修学旅行
秋風の吹く晴天の富士スバルラインを
バスは軽快に登っていく。
バスガイドの説明そっちのけで
ぼくたちは好き勝手に歌をうたう。
誰かが『岬めぐり』を歌っている時、
窓から湖が見えてきた。
それが思い出のひとつになった。
白糸の滝で濡れながらの写真撮影。
他のクラスの記念写真に
霊の手が写っているとわかったのは、
修学旅行が終わって数日後のことだった。
とりあえずその時は滝に濡れた記念撮影、
それが思い出のひとつになった。
修学旅行生がおみやげ屋に殺到し、
どこにでもあるような土産を買っている。
ぼくたちはそれを尻目に
試食品を食べあさる。
友人が試食品を箱ごと持ってきたものの、
おいしくなかったのでえらく後悔している。
それが思い出のひとつになった。
この日長嶋茂雄の引退試合があった。
その時のセリフがこの先何年も何十年も
語り継がれていくことになるのだが、
ぼくのクラスの人間は長嶋よりも
富士急ハイランドのバッティングセンターで
野球部所属の級友が、
一球もかすりもせずに三振したことに関心を示した。
誰かが「甲子園は無理だな」と言った。
それを聞いて、全員うなずいた。
それが思い出のひとつになった。
ぼくたちの修学旅行は富士山から始まった。
そこから始まる思い出のひとつひとつが
いくつもいくつも重なって、
今では高校時代という
ひとつの思い出になっている。