マッサンのブロール構築記 ㊼群衆の威光、ヴラスカ
1.はじめに
初めて彼女を見たときの印象は「クッソ眼光が怖い強烈なオバ…お姉さま」という印象だった。ストーリー上もチョロっと出てきただけだったし、まあティボルトのような何かだろうなくらいに考えていた。それくらい影の薄いプレインズウォーカーだった記憶がある。
そして時は一気に流れてイクサラン。彼女が帰ってくるという話が出てきて、筆者は「いたねえそんな人」くらいに思っていた。
が、まさかの海賊の長という今までに見たことのないとんでもない再登場を果たす。更に、その強烈なファーストインパクトで終わることなく、ジェイスとのあまりに濃いラヴストーリーも展開。イクサランブロックが終わるころには「いいよね…いい…」と思うくらいに好きなプレインズウォーカーになっていた。
性能面でも恵まれており、当時のスタンダードにおける黒緑系のデッキがこぞってフィニッシャーとして採用していた。当時青白系のコントロールを使っていた筆者にとっては《スカラベの神》と並ぶ脅威であったような記憶がある。
そしてその後、ラヴニカブロックにて再び収録。モブに片足を突っ込んでいた彼女がなんということでしょう。何らかの力によってギルドマスターとして君臨しての再登場となった。
性能面では…どうだろう。場に定着すれば一定の働きはするが、いかんせん他に強烈な選択肢があったため、あまりスタンダードでは見かけなかった記憶がある。それでも、生贄エンジンを回すことで勝利をつかむ「ゴルガリサクリファイス」などで採用されて所を見かけたような記憶もあるので、完全に使われなかったわけではなさそうだ。
以上が、今では主要キャラクターの一人にまでなったプレインズウォーカー、「ヴラスカ」が今の地位を築き上げるまでの変遷と筆者の思い出である。正直色々あったがここまで中心的なキャラクターになるとは思わなかった。過去の自分に「数年後にMTGストーリーのメインヒロインになる」と言っても信じないだろう。
ちなみに彼女、ボーラスのラヴニカ進行の原因を作り上げてしまい、この後なんやかんやあって「なんてことだ…なんてことだ…」と自責の念に駆られることとなる。が、かつての恋人であるジェイスと合流し、ラヴニカを守るためギルドマスターの地位も何もかもうっちゃって、一人のプレインズウォーカーとして決起し、群衆を率いて巨悪に立ち向かうことになる。
そんな彼女の、恐らく最も輝いているであろう姿をカード化したものがコチラ。
《群衆の威光、ヴラスカ》
ここまでの話を聞いてお出しされたのがアンコモンのプレインズウォーカーなので正直物足りない所はあるかもしれない。というか恐らく緑黒のプレインズウォーカーが現状ヴラスカしかいないので、しょうがなくリミテッド的な何かの理由でここにいらっしゃるのだろう。そうでも考えないと説明がつかないアンバランスさである。
まあ、正直レアリティがアンコモンだからという理由でこの記事で取り上げないということもないだろう。今日はその大出世したプレインズウォーカーのブラスカお姉さまを使って、我々のブロールデッキを指揮してもらおう。
2.こいつで何が出来るのか
さて、そんな大出世したヴラスカお姉さま、一体何が出来るのだろうか。能力を確認しよう。正直アンコモンプレインズウォーカーなので、出来ることは相当限られてるとは思うのだが…
《群集の威光、ヴラスカ》
2(B/G)(B/G)
伝説のプレインズウォーカー ― - ヴラスカ
初期忠誠度:5
あなたがコントロールしていて接死を持つクリーチャー1体がプレイヤー1人かプレインズウォーカー1体にダメージを与えるたび、そのクリーチャーの上に+1/+1カウンターを1個置く。
-2:接死と「このクリーチャーがプレインズウォーカー1体にダメージを与えるたび、そのプレインズウォーカーを破壊する。」を持つ黒の1/1の暗殺者・クリーチャー・トークンを1体生成する。
まず、今回使うヴラスカは「灯争大戦」のプレインズウォーカーである。従って、その身に常在型能力を宿している。今回彼女が何を出来るのかというと、接死を持ったクリーチャーが相手に戦闘ダメージを与えた場合、そのクリーチャーの上に+1/+1カウンターを置くことが出来る。
元々接死持ちのクリーチャーは、ダメージを与えてしまえば相手のクリーチャーを破壊出来るという性質上、あまりブロックされづらいクリーチャーなのである。従って、相手に戦闘ダメージを通すことも容易なはずである。
更に、手持ちに接死持ちのクリーチャーがいなくてもOK。なんとこのヴラスカ、忠誠度を削って接死を持った1/1暗殺者トークンを出すことが可能なのだ。しかもこの暗殺者トークン、なんとプレインズウォーカーにダメージを与えると即刻破壊可能というオマケまでついた高性能暗殺者なのである。
…などと書くと聞こえはいいが、問題もある。そう、灯争大戦のアンコモンプレインズウォーカーは共通して、「自力で忠誠度カウンターを増やせない」という特徴がある。ヴラスカの場合、初期忠誠度が5。で、一回トークンを出すたびに失う忠誠度が2。単純計算で2回トークンを出せばあとは盤面に立ち尽くすしかない。そんな欠陥も抱えたプレインズウォーカーなのだ。
実は過去に、似たようなプレインズウォーカーとして《群れの声、アーリン》を題材にしたことがあった。こちらは狼や狼男をバックアップする能力を持っており、本人も身を削って狼を出すことが出来たりと、ある意味ヴラスカに似ている。
では、このアーリンで取った方針がそのままヴラスカで使えるのだろうか?その辺を次の項で確認していこう。
3.こいつでどうやって勝つのか
さて、ヴラスカの能力をまとめると以下のようになる。
・接死持ちのクリーチャーが相手を殴りつけるたびにカウンターを乗せて強化
・その気になれば接死持ちのトークンを供給可能(※最大2体まで)
まず、ヴラスカの常在型能力を活かすためには接死持ちのクリーチャーが必要ということがわかる。一応ヴラスカの能力で接死持ちのクリーチャーを出すことはできるとはいえ、先述した通り、出せる数に限度がある。
というわけで、接死を持っているクリーチャーを一定数採用してやる必要がある。この手のデッキにとって一番難しいのがこの点で、「環境にどれだけ条件に合致するカードがあるのか」ということに毎度悩まされる。先に挙げたアーリンなんかは環境に狼が数匹しかおらず、結局アーリンで数匹狼を出して無理やり圧殺するという方法をとらざるを得なかった。
果たして、環境に接死持ちのクリーチャーはどれだけいるのだろうか?…とまあ、もったいぶったが読者の皆様はご存じのことだろう。
現環境、接死持ちのクリーチャーはかなりの数がいるのである。というか当たり前の話で、「接死などの基本的な能力を持ったクリーチャーはセットを問わず収録する」というMTGの方針上、一定数以上の接死持ちのクリーチャーがいてもおかしくないだろう。アーリンとは事情が違うのである。
更に、接死を持ったクリーチャーは共通してマナコストが低いものが多い。つまり、接死を持ったクリーチャーを並べたあと、ヴラスカを設置して殴りつけ、順次クリーチャーを強化していくことも可能なのだ。接死持ちのクリーチャーの欠点として、パワーがそこまで高くないという点も、ヴラスカでうまくカバーできるのだ。
というわけで、今回の方針を「接死持ちのクリーチャーを中心としたアグロデッキを組む」としよう。
4.どうやってデッキを組むか
それでは、どういうカードを突っ込んでいくか見ていこう。
1.採用するべき接死持ち
まず、採用するべき接死持ちのクリーチャーだが、流石に片っ端から性能度外視で接死持ちのクリーチャーを集めてもちとパッとしない。ここは少し、性能にも気を使って接死持ちを採用していこう。
まずは、こういうクリーチャーはどうだろうか。
《穢れ沼の騎士》
B
クリーチャー ― - ゾンビ・騎士
1 / 1
接死
--------------------------------------------
《不敬な洞察》
2B
インスタント ― 出来事
あなたはカードを1枚引き、あなたは1点のライフを失う。(その後、このカードを追放する。あなたは後で追放領域からこのクリーチャーを唱えてもよい。)
そのまま運用すればただの1マナ1/1接死なのだが、出来事の方を使用すると3マナで1ドローできる。基本的には1ターン目に展開することが基本になりそうだが、後半引いてもドローに変換できる接死持ちとして活用できそうだ。
他には、こういう接死持ちはどうだろうか。
《オークヘイムの敵対者》
3G
クリーチャー ― - エルフ・戦士
2 / 3
対戦相手が緑のパーマネントをコントロールしているなら、この呪文を唱えるためのコストは2少なくなる。
接死
オークヘイムの敵対者がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、カードを1枚引く。
普通に運用すれば4マナ2/3接死だが、相手が緑のパーマネントを管理しているときに限り2マナで運用できる。相手が緑のパーマネントを管理しているかはわからないが、その場合も運用できるので安心だ。2マナで出せたらラッキー程度に考えていればいいだろう。
能力も優れており、相手に戦闘ダメージを与えるたびにカードを1枚引いてこれる。アグロデッキ故手札がカツカツになりがちなのがこのデッキの難点だが、このように手札を増やすことが出来る手段も用意しておくと心強い。
イコリアでこういうクリーチャーも追加された。
《不気味舞い》
1BB
クリーチャー ― - ナイトメア
3 / 3
不気味舞いは、威迫か接死か絆魂のうちあなたが選んだ異なるカウンター2個が置かれた状態で戦場に出る。
イコリア名物「能力カウンター」を乗せられるクリーチャーである。こいつは接死、威迫、絆魂カウンターのうち、3つの中から2つ選んで乗せられる。ヴラスカとの噛みあい上、どうしても接死は選ぶ必要があるので、残りは威迫か絆魂のどちらかである。3マナ3/3で接死+威迫か絆魂。十分やっていける性能である。使ってやりたい。
そして、最後に紹介するのが「基本セット2021」で追加されたこれである。
《頭巾様の荒廃牙》
2B
クリーチャー ― - 蛇
1 / 4
接死
あなたがコントロールしていて接死を持つクリーチャーが1体攻撃するたび、各対戦相手はそれぞれ1点のライフを失い、あなたは1点のライフを得る。
あなたがコントロールしていて接死を持つクリーチャー1体がプレインズウォーカー1体にダメージを与えるたび、そのプレインズウォーカーを破壊する。
なんと、接死を持ったクリーチャーが殴りつけるたび、相手からライフを1点吸い取れる能力を持ったクリーチャーである。直接ライフを詰められるので、拮抗した盤面でも最後にライフをかっさらう手段としてうってつけである。
更に、接死を持ったクリーチャーがプレインズウォーカーにダメージを与えると、そのプレインズウォーカーも破壊できるようになる。ヴラスカが生み出すクリーチャーと同様の能力を付与できるのだ。実質ヴラスカと考えていいだろう。
2.どうやってクリーチャーを強化する?
さて、実はこれについても考えてやる必要がある。見てきて分かるように、接死がついている分クリーチャーの質自体はあまりよろしくない。で、本来であればこれをヴラスカでバックアップするのだが、ヴラスカだけで勝てるほど残念ながらこのカードゲームは甘くない。というわけで、追加の強化手段を考えてやろう。
色々考えたが、ヴラスカの能力に注目してみよう。+1/+1カウンターを置いて強化する能力を持っている。つまり、一回置いたカウンターを増やしていく路線が一番いいだろう。
そう、このヴラスカと同じ「灯争大戦」で収録された「増殖」の出番である。+1/+1カウンターを増やす以外にも、ヴラスカのマイナス起動型能力で減った忠誠度カウンターを回復させる意味合いも強い。一石二鳥なこの能力、使ってあげる必要があるだろう。
実は増殖に関しては、結構初めの方の記事でまとめたのだが、せっかくなのでここでもう一度、どういうカードが使えそうか見てあげてもいいだろう。
まずは、恒常的に増殖が可能なこのクリーチャーである。
《進化の賢者》
2G
クリーチャー ― - エルフ・ドルイド
3 / 2
土地が1つあなたのコントロール下で戦場に出るたび、増殖を行う。(望む数のパーマネントやプレイヤーを選び、その後すでにそこにあるカウンター1種類につき、そのカウンターをもう1個与える。)
土地を置くたびに増殖を行うことが出来るクリーチャーである。毎ターン土地を置いて+1/+1カウンターを増やされ続けると、相手もかなり厳しいものがあるだろう。後半引いても無用である土地を強化手段として運用できるのもかなり点数が高い。
また、同じく恒常的な増殖手段として、こういうものも採用できるだろう。
《カーンの拠点》
土地
T:◇を加える。
4, T:増殖を行う。(望む数のパーマネントやプレイヤーを選び、その後すでにそこにあるカウンター1種類につき、そのカウンターをもう1個与える。)
こちらは4マナ払ってタップすることで増殖を行うことが出来る。運用にマナがかかるので運用しづらい印象を受けるかもしれないが、上の《進化の賢者》と異なり土地なので割られにくいという特徴も持つ。また、序盤はマナソースとして利用できるということも忘れてはいけない。
更に、増殖ではないのだが、こういうアーティファクトも便利だろう。
《オゾリス》
1
伝説のアーティファクト
あなたがコントロールしているクリーチャーが1体戦場を離れるたび、それの上にカウンターが置かれていた場合、オゾリスの上にそれらのカウンターを置く。
あなたのターンの戦闘の開始時に、オゾリスの上にカウンターが置かれていた場合、クリーチャー1体を対象とする。あなたはオゾリスの上からすべてのカウンターをそれの上に移動してもよい。
今回組むデッキはいかんせんアグロデッキなので、クリーチャーを延々とプチプチ除去されるとかなり辛い。が、コイツがいれば話は別だ。クリーチャーの上に乗ってあるカウンターをクリーチャーが場を離れた際にこの上に貯蓄して置ける。で、戦闘開始時、オゾリスに貯蔵したカウンターをクリーチャーの上に置くことが出来る。つまり、乗せたカウンターを無駄遣いしなくてよくなるのである。使ってやろう。
5.サンプルデッキ
これが、ヴラスカ率いる接死軍団デッキである。例によってアリーナで使えるデッキリストを下に乗せた。ダウンロードして君もラヴニカを守る戦いに参加しよう!ラヴニカやってたのはもう1年前だろとかいうツッコミはやめようね!
(画像クリックでGoldfishに飛びます)
流石に環境末期とあって、質の高い接死持ちのクリーチャーを多数採用することが出来た。こいつらをパッパと展開し、ヴラスカでバックアップして一気に殴りぬいて行け!
ただ、もともとのスペックが微妙な生き物を主体としている以上、相手のブロッカー一体を処理できず完全沈黙ということもあり得る。そのために、多少の除去は入れておいた方がいいだろう。特に、自分のクリーチャーを用いて相手にダメージを与えられる《狂気の一咬み》なんかは、接死クリーチャーまみれのこの環境では確定除去としてふるまえる。
お試しで《ガラクの蜂起》を採用。ぶっちゃけデッキ内にパワー4以上のクリーチャーは数枚しかないのでドローには期待していない。が、本命は別のところにある。接死持ちにトランプルをつけることを想定しての運用なのだ。皆様ご存じの通り、接死持ちにトランプルをつけると非常に効率よくダメージを与えることが出来る。この辺の説明は非常に面倒くさいので、各自「接死 トランプル」でググってほしい。
6.終わりに
今回は、ヴラスカを主軸に「接死」をテーマとしたアグロデッキを組んでみた。うまくクリーチャーを展開し、4マナヴラスカまでつなげられるかどうかが肝だが、つながって回り始めると、見た目以上の打点をたたき出すことが出来る。是非、皆様もお試しで使ってもらいたい。
さて、実は今回も裏のテーマとして「ローテーションで変わる前に現環境を振り返る」ことを念頭に記事を書いてある。今回の裏テーマはズバリ、「灯争大戦で焦点が当たった能力やカード」である。
まず、灯争大戦では今回使ったヴラスカのように、「常在型能力を持ったプレインズウォーカー」が多数再録された。忠誠度能力を使わなくてもプレインズウォーカーが活躍できるようになり、プレインズウォーカーのデザインの奥行をグッと広げた、いい試みであったと筆者は思う。
が、それは同時に、業を背負うデザインであったことも意味する。ただでさえ除去がしにくいプレインズウォーカー。それに常在型能力をくっつけることでとんでもない反応を示したカードが散見された。中にはあまりに強力なカードになってしまい、ストーリー上何も落ち度がないのに、一身にプレイヤーのヘイトを買ってしまうプレインズウォーカーも見受けられた。
正直、プレインズウォーカーは忠誠度能力以上の働きをしなくてもいいんじゃないか。そう思う方も大勢いるだろう。正直なところ、流石にやりすぎではと思うカードが散見された以上、今後このような常在型能力を持ったプレインズウォーカーは現れないだろう。
そしてもう一個は「増殖」メカニズムである。+1/+1カウンターを増やすだけでなく、忠誠度カウンターも増やしてあげられるということで投入されたメカニズムであったのだろう。
もちろん、リミテッド的なところでは、忠誠度カウンターを使い切ったプレインズウォーカーを再生させる、単純にクリーチャーのサイズを大きくするなど、活躍したところも多いかもしれない。しかし、残念ながら構築ではついぞ見かけることがなかった能力である。正直、上記の「常在型能力を持ったプレインズウォーカー」のほうが環境に与えたインパクトは絶大なものだっただろう。
だが、完全に行き場を失ったのかというとそういうわけでもない。例えば統率者などで、増殖をテーマにしたデッキを組む際に重宝するだろう。特定の能力を持つカードは、巡り巡ってきっと活躍できる場があるのだ。
総じてカードパワーが高く、かつ物議をかもしたエキスパンション「灯争大戦」。環境を支配したあんなカードやこんなカードも、今月末には使えなくなる。是非とも使える間に今一度使ってあげてほしい。
そういえば、灯争大戦のストーリー終盤、ついにジェイスは結ばれることになったヴラスカだが、そのジェイスが次のエキスパンション「ゼンディカーの夜明け」に収録が決まっているのだ。
これは是非とも、緑黒のプレインズウォーカー、そしてジェイスのパートナーとしてヴラスカにも出演してほしい所である。
…ん?何だこのカード…?
ゲートウォッチ兼地元住民には勝てなかったよ…