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あまり嬉しくない後輩2
しばらくして、ローンの承認が下りた。
「お待たせしました」と、ぼくは彼に商品を手渡した。
その時だった。彼はぼくの顔をのぞき込んだ。
「あのー、どこかで会ったことありませんかねー? 失礼ですが、中学どこでしたかー?」
「・・H中ですけど」
「お名前、なんと言うんですかー?」
「しんたにですけど」
「ああ、しんたにさん。あのー、わたしのこと覚えてませんかー?」
ぼくはわざとその人の顔をのぞき込み、
「そういえばどこかで見たような」
と、その時初めて気がついたような顔をした。
「やっぱり。いやー、最初からどこかで会ったような気がしてたんですよー。お久しぶりでーす」
急に彼は饒舌になった。
「しばらくこちらを離れていたもんで、こちらの人の顔を忘れてましたよ」
「離れていた? どこにおったと?」
「いやー、ちょっと遠いところに。ははは」
ちょっと遠いところ、こういう人たちの言う『遠いところ』といえば、相場が知れている。中学時代の後輩とはいえ、どうもこの手の人間は苦手である。おまけに『遠いところ』に行っていたなどという話を聞かされたものだから、こちらの気は乗らない。にもかかわらず、彼の話は終わらない。最後には相づちを打つだけになっていた。
およそ30分後、彼は「じゃあ、またきまーす」 と言って帰っていった。
「あいつ今何をやっているんだろう?」
という疑問を持ったぼくは、ローン用紙に書かれている職業欄を見た。
「やっぱり…」
それ関係の仕事をやっていた。