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架空の履歴

  昔、柔道をやっている時に、絞め技で落とされたことがある。仮死状態になったわけだ。

  その時ぼくが見たのは薄いピンク色の世界で、遠くから子供たちの遊ぶ声が聞こえていた。柔らかい日差しの中にぼくはたたずみ、えらく懐かしく優しい気持ちでその時を過ごしていた。

 それからしばらくして、どこからともなくぼくを呼ぶ声が聞こえた。その声の方向に顔を向けたとたんに、ぼくは現実に戻った。その瞬間、
「何でこんなところにいるんだろう」とぼくは思ったのだった。

 今でも、落ちた時のことを思い出すこことがあるが、なぜか優しい気持ちになる。それはあの場所が、生命の原点だからではないのだろうか。

 それとは別に思うことがある。実は、ぼくはあの時点で死んでいて、現実と思って生きてきた道は、ぼくという自我がイメージした架空の履歴ではないのだろうかと。

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