう。
【P.U.N.K.】は、初出時点では《セアミン》+《緊急テレポート》の出張セットという趣が強かったのですが、後に《ディア・ノート》や《ドラゴン・ドライブ》を獲得して出張・純構築両面で存在感を発揮するようになります。
特に《セアミン》+《ディア・ノート》は《混沌魔龍 カオス・ルーラー》にトドメを刺した遠因のひとつとも見られており、最強候補パックの一員に恥じない強テーマと言えます。
総じて非常に優良なパックですが、【勇者】は意図した強さではなく調整ミスであるという見解も強く、当時の閉塞的な環境を思い出して辟易する人もいるかもしれません。悪名高い「ハリラドン」が最後に活躍したのもこの時代です。
2-10.タクティカル・マスターズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【神碑】【ラビュリンス】【ヴァリアンツ】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
S(最強候補)です。
あの【神碑】を生み出した問題作です。
この項では多くは語りませんが、ざっくり言えばこれ以降の遊戯王OCGを「【神碑】のある遊戯王」に変えてしまったパックです。本体である《神碑の泉》が制限カードに指定されてもなお暴れ続け、多くの永続罠の規制要因となっている別格のテーマです。私見では、ビルドパック最強テーマと言い切っていいかと思います。
そして、困ったことに他のテーマも環境クラスです。
まず【ラビュリンス】は、当初はやや弱かったものの《ビッグウェルカム》や《白銀姫》の獲得により罠テーマの代表格として大成しました。それまで地位の下がっていた通常罠の脅威を環境に知らしめたこと、ゲームスピードが比較的ゆっくりでコントロール好きなユーザーにウケたこと、また美麗なイラストもあって評価の高いテーマですが、【神碑】同様にメタゲームを散らかしたこと(罠テーマに向き合わざるを得なくしたこと)から苦手な人も少なくない印象です。
【ヴァリアンツ】は、この2つと比較すると明確に一段階落ちるものの、《ソロアクティベート》を手にして展開系デッキとして大成した強テーマです。過程は知らなくても、《パキケ》+《里》が【ヴァリアンツ】の最終盤面であることを知っている人は多いのではないでしょうか。
……ところで、今回の評価とは関係ないお気持ち表明なのですが、個人的には【ヴァリアンツ】の今の姿を残念に思います。
というのも、このパックには、「OCGのフォーマットを通して他のゲームを表現しよう」という一貫したコンセプトがありました。【神碑】はファーストパーソンゲーム、【ラビュリンス】はタワーディフェンス、【ヴァリアンツ】は対戦型ボードゲームといった趣です。
とりわけ【ヴァリアンツ】の完成度は白眉で、互いのフィールドをゲームの筐体に見立て、カードの移動によりユニットの進軍を表現するなど、かなり凝ったデザインがなされていました。カードの効果も直感的でイメージしやすく、たとえば《アルクトスXII》は「長針と短針で相手を挟んで攻撃する」のでしょう。やったこともないゲームの情景が鮮やかに浮かぶ素晴らしいデザインです。
それだけに、その余りある展開力で制圧モンスターを並べ、「このゲーム飽きた!」と相手のターンが回る前にフィールド=筐体を破壊するのが最適解であるのは残念でなりません。
おそらく現状をいちばん悲しんでいるのはヴァリアンツのデザイナーだと思います。縛りが厳しすぎて使われないよりは幸せなのかもしれませんが、つくづくカードデザインは難しいと感じさせるエピソードです。
2-11.アメイジング・ディフェンダーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【R-ACE】【ピュアリィ】【御巫】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
S(最強候補)です。
まさかの3弾続けて最強候補です。
前2つと異なるのは、発売直後と強化後で評価が全く違うということです。
発売直後に限れば明確に弱いパックで、「ひさびさにお休みかな?」とプレイヤーを安堵させたのもつかの間、レギュラー強化によりうち2テーマが大化けしたという経緯を持ちます。
まず【R-ACE】は、最初から核である《タービュランス》を備えていたものの、足回りが貧弱でまったく安定しなかったのが当初の姿でした。その後、《EMERGENCY!》や《プリベンター》を手にし、炎属性強化の波に乗って罪宝や《咎姫》も手に入れ、現在進行形で環境の一角として大暴れしています。
【ピュアリィ】の事情も似たようなもので、こちらは《リリィ》《スリーピィ》《エピュアリィ・ノアール》が後付けと言えば多くの説明は要らないでしょう。当初はたまごっちとかイーブイとかバカにされつつ親しまれていたのが、気づいたらヘイトを集める対象になっていたのは面白かったです。
最後に【御巫】ですが、これは最初から強かったです。
《オオヒメ》をランク6素材+αとして出張することもできましたし、純構築でもコンセプトがはっきりしていてパワーも十分でした。もらったレギュラー強化も《フゥリ》《迷わし鳥》《神かくし》と良質で、特に《フゥリ》の「倒せそうで倒せない耐性」に苦しめられた人は多いのではないでしょうか。
またしても余談ですが、「デッキビルドパックで最も完成度の高いテーマは何か?」と聞かれたら迷いなく【御巫】と答えます。
このテーマの下馬評は最悪で、
弱くても売れる女の子テーマであること。
見るから扱いが難しい儀式+装備魔法テーマであること。
近年成功した例がない戦闘テーマであり、しかも反射ダメージをダメージソースとしていること。
ということで、どう考えても強くなる要素がなかったのです。
(個人的には、宗教×女の子×儀式ということでうっすらあの【ネフティス】を思い出しており、とても嫌な予感がしていました。)
その未開の土壌を切り開き、下馬評を覆す独自の強みを築き上げたのには本当に驚きました。その気になればこんな弱そうな要素の組み合わせで良テーマも作れるんだな、と感心したのが記憶に新しいです。
総じて大器晩成ながら非常に優良なパックで、単純なポテンシャルと環境に与えた影響では最上位クラスと言っていいでしょう。ちなみに、最初から【御巫】に値段がついていたのでなかなか投げ売りされず、【R-ACE】【ピュアリィ】目当ての青田買いはやりにくかったことを付記しておきます。🍊
2-12.ワイルド・サバイバーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【超越竜】【ヌーベルズ】【VS】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
C(塩パック)です。
ひさびさに箸休め的な弾です。
メタ的な観点では、2022年のハイパーインフレに対して露骨なデフレ調整が入っていた時期と言えるかもしれません。
まず【超越竜】ですが、強さどうこう以前にカテゴリになっていません。
あくまで【恐竜GS】の強化パーツといった趣で、それを分かっているかのように自分のカードを割るギミックを多数備えています。早い話が、《ゼノ・メテオロス》1枚だけレギュラーパックに収録してくれれば恐竜使いが喜んだといったところで、わざわざビルドパックの1テーマを割くような新奇性も求心力もありませんでした。
続いて【ヌーベルズ】ですが、あの《ハングリーバーガー》が切り札のテーマということで話題になりました。
ネタ全振りかと思えばそんなこともなく、レギュラー強化で《ポワソニエル》《菓冷なる対決》を獲得、儀式テーマ御用達の《宣告者の神巫》との接点を獲得して実用レベルになりました。具体的な展開ルートの記述は差し控えますが、ざっくり4~5妨害+リソースを組むことができます。(※ただし相手の行動依存、着地狩り中心)
ただ、野暮ですが、当然環境クラスというわけではなく、強化直後に小さな大会での入賞を数回見たというレベルに留まります。儀式テーマ特有のスペース問題や初動の不安定さがあり、拡張性にもどうしても限界があります。好意的に見れば、ただのネタテーマに甘んじず、思ったよりは遊べるというオイシイ立ち位置に落ち着いたと言えるかもしれません。
最後に【VS】ですが、実質的にこのパックの主役と呼んでいいでしょう。
アーケードの格ゲーというかなり尖ったモチーフながら、その実、非常に完成度の高いミッドレンジデッキとして多くのプレイヤーを驚かせました。
登場してからしばらくの間は環境で見られ、一時はTier2に数えられる母数がいたと記憶しています。
ただ、上記の《ラゼン》への依存度が高すぎること、大人しいミッドレンジデッキを許してくれるような環境がいつまでも続かなかったことから、おおむね3~4か月程度で活躍期間を終えた短命のデッキです。どちらかと言えば、《フェンリル》2枚と一緒に使えたマスターデュエルでの活躍が印象深い、という人が多いかもしれません。
またまた余談ですが、デッキビルドパック史上初めて「女の子テーマ」の枠がなかった弾です。これまでその枠が売上に寄与していたのは明らかだったと思うのですが、気まぐれなのか何らかの市場実験で廃してみたのか、真偽のほどは定かではありません。ちなみに女の子の高レアが出ないせいか速攻で投げ売りされました。
総じて最弱候補とまではいかないものの、近年の基準ではかなりしょっぱいパックだったことが記憶に新しいです。
2-13.ヴァリアント・スマッシャーズ
<パック評価>
<収録テーマ>
【メメント】【センチュリオン】【ヴァルモニカ】
<発売後のテーマ評価>
<強化後のテーマ評価>
<総評>
B(良パック)です。
これは暫定評価で、近いうちに少なくともAには格上げされるかと思います。
まだ新しいパックで、各テーマの評価には変動が見られると思うので、突っ込んだ記述は差し控えます。
まず【ヴァルモニカ】ですが、初出の衝撃的な弱さが語り草です。やりたいことはわかるがギミック過多すぎてろくに回せない、実質的な切り札が《バグースカ》ということで大いにネタにされました。
ただ、程なくして《セレトリーチェ》という強化を得てひとまず想定通りに遊べる形にはなり、《ヴァーラル》の登場によりデッキとして完成する、という経緯を辿ります。
細々と入賞報告もあり、少なくとも大会に持ち込んでも鼻で笑われるようなデッキではなくなったと言えるでしょう。今後の強化にも期待です。
続いて【メメント】ですが、これがこのパックのダークホースでした。初期のバニラのリメイクというネタ的なコンセプトで、初出の段階ではあまり強くなかったのですが、4弾続けて非常に的確なレギュラー強化をもらい一躍環境に躍り出ています。
現在進行系で強化され活躍しているテーマなので多くは語りませんが、もしかしたらこの記事が皆さまの目に触れる頃には何かしら規制されてS判定になっているかもしれません。それほどに強力なテーマです。
最後に【センチュリオン】の話です。
このテーマは、過小評価も過大評価もされがちという不思議なデッキで、客観的に見ればTier2の環境デッキであることには違いないのですが、その評価は人によってまちまちです。以下、詳述します。
【センチュリオン】は、非常に安定した基板から複数の12シンクロ+リソースを構えることができるミッドレンジデッキです。
当初は《カラミティ》も現役だったため、これを構えることが至上命題だったかのように語られますが、これは少し違います。強さの本質はギミックそのものにあり、《カラミティ》はそこから繰り出せる中で最も勝利に貢献しやすいカードだったというだけで、一蓮托生の存在ではありません。
冒頭の話に戻りますが、要は「《カラミティ》がいるから強かった」という過大評価、「《カラミティ》が消えて弱くなった」という過小評価の両方を耳にするのがこのデッキです。ですが、どちらも誤解で、「《カラミティ》がいてもそんなに強くなかったし、《カラミティ》が消えてもそんなに弱くなってない」と解釈すべきです。
感覚的には、【ヌメロン】の《ホープ・ゼアル》に近いカードかもしれません。
このデッキも、【メメント】ほどではないですが今のところ毎弾的確な強化をもらっており、今後次第でS判定になる可能性は十分にありそうです。
ところで、前弾で「女の子テーマ」が姿を消したのが不評だったのか、すぐさまパワーアップして帰ってきました。
明言はされないものの【ヴァルモニカ】【センチュリオン】と女の子テーマが2枠になっており、これはビルドパック初の試みです。加えて今回から、元のレアリティに関係なく特定のカードに上位レアリティが与えられるようになり、そのラインナップがいっそ清々しいまでに全員女の子です。
「パックを開ければ高額な女の子カードが入ってるかもしれない!」という期待感は大きく、この施策のせいでなかなか投げ売りされません。商法として成功だったと感じます。
3.評価まとめ
ここまで、歴代13パックの評価を行いました。
こう見ると過半数がA(神パック)以上の評価を得ており、おおむね良質な商品であることが伝わってきます。
その一方で、強化をもらってなおパッとしないC(塩パック)以下も4種類あり、冒頭でも断った通り少なからず格差はある、といったところです。
それではいよいよ、Sの中から最強王を、Dの中から最弱王をそれぞれ発表したいと思います。発表に入る前に、ノミネートされたタイトルをざっと振り返っておきましょう。
3-1.最強王ノミネート(4タイトル)
3-2.最弱王ノミネート(3タイトル)
4.最強王・最弱王決定!
4-1.栄えある最強王は……!
本記事における最強王の称号は、「シークレット・スレイヤーズ」に授与します。
選定の理由ですが、やはり発売時点の完成度が群を抜いている点です。
強化後のポテンシャルだけで比較すれば「アメイジング・ディフェンダーズ」の方が上と言えますが、今回の趣旨に照らすと、パック内における完成度の高さを大きく評価したいと思います。
悩ましいのは「グランド・クリエイターズ」「タクティカル・マスターズ」との比較で、最初から完成形の環境テーマを擁していたという観点ではこれらも同格です。また、【エルドリッチ】【アダマシア】が"群雄割拠環境の一角"であったのに対し、【勇者】は「勇者の仲間に非ずはデッキに非ず」の排他的な環境を作り上げた点、【神碑】はそれまで大人しかった置物カードを引っ張り出して環境を荒らした前歴があり、単純なインパクトだけを比較するならそちらに後れを取るかもしれません。
それでもなお「シークレット・スレイヤーズ」の勝利としたいのは、最初から環境級のテーマを2つ擁していた点、そのどちらもパック内の新規カード+再録カードでほぼ形になった点です。(アダマシアには《コアキメイル・ガーディアン》くらいは加えるべきですが、それでも諸悪の根源たる《ブロックドラゴン》は再録されており十分構築可能でした。)
【勇者】も【神碑】も相性のよいテーマや既存カードとの組み合わせで輝くものであり、該当パックを買うだけではデッキになりません。特に【勇者】はその傾向が強く、単体で強さが測りにくいために大流行を予想できた人は少なかった印象です。ここが一線を画すポイントです。「シークレット・スレイヤーズ」は、とにかく商品単体で見た時の完成度がずば抜けており、誰が見ても強い、すぐに組める2つの優良デッキをもたらしてくれました。
これで【六花】が弱デッキのままなら判断に迷ったところですが、ご存知の通り優良強化により花を咲かせており、多くの愛好家を生み出すTier3テーマとして大成しています。そこも含めて、このパックを最強の座に置くことに違和感はないでしょう。
以上の要素から、2024年8月現在では「シークレット・スレイヤーズ」が最強と判定されました。毎弾このレベルのクオリティを期待してしまうのがデュエリストのサガです。今後のデッキビルドパックにも注目ですね。
4-2.栄えある(?)最弱王は……。
本記事における最弱王の称号は、「エンシェント・ガーディアンズ」に授与します。
非常に悩みました。
総合的な強さで言えば「スピリット・ウォリアーズ」の方がひどいですし、正直そちらが最弱だろうと思って書き始めたのですが、その上でこのパックが選定された理由は以下となります。
複数回のレギュラー強化をもらってなお評価が変わらなかったこと。
「ビルドのテーマは後から強くなるもの」という共通認識が浸透した後に登場し、その法則を破ってしまったこと。
ありていに言えばプレイヤーの期待を裏切った罪深いパックです。強化の不文律ができる前の「スピリット・ウォリアーズ」「インフィニティ・チェイサーズ」を青田買いした人は少なかったと思いますが、このパックに関しては「絶対に強くなる」と信じて先行投資した人(※筆者)がそれなりにいた印象です。結果は知ってのとおりです……。
単純に各々のテーマの完成度も低く、とりわけ「引き算シンクロ」「音階スケール」という発想先行で作られたと思しき【ベアルクティ】【ドレミコード】は練りこみ不足と言わざるを得ません。言ってしまえばこれらのギミックは”縛り”でしかないのですが、それを個性と解釈したようなカードデザインがなされた結果、全体的なカードパワーが低くなってしまったようなきらいがあります。
また、同じく最弱候補となる「スピリット・ウォリアーズ」「インフィニティ・チェイサーズ」は、それぞれ「【魔弾】がいるからマシ」「【呪眼】があるからギリ耐え」と主張することができます。「エンシェント・ガーディアンズ」におけるそれは【溟界】なのですが……。無理があるでしょう、正直。
【溟界】は、【爬虫類GS】という発展途上のデッキにおける中核を担う重要なテーマではあります。しかしテーマ単体で完結はしないですし、GSの観点で見ても足りないものが多い種族です。単純な話、「【魔弾】【呪眼】【溟界】のどれかでCSに出ろ」と言われて【溟界】を選ぶ人はまずいないでしょう。
これらの要素を複合し考慮した結果、2024年8月現在では「エンシェント・ガーディアンズ」が最弱と判定されました。これを下回るようなパックが今後生まれないことを祈るばかりです。
5.おわりに
いかがでしたでしょうか?
「たまにはエンタメ的な記事にも挑戦しよう」と思って軽い気持ちで書き始めたのですが、思いのほか筆が乗りかなりの長文記事になりました。
ここまでお読みいただいた皆様には感謝しかございません。
否定的な見解も示しましたが、私は「デッキビルドパック」という販売形態そのものは高く評価しています。デベロップ面での負担が相当大きいと思いますが、それでも「半年に1度、3テーマ」というスパンをほぼ崩さずクオリティの高いテーマを輩出し続けているのは流石に言うべきです。時折、疲れたかのように差し挟まれる練り込みの甘いテーマも、それはそれで人間臭くて好きです。(問題は、そういうテーマはえてして強化まで調整不足になりがちなところですが……)
それにしても、環境やカード単位ではなく、特定のパックシリーズを通して遊戯王の歴史を振り返るのは中々に面白く、新鮮な体験でした。
ご好評いただけるようでしたら、今度はストラクチャーデッキや他のコンセプトパックでもやってみたいと思います。
ご高覧ありがとうございました!