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あなたがほしい(前編)
前に会社にいた頃、ぼくは月曜日になると、いつも行きつけのスナックに飲みに行っていた。なぜ月曜日かというと、翌日の火曜日が休みだったからだ。そこで弾き語りをしたり、ママさんや他のお客さんとおしゃべりをしたりして楽しんでいた。
ある日、いつものように他のお客さんと談笑している時だった。バタッとドアの開く音がした。見ると女性客が三人立っていた。
どの人も、ぼくよりは確実に10歳以上年が上だった。当時ぼくは30代の前半だったから、その人たちは40代だったのだろう。三人のうち一人は、時々見かける顔だったが、あとの二人は初めて見る顔だった。
三人は店の中を見回すと、「今日はやめとこうか」と言って店を出て行った。それを見てママさんは、三人を追いかけていった。10分ほどして、ママさんは三人を連れて戻ってきた。
「今日のお客さんは、心許せる人たちばかりだから、心配せんでいいよ。さあお入り」
そう言って、ママさんはカウンターの隅に席を設けた。
ぼくたちは、三人を気にせずに、また談笑を始めた。一方の三人はというと、ぼくたちに聴かれまいとして、小声で話をしている。
ぼくは『三人とも暗い顔をして、いったい何を話しているんだろう』と思ったが、盗み聞きするのも悪いと思って、なるべくそちらに意識を持っていかないように心がけていた。
ところが、席が近かったせいもあり、聴くつもりがなくても、時折その会話が聞こえてくる。
「・・・、だから、・・・、ご主人・・・、まずいやろ?」
「でも、・・・、本当に、・・・、諦めきれない」
「いや、・・・、間違って、・・よ」
と、延々この調子だった。
その会話の断片を繋いでみると、どうも三人のうちの一人が不倫しているらしい。あとの二人は、相談に乗っているようだ。
『いったい誰が不倫してるんだろう?』
と、ぼくは横目で三人を見た。
時々見かける人は、相談に乗っているようだから、あとの二人のうちの一人がそうなのだろう。その二人のうち一人は、どこでもいるような主婦だった。服装も地味で、『この人は、まずないだろう』というようなタイプだった。もう一人は、遊び慣れしたような感じのする人で、服装なんかもけっこう派手だった。
ということで、ぼくは『不倫女は、きっとあの派手女だろう』と思っていた。