基本計画の策定は、課題の本質を見極め、重要な方向性を見極めるとても大切な作業だ。

今では法的な位置づけは無くなったとは言え、まだ多くの自治体で推進される総合振興計画は、だいたい3段階(基本構想・基本計画・実施計画)で構成されることが多い。

基本構想では長期的な観点から市の在るべき姿が描かれ、基本計画では課題とその解決に向けた方向性が明確になり、実施計画では、上位の2計画に記された目標に妥当な各事業が位置づくことで、その手法や事業目標が明確化される。

実施計画は、具体的な手法と、それにより目指される目標が明確に示されるので、たいへん簡潔で分かりやすいものだ。

その一方で、基本計画は、課題の認識とその解決に向けた方向性が描かれるだけで、具体性が無く、一見とても分かりずらいものになる。

しかしながら、基本計画というものは、その策定の過程で市民から多くの具体的な意見やニーズを拾い上げ、それを踏まえた審議会等の審議を経て、課題の本質が捉えられ、課題の抽象化、総合化がなされていくものである。

基本計画の記述としては、一見具体性がなく理解しずらいと思われる抽象的な表現が多いのだが、“抽象的な表現”にはそれなりの意味がある。

つまり、あまりに手法まで細かく明確にしてしまうと、それにより目指す“結果”も具体的なものに限定されてしまうということだ。

実際に課題を解決するプロセスを踏んでみると、予想外の状況に出会うこともあるだろう。

そういう時に、解決の方向性に沿いながらも、柔軟に手法を変更することが可能になる。

つまり、その時々で利益が多いと思われる適切な手法を臨機応変に選択できるようになるのが“抽象性”の利点なのだ。

抽象化、総合化、曖昧さ(?)の意義っていうものも、確かに大切なものなのだ。

じゃ、曖昧さを残す基本計画の策定にはそんなに気を使わないでも済むのかというと、実は実施計画よりも遥かに気を張らなければいけない作業がある。

それが課題(イシュー)の抽出、本質の掘り起しだ。

前々から思っていることだが、例えば待機児童の問題が巷でも新聞紙上でもたいへん声高に語られることが多い。その解決策としては、保育園の受入児童数を増
やせというものが圧倒的に多い。

しかし、これが課題の本質だろうか。それは目に見える“現象”を解決しようとしているのに過ぎないのではないだろうか。

この”現象“を起こしている原因をさらに探りながら課題の本質を見極めて、その対応を図ることが必要なのではないだろうか。

子育て世代の家庭からは、ワーク・ライフ・バランスの推進も期待されている。
ワーク・ライフ・バランスというか、お母さんだけでなく、もちろんお父さんも柔軟に働くことができる状態が望まれている。

また、アメリカには“ガラスの天井”という言葉がある。

会社では男女が一見平等に雇用されているようでありながら、女性の昇進には目に見えない天井があると、自由・平等の国と言われるアメリカにさえ、女性のキ
ャリアパスを阻む見えざる障害があるということを揶揄する用語である。

1980年代に、アメリカ政府は、職場の中で女性やマイノリティの昇進が事実上妨げられていることを、この用語を報告書に引用することで認めた。

アメリカの1980年代は、産業構造が大きく変化し、女性の力を社会が必要としながらも、女性が働く環境がしっかりと整ってはいなかった。

それでは、アメリカはこの“ガラスの天井”を雇用制度の課題として捉えたのかと言うとそうではなく、より課題を掘り下げ、男女共同参画の課題と捉え、ワーク・
ライフ・バランスの推進を男女共同参画推進の目標として位置付けた。

日本政府においても、ワーク・ライフ・バランスの推進は、内閣府の男女共同参画担当が所管している。

子育ての“現象”から見ると、待機児童の解消も、保育定員を増やせば良いのだという話になってこようが、実際は男女共同参画の課題、女性の権利の課題、性別による固定的な役割分担意識による社会慣行こそ本質的な課題なのではないかと推測をすることもできるのではないか。

このように、本質を見据えず、上辺の“現象”だけを捉えて、場当たり的に課題と解決の方向性を位置付けても、実施計画に妥当な手法が位置づくとは到底思えない。

課題の本質を押さえることは極めて大切であり、基本計画の策定は、その課題の本質を見極め、本当に重要な方向性を見極めるとても大切な作業なのである。
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