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おじちゃん1
「おじちゃん」
ぼくに対してその言葉が初めて使われたのは、高校1年の夏休み、横須賀の叔父の家に遊びに行っていた時のことだった。当時叔父の家には風呂がなかった。そのため、叔父の家に滞在中は毎日銭湯に通ったものだ。
そんなある日のこと、その日は叔母といっしょに銭湯に行っていた。先にぼくが風呂から上がったようで、外に出てもまだ叔母の姿はなかった。そこで叔母が上がってくるのを待っていたのだが、その時女湯の出入り口からから2,3歳の小さな女の子が出てきた。出入り口の奥から
「○○ちゃん、待ちなさい」という声が聞こえた。その声の持ち主は、おそらくその子の母親のものだったろう。しかし、女の子は言うことを聞かず、とことこと通りに向かって歩き出した。
ちょうどぼくの前にさしかかった時だった。女の子はぼくの存在に気づいたようで、そこで立ち止まった。そしてぼくのほうを見て、満面の笑みを浮かべ、その言葉を吐いた。
「おじちゃん」
高校1年とはいえ、誕生日が来ていなかったので、ぼくはまだ15歳だった。いくら言葉の意味のわからない女の子が言ったとはいえ、その時のショックは大きかった。ぼくは「おにいさんだろうが」と言おうとしたが、そのせいでぼくの口は開かなかった。