真夜中のピーンポーン
今のマンションに住み始めて10年ほど経った頃からだったか、真夜中(午前2時か3時頃)に「ピーンポーン」というインターホンのチャイムの音が聞こえるようになった。
同じ夜中でも12時前後なら、「誰だこんな時間に、非常識な」と怒りを覚えるのだが、時間が時間だ。それはそれは怖くて、一度は寝たふりを決め込んだ。しかし二度三度と鳴るもんだから、放ってはおけない。ぼくは恐る恐る玄関まで行き、そっと覗き窓から外を見てみた。ところが誰もいない。
「おかしいなあ」と、勇気を振り絞り扉を開けてみた。結局誰も見当たらず、ぼくは布団に戻ったのだった。
それから年に一度二度、真夜中の「ピーンポーン」が鳴るようになった。何年か後の二月のこと、ちょうど上の詩を書いた頃だ。その年初めての『真夜中ピーンポーン』が鳴った。
その日は風が強い日だった。と、ぼくはその時気がついた。その前に『真夜中ピーンポーン』が鳴ったのは秋で、その日は台風だった。
もしやと思い、同じマンションに住む方に、
「真夜中にチャイムが鳴りませんでしたか?」
と聞いてみた。すると、その方は、
「鳴りました。時々なるんで気持ち悪くて」
と言った。
それで合点がいった。「ピーンポーン」とチャイムを鳴らすのは風だったのだ。後に調べたら、強風の影響で呼び鈴が反応することがある、ということがわかった。
一応これで安心したのだが、やはり『真夜中ピーンポーン』は気味が悪い。
そのせいかどうかはわからないが、マンション全体のインターホンを取り替えることになり、昨年その工事が終わった。
とりあえずそれ以降、『真夜中ピーンポーン』は鳴ってない。