トイレのお話
1.
最近ショッピングセンターなどのトイレに行くと、『男子トイレ』『女子トイレ』などという文字で表記したところが少いように感じる。いや、ほとんど見なくなっていると言ってもいい。
代わりに色の違う人の画が貼ってあるだけだ。だいたい男子が黒や青といった寒色系で、女子が赤やピンクといった暖色系で色分けしている。日本人は、普通にそういうイメージを持っているわけだから、それでいいのかもしれない。
だが、顔の洗い方が民族によって違うように、ドアノックの仕方が国によって違うように、男女のイメージ色もきっと違いがあるはずだ。
もし日本人とは逆の色イメージを持っている民族が、色分け表記のトイレを利用するとしたら、ちゃんと日本人と同じ感覚でやってくれるのだろうか。
いやですよ、のんびりと用を足している時に、突然外国人女性なんかが入ってきたら。しかもそれが自己主張の強い民族だとしたら、きっとギャーギャー騒ぎ出すことだろう。
2.
高校を卒業してから、ぼくはしばらく予備校に通っていたのだが、そこのトイレも色別画表記で男女の区別をしていただけで、文字での表記はされてなかった。しかもそのパネルがやけに小さかった。
ぼくたちのような常駐派は慣れていたのでそれでもよかったのだが、外部からきた人間にはわかりづらいものだったに違いない。
一度こんなことがあった。模試を受けに来ていた外部の女子が、ノコノコと男子トイレに入ってきたのだ。
普通、そこに男子しかいなければ、「間違えた」と思って外に出るだろうが、その女子は違った。中にはぼくを含めてけっこう男子がいたのに、意に介したふうもなく、トコトコと男子の間を通り抜けて、サッサと個室に入っていったのだった。
これがもし逆のパターンだったら、女子たちは「ここ女子トイレですよ」と怒り口調で言ったり、「キャーキャー」と騒ぎ出したりするのだろう。
しかし男子の場合は、「ここ男子トイレですよ」という言葉を発する勇気がないのか、それともそういう場所で女子に声をかけたりすると「変態と思われるかもしれん」という意識が働くのか、そのへんはよくわからないが、とっさの時に女子のような毅然とした態度が取れないものだ。
ということで、彼女が個室に入ったとたん、そこにいた男子は全員、慌てて外に出たのだった。