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世知辛い世の中
2002年8月27日の日記です。昨日の夕方記事の後日談です。
8月23日、その日休みだったぼくは、野暮用で朝から会社に来ていた。午前11時に、ようやくその野暮用が終わり、家に帰ろうとした。
その時だった。一人の品のいい年配の男の人が「店長さんいますか」と言って、事務所に入ってきた。ぼくは店内放送で店長を呼んだ。
店長とその男性は、倉庫でしばらく話をしていたが、「その件は私は知りません」と言う店長の声が聞こえた。そして店長は「新谷君」とぼくを呼んだ。
「1月に屋上で人が倒れとった話を知っとるかねえ」
「ああ、知ってますよ」
「誰が担当したんかねえ」
「一応、第一発見者は、ぼくということになっていますけど」
「ちょうどよかった。この方が話があるらしいよ」
そう言って店長はその場を離れた。
この店長は最近転勤してきたばかりで、そんな事件があったことは知らない。
さっそくその男性は、ぼくに名刺を見せた。名刺に書いてある社名では、その仕事の内容がわからなかったが、その男性の説明で興信所みたいな会社だということがわかった。その人は、あの時倒れていたおっさんの調査をしにきたのだ。
その人が調査を始める前に、ぼくは
「あの人どうなったんですか?」と尋ねた。
「救急車で病院に運ばれた後、しばらく意識があったんですが、その後意識がなくなって、植物状態になりました。そして先々月、6月に急性肺炎で亡くなりました」
「ああ、亡くなったんですか」
調査が始まった。
「そのときの状況を教えて下さい。まず、倒れていたのはどこですか?」
「こちらです」と言って、ぼくは屋上までその人を連れて行った。
「どこに血が流れていたのですか?」
「この辺一帯です」
「小便をしていたらしいですね?」
「それはこの壁です」
「吐いた跡もあったとか」
「えっ、吐いた跡?あったかなぁ・・」
「お酒を飲んでなかったですか?」
「すいません、よく憶えてないです」
彼は20分ほどぼくに質問して、帰って行った。
「あ、そうだった!」
興信所の人が帰った後、ぼくは、あの時の状況を日記(ブログ)に書いていたのを思い出した。
日記を開いてみると、おっさんは酒気帯び運転で店まで来ていたと書いている。あいまいな受け答えをするよりも、その日記を見せてやればよかった。
しかし、何で興信所の人が来たのだろう?どこかに依頼されたので調べていたのだと思うのだが、依頼主をその人は明かさなかった。もしかして、あの事故は、最初の推理通り事件だったのか。いや、それなら興信所ではなく、刑事が来るはずだ。ということは、保険会社からの依頼されたのか。
そういえば、あの事故の後、前の店長が
おっさんには一人娘がいると言っていた。なんでも、おっさんとその娘は仲が悪く、絶縁状態なんだとか。
「警察が身元を確認のために娘を呼んだら、『そんな人知りません!』と言って行くのを拒んだらしいよ」(前の店長談)
やはり、保険会社からの依頼なんだろうな。父親であるおっさんが死んだので、保険金を請求したのだろう。それで保険会社は、興信所に事故の模様を調べさせた。興信所の人が、ぼくに飲酒のことを聞いてきたのも、そういう理由があったからだと思う。それに早く気づいていたら、「おっさんは泥酔状態で運転して来ましたよ」と、言ってやればよかった。
しかし、生きている時は知らない人、死んだら父親って。世知辛い世の中である。